カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.37
紹介書籍『正しいパンツのたたみ方』
2026年10月15日
text: Densuke Onodera
edit: Miu Nakamura
家庭科とパンク
十代の自分をつかまえて「おい少年、お前にとってパンクとはなんぞや?」と問えば、尖った目つきで「反抗」と答えるだろう。四十代のいま「おい中年、お前にとってのパンクとはなんぞや?」と問われれば、私はすわった目つきで「生活」と答える。
パンクバンドで収入を得て生活をしている、という意味ではない。労働して収入を得て、家事と育児をぐるぐる回して、わずかばかりの余暇を楽しむ。これが私の生活だ。
と言うと、尖った目をした十代の自分から「生活のどこがパンクなんじゃボケ」というツッコミが聞こえてくる。確かに、つつがない生活はパンクと無縁なように見えるだろう。
しかし、パンクスの反抗には「システムや権力に依存せず、自分の頭で考えて、自分のことは自分でやる」というDIY精神と、「自主独立しながら仲間と連帯する」というUNITYの土台が必要だ。自主独立しているから権力による支配に疑問を呈し、弱いもの同士が助け合うから反抗できる。
なので「実家暮らしで自分が食べる飯を自分で作らず、自分の脱いだパンツを自分で洗いもたたみもせず、生活の大部分を大人に依存しているくせに、パンクスの反抗的態度だけを切り取って大人に噛みつくのって、それってパンクなんですかね?なにかエビデンスあるんですか?」と詰めよったら、十代の自分は「DON’T TRUST OVER THIRTY!」とツバを吐いて立ち去るだろう。
私はその手を掴み『正しいパンツのたたみ方』を差し出したい。パンクスにとって重要な自主独立とはなんぞやを学べるからだ。
本書は大阪府で初の男性家庭科教員として教鞭をふるった南野忠晴氏による著書で、「新しい家庭科勉強法」という副題がつけられている。家庭科といえば、調理や裁縫といった実習から、栄養と健康、家族や福祉、消費や家計に関する講義まであったように記憶している。
学生の頃は舐めた態度で授業に臨んでいたが、受験科目でもない家庭科を学ぶ目的は「自立」で、それはパンクスのDIY精神に直結する。
著者は”自立できている人”を「人と助け合える関係を作れる人」だと言う。自分でなんとかできる力とマインド(DIY精神)を持っているからこそ、生活において助けたり助けられたりの関係(UNITY)をつくることができる。「自立」は「助け合い」とニコイチなのだ。
逆に言えば、自立と助け合いのマインドが共有されていなければ、「支配」や「依存」という関係に陥りやすい。生活の中で誰かに依存していたり、支配されている状態では、自分らしく豊かな生活を送ることは難しい。
例えば、一緒に暮らすパートナーから「パンツのたたみ方か違う!」と怒られ続けて辟易している人の事例が本書の中で紹介されている。世界共通の”正しい”パンツのたたみ方などなく、人によってさまざまなのに、自分のやり方を“正しさ”に変換して、話し合うこともせずパートナーに自分のやり方を強制させる・強制させられているという状態に、「支配」や「依存」の萌芽を見いだせる。
パンツのたたみ方は些末な事例だけど、家庭における「支配」や「依存」という関係性が行き着く最悪の状態はDVや虐待といった暴力だ。
「自立」をテーマにした本書は、生活的な自立や経済的な自立だけでなく、性的な自立まで踏み込んで「支配」や「依存」に陥らないための考え方が展開されている。支配を嫌悪し、全ての暴力に反対するパンクスにとって学ぶべきことがたくさん書かれている。
「FUCK SYSTEM」と叫びながら自分で食べる飯を自分でつくらずコンビニ弁当か外食産業に依存していたり、「DO IT YOURSELF」と言いながら家事をパートナーに任せっきりだったり、「NO WAR」を掲げながら家庭内で暴力をふるっているようでは、どんなにカッコいい音楽を奏でていようと「どこがパンクなんじゃボケ」とツッコミが入る。
経済的・生活的・精神的・性的にきちんと自立しながら、一緒に生活する人と助け合って暮らしていく。パンクスのDIY精神とUNITYの実践の場が家庭であり、反権力・反暴力は日々の生活にまで貫かれていなければならない。
しかしこれが難しく、労働のストレスから酒を飲みすぎて汚れた皿や干したパンツを放置してソファで爆睡したり、イヤイヤ期の子どもを自分の思い通りにコントロールしようとして後悔したり、些細なことで揉めては妻と家庭内冷戦に突入するなど、パンク的生活の実践者として私はまだまだ青二才で、いまもなおSALAD DAYSの中にいる。
そんな私にとって『正しいパンツのたたみ方』は生活のバイブルだ。
紹介書籍
正しいパンツのたたみ方
著:南野忠晴
出版社:岩波書店
発行年月:2011年2月
プロフィール
小野寺伝助
おのでら・でんすけ|1985年、北海道生まれ。会社員の傍ら、パンク・ハードコアバンドで音楽活動をしつつ、出版レーベル<地下BOOKS>を主宰。本連載は、自身の著書『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』をPOPEYE Web仕様で選書したもの。
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