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介護の現場はこんなに変わってきた。/介護福祉士・伊井香奈子さん

介護の仕事って、今こんなにあたらしいんだ。

2026年10月9日

photo: Hiroshi Nakamura
text: Neo Iida
2026年11月 955号初出

介護の仕事は、僕らが考える以上に変化を遂げている。
温かいスープを囲んで街のみんなが交ざり合い、誰もが主役になって共に楽しく暮らす。
最新技術が現場の負担をサポートし、職員と利用者がお互いを後押しする。
そんな介護から僕らが学ぶことは多いはず。だから、ケアの最前線にいる人たちを訪ねてみた。

スープのさめない距離で、食卓を囲みながら介護をする。(介護福祉士・伊井香奈子さん)

定番メニューがある人もいれば、友達のためにおかずをたくさん取ってきてくれる人も。伊井さんも一人ずつ声をかけ、入居者の様子をチェック。「皆さん本当にお元気で、食べるスピードも速いんですよ」と伊井さん。102歳(!)の方も一人前をぺろりと完食していた。すごい!

分け隔てなく一緒に過ごせる。
環境がやりがいに繋がっている。

お昼どき、愛知県豊田市の「スマイリング キッチン LABO」は、ブッフェスタイルのランチを楽しむ人々で賑わう。学生たちやスーツ姿の男性、子どもと一緒に訪れたお母さんたち。その中央には高齢の男性、女性が丸いテーブルを囲み、もりもりと唐揚げやカレーを食べている。実はこの場所、「SOUP TOWN」という複合型の施設。キッチン部分は就労継続支援B型事業所で、1階と3階に介護付き有料老人ホームを備える。入居者たちはここで朝食と昼食を食べるのだ。

「一般のお客さまと老人ホームの利用者さまが、同じ時間にここで食事をするんです。皆さん地元がこの辺りなので、たまたま昔の知り合いの方が訪れて『久しぶり!』となることもあるんですよ」

そう話すのは介護福祉士の伊井香奈子さん。ライフクリエイターの肩書を持ち、有料老人ホームや看護小規模多機能型居宅介護のサポート、利用者の就労支援にも関わっている。福祉を意識したのは幼い頃。認知症の祖父とその介護をする祖母の姿を見て育ったことだった。

「おじいちゃんが寝たきりの状態になったんですが、私に何ができるんだろうと思いながら、ただ一緒にいることしかできなかった。そのモヤモヤがずっと残っていて、高校では福祉施設のボランティアを経験しました。そこで介護の仕事を通じて、人生に寄り添って、その人らしく過ごせるように支えられたらいいんだなと感じることができたんです」

短大卒業と同時に介護福祉士の資格を取得し、県内の特別養護老人ホームに勤務した。5年ほど働いた節目に、別の仕事に挑戦しようと転職活動を始めた。思うように進まず、ハローワークで相談をすると「新しいことにチャレンジしたいと思って動いたんだし、自分の気持ちをもっと大切にしてあげたら」とこの職場を薦められた。同じ福祉でも、障害福祉や就労支援など未知の分野に関われる。魅力を感じて2025年9月に入社したが、最初から驚きの連続だったそう。

「突然『スナックのママをやって』と言われたんですよ。月に一度『ケアスナック かなかな』という高齢者がお酒と会話を楽しむイベントを開いていて、看護師や介護福祉士がサポートするから老人ホームの入居者さんも参加できるんです。ご近所の方はベロンベロンになっているし(笑)、これまでザ・介護な仕事をしてきたからびっくりして。でもそういう当たり前の交流が素敵だなと思いました」

上/居室はすべて個室。それぞれ自宅から持ち込んだ家具や雑貨で装飾しているため、廊下に面した窓からはまるでショーウィンドウのように個性あるインテリアが覗く。下右/館内には手芸などを楽しめる工作室も。スタッフと一緒にものづくりを楽しめる。下左/浴室はまるで温泉。白一色の「施設のお風呂」とは異なる広々とした浴槽があり、窓の外の緑が美しい。別途、介護用の入浴槽も設けている。

実際ここで暮らす人たちはよく食べ、よく話し、よく動く。食事も決められた料理が配膳されるのではなくブッフェから自分で選ぶ。何を食べるか自分で決めることも、元気さを支える秘訣なのかも。

「環境は大きいと思います。この場所にいるだけでいろんな刺激がある。子どもの声だったり、窓から見える緑だったり、おいしいごはんだったり。五感でいい刺激を受けてもらえると思います」

昼食前には口腔体操。スタッフの掛け声に合わせて、無理のない範囲で体を動かす。深呼吸から始まり、首や肩を動かし、口まわりをモゴモゴ。この運動をすることで顎が動きやすくなり、食事をとりやすくなるんだそう。皆さんしっかり運動できていて流石。

料理は日替わりで地元・豊田の食材を使ったメニューも並ぶ。入居者は昼食の時間になるとエレベーターを使って2階にやってきて、トレーを取り、食べたいものを選んで皿によそう。少しの移動や好きな料理を取るアクションも、活力に繋がる。

忘れられない出来事もある。スナックで利用者とじっくり話をした翌日、手紙が届いた。「昨夜は本当に楽しい時間をありがとう、あなたのような素敵な若者に出会えて嬉しいです」。特養では寝たきりの人も多く、コミュニケーションが難しいこともあったから、「思いが返ってきたことがすごい嬉しくて」。その手紙は今もお守りとして持ち歩いている。

2階のキッチンからはいつもおいしそうな香りが漂い、いろんな世代のいろんな人々が集まる。利用者がつやつやと元気なのは、食の力はもちろん、開かれたこの場所で、住み慣れた街やみんなと繋がっていられるからなのかもしれない。

「ここって、高齢者だけ、障害者だけ、子どもだけ、じゃないんですよね。分け隔てなくみんなで一緒に過ごせるから楽しくて、場所の魅力がやりがいに繋がっていると思います」

SOUP TOWNの2階にある「スマイリング キッチン LABO」。モーニングからランチ、カフェまで営業し、ランチ(11:00〜14:00)は中学生から大人まで1600円でスープ、ドリンク付きのブッフェを楽しめる。就労継続支援B型の事業所であり、利用者が調理補助を行っていて、その場で焼く卵焼きは絶品。栄養管理が行き届いた料理ばかりだけれど、大ぶりの唐揚げや煮込みハンバーグなどわんぱくな料理が多いのも嬉しい。

プロフィール

伊井香奈子

いい・かなこ|1999年生まれ。愛知県出身。SMIRINGに所属し、SOUP TOWN内の「スマイリング キッチン LABO」でライフクリエイター、介護福祉士として勤務。入居者の生活を支援しながら、地域の人々が行き交う場づくりにも携わる。

インフォメーション

SOUP TOWN

愛知県豊田市に2025年開設。有料老人ホーム、看護小規模多機能型居宅介護、訪問看護、就労継続支援B型、放課後等デイサービスなどを備える複合福祉施設。地域に開かれたレストランや工作室などを設け、高齢者、障害者、子ども、地域住民が日常的に交わる環境をつくる。運営はSMIRING。

Official Website
https://souptown.studio.site