TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】広告ハンターの観察記

執筆:小林美香

2026年4月11日

 私は2010年代末以降から広告表現に関心を持ち、街中の広告を写真に撮って記録し、ソーシャルメディアで公開する活動をする中で、友人や仕事仲間から「広告ハンター」と呼ばれるようになりました。街中や駅、電車の中で広告観察(ハンティング)をすることが日常生活の一部になっており、広告から世の中の変化や地域性を感じ取っています。昨年、『その〈男らしさ〉はどこからきたの?広告で読み解く「デキる男」の現在地』を刊行したので、男性が登場する広告を街中で見ると条件反射で撮影しています。

 新年度の始まりは、進学や就職、人事異動など新しい環境に足を踏み入れる人も多いことでしょう。そんな世の中の動きを反映して、2月、3月にはスーツ姿の男性が登場する広告が格段に増えてきます。池袋駅を通過した時に階段の踊り場で見かけた、柳楽優弥と高橋一生が並ぶ転職支援サービス「リクルートエージェント」の広告。青と白のコントラストと、正面、視線を正面に向けた四分の三正面で視線を向ける二人の顔に否が応でも目が惹きつけられます。

JR池袋駅構内(2026年2月6日撮影)

 その後、同じ広告を新宿駅の通路で見かけたのですが、デジタルサイネージに令和ロマンの髙比良くるまを起用したPOPOPOという通信サービスの広告が映し出されていました。こちらもスーツ姿で青と白のコントラストがはっきりした画面。転職エージェントと通信サービス、宣伝しているものは異なりますが、「スーツ姿の男性が何かを勧めている」という表現に違いはなく、タレントを入れ替えても成立しそうです。通信・IT・転職関連の広告と同様に、金融・不動産関係の広告もスーツ男性が登場するものが多く、世の中のインフラ、基幹となる仕組みを司っているのは男性だと主張しているようです。

東京メトロ Metro Concourse Vision丸の内プロムナード(2026年3月29日撮影)

 3月が異動と移動の季節だな、と感じたのが、〈ゼロハリバートン〉というスーツケースブランドの広告です。NASAの月面採取標本格納器として採用されたという歴史を持つ、耐久性と機能美を謳っているブランドですが、プロサッカー選手の三苫薫がブランドアンバサダーに起用されています。遠征で世界各地を飛び回る三苫の背景には、宇宙船と思しき空間の丸い窓越しに、地球が映し出されています。高みを目指し、未到の地を目指す究極の「出世」のイメージと言って差し支えないでしょう。高級スーツケースを手に入れることは、早く、遠く、高く移動できる手段・特権を手中に収めることに等しい、と暗示しています。こちらも、青と白を基調にした画面構成で、遠目にも男性的・男性に訴求する広告だと感じます。

 こんなふうに、広告ハンターの日々の観察記録をご紹介します。よろしくお付き合いください。

プロフィール

小林美香

こばやし・みか|1973年、奈良県生まれ。国内外の各種学校や機関にて写真やジェンダー表象に関するレクチャー、ワークショップ、研修講座、展覧会の企画と並行して、雑誌やウェブメディアに寄稿するなど多岐に渡り活動中。著書に『ジェンダー目線の広告観察』(現代書館)『その〈男らしさ〉はどこからきたの?』(朝日新書)などがある。また、Inclusive Marketing Lab(IML)を運営する。

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