TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】モザイクやってます。/モザイクと民話

執筆:ヤマダカズキ

2025年12月4日

ヤマダカズキ


text & photo: Kazuki Yamada, Tomonori Ozawa(profile)
edit: Ryoma Uchida

こんにちは、モザイク作家のヤマダカズキです。

嬉しいことに今年の12月13日から箱根のポーラ美術館にて個展を開催することになりました。
美術館からお話をいただいたときは、喜びと驚きで胸がいっぱいになったのを覚えています。

初の美術館での個展という、私にとってこれまでで最も大きな舞台。気を引き締めながら、新作制作のため取材を始めました。題材に据えたのは箱根の「民話」。さっそく魅力的な民話を求めて箱根へ旅立ちました。

箱根神社、九頭龍神社を取材する私

【#2】「モザイクとの出会い」でもお話した通り、私はこれまで日本各地の民話を題材に制作を続けてきました。モザイクという技法は石を素材としているため、解像度は低いものの、とても耐久性に優れています。だからこそ魅力ある民話を未来へ残したいという私の思いに、モザイクは最も適した表現方法だと感じています。

また、民話や伝承はどこか現実離れした不思議さがあり、語り手によってニュアンスが変化する柔らかさがあります。その曖昧で象徴的な世界観は、あえて鮮明に描きすぎないモザイクの解像度の低さと調和し、むしろその魅力を引き立ててくれると考えています。

箱根では、芦ノ湖や九頭龍神社、箱根駒ヶ岳の山頂……、それぞれの場所で独特な雰囲気が漂っていて、古くから語り継がれてきた物語の気息を感じます。駒ヶ岳から見る富士山はとても美しく、綺麗な曲線を描いていました。

駒ヶ岳から見た富士山  

芦ノ湖 

元箱根磨崖仏

最後に向かったのは、金時山。伝承によると金太郎として知られる坂田金時(公時)が幼少期に暮らしていた山です。山の麓には公時(きんとき)神社があって、立派なまさかりが奉納されていました。

公時神社のまさかり

山に入ると濃霧が立ち込めていて神秘的ですが、どこか畏ろしさを感じさせます。「熊注意」の看板にびくつきながら進んだ先で、ついに巨大な宿石と対面。これは「金時宿り石」という金太郎が住んでいたとされる岩です。その圧倒的な存在感に、思わず息をのみました。二つに割れた大岩は、複数の枝に支えらながらも、今にも転がり出しそうな迫力があります。

金時宿り石

箱根には、九頭龍、天邪鬼、大蛇など、魅力的な民話が数多く残されています。無事に取材を終えた私は、制作への意欲を膨らませて帰路につきました。

金時をモチーフにした作品の制作途中

個展まであと少し。箱根の風景と語り継がれてきた物語たちが、静かに背中を押してくれているように感じます。
イタリアで学んだ技術や見てきたものを、今回の展示でひとつの成果として示したいと考えています。ラヴェンナに受け継がれる伝統技法を学び、表現力も広がりました。イタリアで学んだ技術と日本の民話を掛け合わせることでできた作品たち。それが今回の個展でどのようにお披露目できるのか……自分でも楽しみでなりません。

ラヴェンナの伝統技法を学ぶ 《テッセラ(石の粒)の仮置きに使用した石灰の除去》

その仕上がり

イタリア各地の歴史あるモザイク

プロフィール

ヤマダカズキ

1995年、熊本県⽣まれ。モザイク作家。東京藝術大学にてモザイク技法を学ぶ。日本各地の民話や伝承といった土地固有の記憶を、モザイク作品として記録、保存することをテーマに活動し、伝統的な技法と現代的な感覚を融合させた表現を探究している。2025年12月13日より、『ポーラ美術館』(箱根)にて美術館での初個展を開催する。

Official Instagram
https://www.instagram.com/yamadakazuki.art/

Official Website
https://www.yamadakazuki.online/

ポーラ美術館|ヤマダカズキ「地に木霊す」
https://www.polamuseum.or.jp/sp/hiraku-project-vol-17/