TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】モザイクやってます。/モザイクとの出会い

執筆:ヤマダカズキ

2025年11月20日

ヤマダカズキ


text & photo: Kazuki Yamada, Tomonori Ozawa(profile)
edit: Ryoma Uchida

こんにちは、モザイク作家のヤマダカズキです。

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大学院の修了作品《阿蘇に降る霜》制作風景、2022年

実は私がモザイクを始めたのは、芸術大学の油画科を卒業した後のこと。
それまでは、高校生の頃から約10年間、油絵を描き続けてきました。

ずっと民話や伝承をモチーフにし油絵で絵画を制作していましたが、正直なところ油絵という表現技法が、そのモチーフと自分の中でいまいちしっくりこないと感じていました。
上手く油絵を描けない時期が長く、私は油絵ではないのでは?と悩んでいたのです。

学部生時代

そんな中、大学の学部を卒業し、大学院に進学して壁画研究室に所属した際に、モザイクに出会いました。
石を使って描くという表現方法に触れた瞬間、「これだ!」と確信しました。

モザイクは石を素材とするため非常に耐久性が高く、色褪せることなく作品を未来へ残すことができます。まるで古くから語り継がれる民話のように。そして、少し現実離れした民話や伝承の世界を描くのに、はっきりと描けてしまう油絵ではなく、モザイク特有の“解像度の低さ”がむしろぴったりだと感じたのです。
なかなか10年続けてきた油絵という表現を手放すのに勇気がいりましたが…。
今となってはモザイクに出会えてよかったです!

そんなわけで、前回の続きとなるイタリアで出会った私のおすすめのモザイク第1位は!

オトラント オトラント大聖堂

オトラント大聖堂

ブーツの形をしたイタリア半島の「かかと」にあるオトラントは、夏になると美しい海を求めて人々が集まる街。城壁に囲まれた旧市街が残っていて、その中心となる高台に立派な聖堂があります。

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オトラントの海

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オトラント城(アラゴーネ城)から旧市街を望む

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白壁と石畳が印象的な旧市街の風景

聖堂の内部には「生命の樹」をモチーフにした舗床(ほしょう)モザイクがあり、キリスト教の旧約聖書の場面が描かれています。

オトラント大聖堂の舗床モザイク

それだけではなく地獄の絵や、歴史的な人物も…。例えば両手に肉を持ち、2匹のグリフォンを操り飛んでいくアレクサンダー大王の姿など、とてもユーモラスです。

オトラント大聖堂の舗床モザイク

このモザイクは聖職者であるパンタレオーネによって制作され、1165年に完成しました。興味深いのは、当時の聖堂装飾に見られる伝統的な技法や形式にとらわれないモザイクを作り上げた点です。この自由でおおらかな表現が、どこかやさしさを感じさせます。
 
この聖堂は今でも礼拝で使われており、ミサの際は仕切りがなくなりモザイクの中心を「生命の樹」に沿って歩くことができます。歴史的なモザイクのある聖堂も実際に使われている場合があるので、礼拝をしている方々の邪魔にならないようにしなくてはいけません。
ローマのある聖堂ではお喋りしている観光客が、礼拝中の方に「しーーーっ!!!」っと怒られていました。

私が第1位に選んだ理由は、当時では受け入れがたいと考えられそうな絵柄でありながら、信者たちに受け入れられ、今日に至るまで聖堂として使用され続けている点です。加えて、単純に絵柄が好きです。

私自身このオトラント大聖堂のモザイクには大きな影響を受けました。
モザイクに対する固定観念を壊し、表現の自由さを教えてくれたのがこの聖堂です。

ヤマダカズキ《ダイダラボウ》と《押付本田の水神》

プロフィール

ヤマダカズキ

1995年、熊本県⽣まれ。モザイク作家。東京藝術大学にてモザイク技法を学ぶ。日本各地の民話や伝承といった土地固有の記憶を、モザイク作品として記録、保存することをテーマに活動し、伝統的な技法と現代的な感覚を融合させた表現を探究している。2025年12月13日より、『ポーラ美術館』(箱根)にて美術館での初個展を開催する。

Official Instagram
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Official Website
https://www.yamadakazuki.online/

ポーラ美術館|ヤマダカズキ「地に木霊す」
https://www.polamuseum.or.jp/sp/hiraku-project-vol-17/