TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】The Collapse Of Everything

執筆:エイドリアン・シャーウッド

2025年10月23日

8月に新しいアルバム『The Collapse Of Everything』をリリースしました。これは、このディストピア的な時代のために作った、サイケデリックでダークなサウンドトラックのような作品で、自分でもとても誇りに思っています。

アルバムには、さまざまなミュージシャンや友人たちが参加しています。近年は特に、ダグ・ウィンビッシュと密に仕事をしてきました。彼とは ホレス・アンディのアルバム以降、パンダ・ベア&ソニック・ブームへのダブ・ミックスや、スプーンとのコラボレーションなどでも一緒に制作しています。さらに、アレックス・ホワイト(ファット・ホワイト・ファミリーやプライマル・スクリームで活躍)、そして80年代にザ・ルーシー・ショーで活動していたマーク・バンドラも参加。マークはJUNOキーボードへの独特な理解と、尖ったプレイスタイルが魅力なんです。また、数曲でドラムを叩いているのは、惜しくも昨年亡くなったキース・ルブランです。

Keith LeBlanc (1954-2024)

アルバムタイトルを考えていたとき、頭の中に何度も浮かんできたのが「The Collapse of Everything(すべての崩壊)」という言葉でした。これはマーク・スチュワートが数年前に、アメリカの友人でアナーキスト作家のスコット・クロウについての未発表曲のなかで、何気なく使った一節なんです。マークは2023年に亡くなり、キースの死とともに深い悲しみに包まれました。このフレーズは、まさに今の世界の状況と重なるものでした。政府、社会保障、医療、教育など、あらゆる面で「崩壊」が起きているように感じたんです。

Pop Group Gareth Sager (l) Mark Stewart (r) performing at Alexandra Palace, London UK August 1980

Pop Group singer Mark Stewart (right) in 1980
photo: David Corio

ジャケットアートは、友人で優れたビジュアルアーティストでもあるピーター・ハリスに依頼しました。お金を握ったクシャクシャのピノキオのパペットを描いてもらい、「イーロン・マスクとマーク・ザッカーバーグの“愛の子”」のような、不気味な雰囲気にしてほしかったんです。

The Collapse Of Everything artwork by Peter Harris

曲名のいくつかは、仁義なき戦い(英題:Battles Without Honor and Humanity)で知られる深作欣二の映画シリーズからインスピレーションを受けています。たとえば、『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973年)から「Hiroshima Dub Match」というタイトルが生まれました。また「Spaghetti Best Western」は、“スパゲッティ・ウエスタンが狂ったような曲”を作ろうとしていたときに、エンジニアが「Spaghetti Best Western(※Best Westernはイギリスの安ホテルチェーンの名前)」と冗談で言ったのがきっかけです。

曲作りのときは、パーカッションなどをいじりながらミキシングデスクで音をピッチダウンさせるのが好きなんです。秘密を教えると、音を自然なピッチの5%まで下げると、ものすごく奇妙で面白い音が聞こえてくるんですよ。そのピッチダウンした素材をさらに加工し、スキップ・マクドナルドやアレックス・ホワイトのような完璧な音感を持つ仲間に微調整してもらいながら音を引き延ばしていく。実は、2012年にリリースしたアルバム『Survival & Resistance』もすべてこの方法で作りました。音の断片を聴き取り、それを編集・構築していくという、狂気じみた実験でしたがうまくいったんです。

Lee Perry and Adrian Sherwood in 2019
photo: Daniel Oduntan

もし新しいアルバムから1曲おすすめするとしたら、「Dub Inspector」ですね。これは一種のSF的なリー・ペリーへのトリビュートのような曲で、聴いているうちに「どうやって作ったのか」が簡単には分からないように仕掛けています。この曲では逆再生で演奏・録音・ミックスしていて、まるでプログラムされたように聞こえるよう工夫しました。聴き手が細部を探る“ダブ検査”のような感覚を味わえるんです。リーならこのイタズラ心をきっと気に入ってくれたと思います。

プロフィール

エイドリアン・シャーウッド

1958年、ロンドン生まれ。ソロ作品、タックヘッドに代表されるバンドとしての活動、また彼自身が主宰する〈On-U Sound〉レーベルを通して唯一無二の美学を体現するクリエイティブな存在として、常にアーティストとしての仕事とプロデューサーとしての仕事を並行して行ってきた。
8月にリリースされた13年ぶりとなるソロアルバム『The Collapse Of Everything』をひっさげ、11月にはDUB SESSIONS 20th Anniversaryで来日決定!

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