TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】「YOMU」

執筆:土屋誠

2025年10月3日

突然だが本屋を韮崎市に開いた。
本屋を開こうなどと思って40数年間暮らしてきたわけではないから突然だと思っている。
よく「昔からの夢が叶って本屋になったんですか」と聞かれるが、残念ながらそうではない。
しかし、本屋にはなりたいと思っていた。いわゆる書店として、お店としての本屋ではなく、本の活動をするという意味での本屋だ。以前、内沼晋太郎さんが書いた『本の逆襲』(朝日出版社)という本で、本屋の多様なあり方を綴ってくれていて、本に関わる活動をしていたり個人の書評ブログなども本屋と呼べるのではないかと定義し、書店は持てないけど本と関わっていたい僕はとても勇気づけられた。

影響されやすい僕は、『本の逆襲』を読んだ次の年、2014年から「こうふのまちの一箱古本市」というイベントを甲府のまちの書店「春光堂書店」さんと一緒にはじめた。山梨でブックイベントがほとんどなかったので、自分でやるしかないと思っていたのだ。今年で10年を迎え「本に関わる活動をしている僕は本屋だ」といつしか心の中で思えるようになっていた。

冒頭にも書いた通り、“本屋”というお店をやりたいわけではなかった。
もちろん本が好きで、地方に行くと必ずそのまちにある本屋を事前に調べていきたいところがあれば通っていた。都内でも少しずつ増えてきた独立系書店を雑誌や記事で見つけては、遊びに行っていた。こんな本屋が自分のまちにあったらなと思える本屋がすぐに10店くらいは頭に浮かぶ。しかし、何度も言うが本屋をやりたいと思ったことはなかった。
バイトもしたこともなければ、この業界は大変なんだぞという知識ばかりが入ってくる。
本屋をやっている人たち、マジリスペクト! それしかなかった。

そんな僕が突然本屋を開くことに。
場所というのは運命も一緒に連れてくるのか、事務所移転のために出会った建物が“ちょうどよい本屋が開けてしまう”建物だった。
韮崎のまちではここ数年、小商をはじめるために移住してくる人たちが多く集まってきていた。そんな彼らのお店に通っていると、自分もこのまちのためにできることをしたいといつのまにか思うように。飲食が多いため物販のお店があるといいなーとみんな口を揃えて言っていた。
そして降って湧いた事務所にするには大きすぎる物件。
僕にできること(正確にはできそうなこと)と、人生で今後も続けてもいいなぁと思える商いは、本屋しか見当たらなかった。

ということで、今年の6月にYOMUという新刊本屋をオープンした。
本屋で働いたこともないのにほんとにできるのかと一人で卑屈になっていた開店前、しかし準備をしながら思ったことは、本や雑誌があったからこそ今の自分がいるからその本に恩返しをするのに絶好の機会じゃないかと。
10年前に読んだ「本屋の多様なあり方」は、お店としての本屋だってそうであっていいはずだ。
誰かの本がある日々をつくれたらいいなぁと思っている新米本屋店主です。

(おわり)

インフォメーション

土屋 誠

つちや・まこと(本屋YOMU店主)|1979年生まれ、編集者&アートディレクター。やまなしの人や暮らしを伝えるをテーマに山梨県で伝える仕事をしています。2024年にひとり出版社のMOKUHON PRESSを立ち上げ、2025年には新刊書店のYOMUをオープン

BEEK
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MOKUHON PRESS
https://mokuhonpress.stores.jp

YOMU
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