ファッション
ジェイエムウエストンのローファー「180」
使ってわかるクラシックの格式。
2026年1月2日
マイスタンダードの見つけ方。
illustration: Dean Aizawa
text: Sana Tajika, Yoshikatsu Yamato
edit: Yasuyuki Takase
2025年9月 942号初出
メンズファッションにおいて、歴史に裏打ちされた名品と呼ばれるものは総じて高い。とびきり高い。果たして、どれほどの価値があるのか。実際に使う人はこう語る。
1891年、フランスでエドゥアール・ブランシャールが靴工場として創業。その息子が靴作りを学ぶため米国ウエストンに渡り、ブランド名の由来となった。名作「シグニチャーローファー #180」は、履き心地の良さに加えて、カモメ型サドル窓を特徴とする。
僕が思うに、誰もが知る名品にお金をかける理由は、作りの良さや素材だけではありません。それ以上に、そのブランドに宿る格式や伝統、ロマンに心が動かされるからだと思うんです。学生時代の僕も〈ジェイエムウエストン〉のローファー「180」にロマンを感じ、中古のものを手に入れました。大学1年生の頃にヨーロッパ古着で洋服に目覚めて、僕の中にタイムレスなものはかっこいいという価値観が芽生えたのですが、老舗のフランス靴といえば、〈ジェイエムウエストン〉か〈パラブーツ〉の2択。学生だったので、さすがに10万円をこえる靴には手が出せないでいたけれど、行きつけの古着屋でセールになった「180」に出合いました。「ウエストンは旧ロゴ、パラブーツはデカタグ」とか言いながら、当時は真価をわからないまま履いてましたね。社会人になってから、気分の変化もあって、革靴を履かない時期を経て、最近再び革靴の気分が戻ってきたんです。久々に履こうと取り出したら、しばらく放置していたせいで状態が悪くなってしまっていて。捨てちゃうのも寂しいので、北参道に店を構える『Studio-hidden』に修理をお願いしてみました。同じ革靴を30年以上履き続けている英国のチャールズ国王にちなんだ名の、劣化した部分を当て革で補修する〝チャールズパッチ〟を、かかとや履き口など複数箇所に施してもらいました。きれいになって戻ってきた靴は、懐かしさとともに日常に再び溶け込み、改めてその使い勝手の良さを実感させてくれました。
ローファーはいくつか持っていますが、結局いつもウエストンを選んでしまいます。長く履いている革靴だから、足にも馴染みやすく履きやすいという理由もありますが、それ以上に、どんなパンツにも馴染む懐の深さや、どんな考え方、スタイルにも馴染む道具のような感覚があるからです。この靴さえあれば新しいものを買ったり、むやみに他の靴に挑戦したりする必要がなくなる。おしゃれなローファーもいろいろ持っているなかで、スーパープレーンなローファー「180」は、僕にとっては〈ヴァンズ〉のスリッポンやビーチサンダルと同じ。僕の夏の基本スタイルが、Tシャツ、チノパン、ビーチサンダルなんですが、「180」は冬のビーチサンダルみたいな存在と言いたくなるくらい、僕のスタンダードになっています。それだけでなく、気合を入れておしゃれしたいときも、力を抜きつつおしゃれを楽しみたいときも、「180」を履けば気負いすぎず、でもそれでいてきちんと決まる。それこそが「180」の最大の魅力だと思います。僕の扱いに耐えられるその耐久性や、壊れたところを直して履くことでより強くなる愛着。そして、日常に自然に寄り添う使い勝手の良さがあることが、〈ジェイエムウエストン〉の「180」が名品として時代を超えて愛されている大きな理由なのだと感じています。
プロフィール
石黒 晴輝
いしぐろ・はるき|1997年生まれ。『L’ECHOPPE』のアシスタントバイヤーを経てフリーランスのディレクターとして〈byeA.〉などのブランドを手掛け、昨年千駄ヶ谷に古着店『Kaquarion』をオープン。
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