ファッション

トム フォードのオーダーメイドスーツ

使ってわかるクラシックの格式。

2026年1月2日

illustration: Dean Aizawa
text: Sana Tajika, Yoshikatsu Yamato
edit: Yasuyuki Takase
2025年9月 941号初出

〈グッチ〉や〈イヴ・サンローラン〉のクリエイティブ・ディレクターを経たトム・フォードが、自身の名前を冠して2005年に創設。アイウェアやビューティ製品も人気。映画『シングルマン』などの監督を務めた後、2023年に自身が手掛ける最後のコレクションを発表。

メンズファッションにおいて、
歴史に裏打ちされた名品と
呼ばれるものは総じて高い。とびきり高い。
果たして、どれほどの価値があるのか。
実際に使う6人はこう語る。

 僕は、トム・フォードが手掛けているものなら何でも愛せます。そう思うようになったのは、彼が手掛けた’90年代の〈グッチ〉を見たときから。ムード歌謡の歌手、青江三奈さんが大好きなのですが、彼女に感じていた〝夜の女〟の色気に通ずるものを感じて、一気に彼の世界観に惹かれたんです。2008年、自身のブランド〈トム フォード〉の店が大阪にオープンしてすぐに覗きに行くと、そこは自分がずっと憧れていた世界そのものでした。それからというもの、お金を貯めては〈トム フォード〉を買うことが習慣になっています。シャツ、シューズ、コート、アイウェアといろいろ持っていますが、その頂点はやっぱり、子供の頃に憧れた大人と同じ世代に差し掛かった2017年に仕立てたオーダーメイドスーツ。彼が作るスーツには、ウィンザー、リージェンシー、バッキンガムなどの型があって、僕が選んだのはウィンザー。一番プレーンな型ですが、腰を緩やかにシェイプさせてイタリアンテイストを足しました。また〈トム フォード〉といえば、しっとり艶やかな〝大トロ〟のような風合いの生地が魅力。でも、日常使いするには僕には色っぽすぎたので、あえて光沢を抑えたザラッとした生地を選びました。これなら街でもカジュアルに着られます。クラシックをそのまま着るより、例えばダブルの幅は必ず7㎝にするなど、ブランド独自のこだわりを守りながら、自分なりにディテールを調整していくのが楽しいんですよね。仕立ての工程も超スペシャルで、一着ずつ北イタリアの縫い子さんが手掛け、内ポケットには、僕の名前とともに出来上がった日付を刺繍してもらいました。今でもこれを目にするたびに胸が高鳴ります。僕がスーツスタイルにこれほど熱を入れるようになった原点は、子供の頃に見ていた’70年代のテレビ番組。テレビに出てくるおじさんがみんなスリーピースのスーツ姿で、それが子供ながら、やけに格好よく見えたんです。
 こうした、いわば名品は、着ることは楽しいけれど、同時に扱いには難しさもあります。仕事中にしゃがめない、電車で座れない、食後にお腹を膨らませるのも怖い。下手な扱いができず、緊張感が保たれるから、仕事で着た日には、帰宅して脱いだ途端に疲れがどっとやってくる。それが心地よくもあるんですけどね。
 いつでも目標を定め、それに向かってひたむきに進むのが僕の生き方です。その原動力のひとつが、〈トム フォード〉を買うということ。そのスーツはタフでセクシー、圧倒的な存在感を放ちます。仕事中は背筋が伸びて自信をくれるし、普段は何げない装いに洒落た力強さを添えてくれる。どんな場面でも頼れるからこそ、着るたびにその価値を確かめることができ、名品と呼ぶにふさわしい一着だと感じます。

プロフィール

樅山 敦

もみやま・あつし|ヘアメイクアップアーティストを経て、2013年に代官山に理容室『BARBER BOYS』をオープン。ポッドキャスト『樅山敦のチェリー・トーク』で語られる、ユニークな人生劇場トークは必聴。