ファッション
フォックスアンブレラズの傘
使ってわかるクラシックの格式。
2026年1月1日
マイスタンダードの見つけ方。
illustration: Dean Aizawa
text: Sana Tajika, Yoshikatsu Yamato
edit: Yasuyuki Takase
2025年9月 941号初出
メンズファッションにおいて、歴史に裏打ちされた名品と呼ばれるものは総じて高い。とびきり高い。果たして、どれほどの価値があるのか。実際に使う人はこう語る。
日本では明治元年(!)にあたる1868年に創業し、U字断面のフレームを開発。これによって現代まで続く傘の量産が可能になったというから、“近代傘”の第一人者。一方、総本家では、創業以来ずっと職人が一本一本を組み立てるハンドメイドにこだわって、技術を繋ぐ。
20代の後半くらいに、ビニール傘をさすことに違和感を覚えはじめました。壊れかけの傘が傘立てに雑然と差さっていたり、ビニールがめくれて道端に転がっていたりする景色も含めて、どこか虚しい気分になったんです。オシャレに着飾っているのに、手にしているのはビニール傘、そんなアンバランスさにも引っかかって。なにより、自分の持ち物を粗末に扱ってしまう姿勢そのものが、良くないなと感じて。そこからナイロン地の傘を選ぶようになりました。
〈フォックスアンブレラズ〉は英国王室御用達のロイヤルワラントを授かった老舗メーカー。当時は撮影でロンドンに行くことが多くて、本場のほうがまだ手頃だったこともあり、紳士服店のセレクトで見つけて買いました。印象的だったのは、雨の多い土地柄だからなのか、道ゆく人の傘を扱う所作そのものが洗練されていたこと。傘ひとつで立ち姿まで変わるんだな、と感じた瞬間でした。ハンドルの扱い方など、慣れた手つきからは傘への愛着すら感じられました。
最初に手に入れたのは、天然木のハンドルに紺色の生地というベーシックな一本。その後はロンドンに行くたびに買い足したり、日本の代理店を通じてカスタムオーダーしたりして、少しずつ増えていきました。例えば、ネイビーのレザーハンドルにグレーの生地を合わせたものは、スタンダードな色同士の組み合わせではありますが、既製品にはない佇まいで気に入っています。シルバーのアニマルハンドルなんて変化球も面白い。傘をアクセサリー感覚で選ぶなんて、考えてみても贅沢な遊びですよね。どれにも共通しているのは、華奢で端正なフォルム。通常、ナイロン地の傘は、太く重たくなりやすいけれど、8本骨の〈フォックスアンブレラズ〉はすっきりと細身。生地のナイロンも繊細できめが細かい。若い人にとってクラシックやトラッドなものは「形式ばって堅苦しい」と映るかもしれませんが、本当に上質なものほど遊びの余地が広いと思っています。価格は決して安くないけれど、それが物の良さに比例していて、長い時間を経ても残り続けているメーカーには信頼があります。〈フォックスアンブレラズ〉は空軍のパラシュートを製作する技術を応用してスチールフレームを開発し、世界で初めてナイロン生地の傘を手掛けたメーカー。いわば、今日の傘というアイテムの源流。そういう一本を若いうちに手にしておくのもいいと思うんです。それを、あえてストリートやモードの服に差し込む。「傘まで含めてコーディネート」なんて大げさかもしれないけど、懐が深いものだからこそできる楽しみ方です。そうやって遊びながら長く付き合える一本こそ、自分なりのマスターピースになるんじゃないでしょうか。
プロフィール
宇佐美 陽平
うさみ・ようへい|スタイリスト。1976年、東京都生まれ。ファッション誌を中心に、広告、アーティストと幅広い分野で活動する。近年ではその豊富な経験を生かして、ブランドやショップのディレクションにも携わる。
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