TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#1】はじめての銭湯
執筆:セザール・ドゥバルグ
2025年7月14日
日本にはフランスにはない場所があります。それが「銭湯」。街なかにある庶民的な共同浴場で、体を洗い、くつろぎ、人とつながる場所です。そんな特別な場所との出会いは、2018年、交換留学生として初めて日本に来たときのこと。当時20歳だった私は、銭湯という存在すら知りませんでした。
ある日、授業の帰り道、ひとりのクラスメートが『平安湯』と書かれた不思議な建物の前で立っているのを見かけました。「ここで何してるの?」と聞くと、「先生と風呂に行くのを待ってるんだ」と言うのです。「先生と?風呂に?」と驚きました。意味がわからなかったけれど、彼は「一緒に行こう」と誘ってくれました。
そして5分後、私はすっかり裸になって、冷たい湯船に彼と、なんと授業を受けたばかりの先生と一緒に入っていたのです!フランスでは、先生と一緒に風呂に入るなんて考えられません。キリスト教の文化の影響で、人前で裸になることにとても抵抗があるからです。家族でも、ましてや見知らぬ人の裸なんて見たくありません。フランスでは基本的にお風呂には入りませんし、入るとしても赤ちゃんくらい。代わりに一人でシャワーを浴びます。
だからこそ、銭湯は私にとって大きな発見でした。まるで日本社会という大きなお風呂に、一歩足を踏み入れたような感覚でした。
その友人とはすぐに仲良くなり、週に3〜4回も一緒に銭湯に行くようになりました。彼は英語が話せず、私は日本語が話せませんでしたが、一緒に銭湯に行くことで、言葉を超えてつながることができました。後になって知ったのですが、日本語には「裸の付き合い」という言葉がありますよね。まさにそれでした。だいたい夜7時ごろに待ち合わせて、彼のバイクで毎回違う銭湯に行き、そのあと遅い時間にコーヒーを飲んだり、ラーメンを食べたりしていました。
若い学生の私にとって、こうした時間は自由そのものでした。
2018年、友人のテルとチコは京都の中心にある銭湯『梅湯』でアルバイトをしていました。
彼がその銭湯に連れて行ってくれて、若いオーナーの湊三次郎さんを紹介してくれたのです。すると湊さんが「うちの銭湯のタオルの絵を描いてみない?」と声をかけてくれました。もちろん、即答で「描きたいです!」と答えました。あれが、すべてのはじまりでした——。
プロフィール
セザール・ドゥバルグ
イラストレーター、グラフィックデザイナー、編集者として活動。
パリの国立高等装飾美術学校(通称アール・デコ)、ジュネーブのHEAD、そして京都芸術大学で学びました。フランス、イタリア、日本のあいだで、報道・ファッション・文化機関(ニューヨーク・タイムズ、ルイ・ヴィトン、エルメス財団など)とのさまざまなコラボレーションを通じて、ドローイングの表現を磨いてきた。
そうした制作と並行して、2018年以降は個人プロジェクトや共同企画も展開しており、なかでも京都を拠点に、日本の公衆浴場・銭湯文化のリサーチや、梅湯をはじめとする銭湯との継続的な取り組みなど、温浴文化をテーマとした活動に注力している。
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