TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】彼は古着オタク、父はテロリスト
執筆:春風亭昇羊
2025年7月2日
平日の午前、先輩の瀧川鯉白兄さん(たきがわりはくあにさん)が古着を譲ってくれるというので、四谷にある兄さんの住居までいそいそと向かった。兄さんは「古着は入荷日に並んでしか買わない」というほどの古着愛好家で、入門当初から「鯉白が第二土曜日に寄席を休むのは古着の入荷日だから」という噂が立つほどには周知されていた。どちらかというと「鯉白の父はフィリピンに潜伏し爆弾をつくっている」という妙な噂の方が楽屋の師匠方を沸かせたが、私はそんな与太話より、古着についての話を聞くことの方が好きだった。
並んで買い集めただけあって、所有している古着はどれも稀少なものばかり。その稀少性の高い古着に端を発して、兄さんは一度だけ、客と揉めたことがあるという。
渋谷にある行きつけの古着屋のSNSで60年代頃の珍しいコートが入荷すると知り、当日開店一時間以上前に一番乗りで並んだ。並び始めて二十分ほど経った頃、横暴な感じの年嵩の男が、なんと前に割り込んできたので、「あ、僕並んでました」と声を掛けた。男は黙って後ろに並びなおし、その場はそれで済んだのだが、いざ開店し、兄さんが目当てのコートを手に取ったところで、なんとその男が「おかしいじゃないですか」と不服を唱えてきたという。突然のことに驚き戸惑っていると、男はさらに「さっき並んでなかったじゃないですか、おかしいじゃないですか」と理不尽な難癖をつけはじめた。並んでいたのに「並んでなかった」などとおかしな主張をしてくるお前の方が明らかにおかしい。
そんなことを考えながら「いや、並んでましたよ」と、その店の少し特殊な並び方まで丁寧に説明し弁明すると、男は怪訝そうな表情を浮かべたまま、しかし諦めたと見え、店を後にした。店員の見ている前で古着を取り合うその光景は、地獄のようであったという。
取り合いになるほどの服とは一体なんなのか。頼んで見せてもらうと、それは黒い薄手の中綿のコートで、素材も形状も大きさも縫製も、特に目新しさのない、至って平凡な服であった。その服の良さ、魅力が私には全く理解できなかった。しかしだからこそ、感動を覚えた。私よりもよほど深みに嵌った好事家たちが、体裁を気にせず、醜態を晒してでも手に入れたくなるほどの魅力がこの服にあり、だが私はまだその魅力に気付けない。そのことに却って魅了され、今後益々沼の深みに嵌り込んでいくであろうことを予感させた。
兄さんにとってはただの嫌な思い出話が、私にとっては古着の魅力に取り憑かれた先達たちの逸話として、記憶に残った。
プロフィール
春風亭昇羊
しゅんぷうてい・しょうよう|1991年、神奈川県横浜市旭区出身。
2012年春風亭昇太に入門。
2016年二ツ目昇進。
2023年NHK新人落語大賞ファイナリスト。
10日間のヨーロッパ公演について綴った『ひつじ旅~落語家欧州紀行~』を2025年1月に出版。
Instagram
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Official Website
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