ライフスタイル

家の猫の話 Vol.15/文・ピエール瀧

2025年5月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

コンブが病気になってしまいました。

ここ最近は日中のほとんどを寝て過ごし、ご飯の時になっても歓喜の声を上げなくなり、ご飯の皿からプイと離れていくのも3匹の中で最初になってしまいました。大好きだったカリカリを食べる量も徐々に減ってきていたので、対策として高齢用のやわらかご飯をペットショップで買ってきて与えたりしていました。

「まあ、お爺ちゃんだからね。そりゃそうかもね~」なんつって、家族みんなでコンブの頭を撫でながら静かに受け入れていたのですが、ある時期から体が少しずつ痩せてきて、お腹の皮がたるんで地面スレスレまで垂れ下がり、ついにはご飯をまったく食べなくなってしまいました。

病院に連れて行き、血液検査、レントゲン、超音波検査等をしてもらったところ、腸の付近に腫瘍が見つかり、『大細胞性リンパ腫』という病気であることが判明しました。まあ言ってみれば猫の癌です。原因は加齢とのこと。

この腫瘍が腸を圧迫しているのが原因で便がうまく通らず、そのせいで食欲がなくなっているというのが先生の見立て。高齢の猫なので開腹手術することが好ましい判断とは言えず、抗癌剤の注射を打って腫瘍が小さくなることを期待することになりました。

実は病院に連れていく直前にオイラは嫁と話し合っていました。「もしどうにもならない病気だったらどうする?」と。オイラは「自然に任せるっていうのもウチらしいかもね」なんつって“わかったような顔”をして答えていましたが、いざ病院に来て診断を聞いてみると、診察台の上でキョトンとした眼でこちらを見上げてるコンブへの愛おしさが増幅してきて「いやそれは違う。やれることはやってあげないと」と、180度考えが改まったのでした。

病院の診察台で静かに各種検査を受け、注射にも鳴き声をあげずにおとなしくしてしている気高きコンブ。先生がつい「……ブイヨンちゃんと違って静かねぇ」と本音を漏らしました。嫁に聞くと、ブイヨンを連れてきた時は、洗濯ネット(暴れずにおとなしくさせる常套手段)から出した瞬間にバーサーカーモードがONになり、診察室を飛び回って全てのもの破壊したらしいです。一瞬で診察台から離脱したブイヨンは、ワゴンの上に並ぶ医療器具を蹴散らし、パソコンの液晶モニターをなぎ倒し、壁に作り付けの本棚の本を全て床に蹴落とし、最終的に本棚の棚に爪が引っかかってブラ~ンとなったところを取り押さえられたとのこと。笑う。さすが女帝。

その日は病院に入院したコンブ。翌日の夕方に家に帰ったきてから、我が家は“コンブ看病モード”に突入しています。幸いちゅ~るだけはなんとか食べてくれるので、コンブの反応がいい時はちゅ~るを食べさせ、朝と晩のご飯タイムにはシリンジ(針無し注射器)に入れたペーストご飯を薬と一緒に口の中に流し込むのです。このコンブにとって煩わしく嫌であろう食事システムの時間でさえ、暴れたり、爪で引っ掻いたり、オイラに噛みついたりしないコンブ。時折苦しそうにペーストを飲み込んでいるコンブを見ていると可哀想で心が折れそうになりますが、「いや!ここはハードな外科医の気分でやり切らないと!」となんとか己を鼓舞しています。

しかしそんな非日常の数日間を過ごしたせいなのか、コンブはここのところ食事&治療タイムが終わるとコストコで買ってきた猫トンネルの中に一日中潜り込むようになってしまいました。買ってきて以来まったく興味がなかったはずなのに……。

「あのオス人間最近怖い。頭掴んで嫌なの食べさせるから」。もしかしたら今コンブはトンネルの中でそんな気分なのかもしれません。しょんぼり。……でも奮い立て、俺!

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』(Netflix)、『HEART ATTACK』(FOD)にも出演予定。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/