TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】東京での日々

執筆:ジャン・ジュリアン

2025年4月21日

 東京での生活は、ただただ新鮮です。自宅での仕事、日差しを浴びる穏やかな時間、そしてインスピレーションを探して街をさまよう日々。

 なかでも特に目を引いたのは、街中で日常的に使われている色の違いでした。橋のつややかな色、トラックの潰れたラズベリー色、地下鉄ホームのピンクとグリーン。ヨーロッパとはまったく異なるカラーパレットに、目が奪われます。すべてが、今にも絵になりそうな風景です。

 言語が自分にとって異質であることも、この没入感をより不思議で、同時に心地よいものにしています。静かな空気と、視覚的な刺激。その対比のなかで、僕は「静」と「動」の間を揺れながら過ごしています。それはまるで、ドローイング(動きの反応)とペインティング(内省の時間)のあいだを行き来するような感覚です。

 フィクションと想像の世界に惹かれてきた僕にとって、日本はまさに宝庫。『中野ブロードウェイ』や秋葉原を訪れるたび、目も心もたくさんのインスピレーションで満たされます。おもちゃ、ステッカー、本……。これまで僕のドローイングを支えてきたイメージが、今、新たな形で作品に変わろうとしています。

 毎日キャンバスに向かっています。東京では、巨大なイラスト広告やマンガキャラクターのパネルが当たり前のように街の景色に溶け込んでいて、そんな風景が自然と僕の制作にも入り込んできました。結果生まれたのは、「フィクション」と「リアル」が溶け合う、不思議な世界。見る人には、どこまでが現実で、どこからが空想なのか、判別できないかもしれません。

 日々の制作の中で、僕はこれまで以上に、自分の周りのグラフィックな生態系に触れています。フィクションとリアルが溶け合い、現実と空想の境界が曖昧になる。それは僕のアートに新たな命を吹き込んでいます。何とも愛おしく感じられる瞬間です。

プロフィール

ジャン・ジュリアン

1983年、フランス生まれ。パリを拠点に活動。
イラストレーション、絵画、彫刻、インスタレーション、写真、映像、書籍、衣類、デザインオブジェなど、幅広い分野で製作を行う。
ニューヨーク・タイムズ、ナショナルジオグラフィック、エルメス、プチバトー、VOGUEなど、世界的なメディアやブランドとコラボレーションを行い、世界各地で個展を開催。
2025年は、大阪・関西万博にて〈Tara Foundation〉のための特別インスタレーションを手がけるほか、7月には上海の『Nanzuka art institute』にて個展「Le Château」を開催予定。これらのプロジェクトに取り組むため、一時的に東京を拠点としている。

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