ライフスタイル
【#2】山小屋の一日。
2021年6月21日
photo&text: Hannah Suda
山小屋の朝は早い。
5時半ごろに台所に集合して、お湯を沸かすことから1日が始まる。
これは小屋で作ってもらえる弁当に入ってるおにぎり。この形は女将さんしか作れない、絶妙な丸い形が可愛らしいタイプだ。お米を炊くところから説明しよう。
お米を升で量ってバスドラムくらいの大きな釜に投入。水を注ぎ、蓋を閉めたらスイッチを押す。しばらくすると静かに蒸気が立ち上ってくる。
キャベツを千切りにしてサラダを作る。半分に切ったキャベツをスライサーで削るとすごい速さで千切りができると女将さんに教えてもらい得意になっていたら手が滑って指もあやうく千切りに…それ以降は慎重に。切り終わったら水にさらして盛り付ける。
ミョウガを薄切りにして、配る直前に味噌汁にサッと入れる。フワッと爽やかな香りが立ち上り、お客さんが味噌汁の存在に気付く。
「朝からあったかいのが飲めるなんて嬉しいわね〜」
そんなことを聞いて嬉しいしかし、全員に具の入った味噌汁を渡すため頭は鍋いっぱいの味噌汁と上に浮かぶ軽やかなミョウガに全神経を注ぐ。じわじわと私の前にできる列に焦りつつも味噌汁を注ぎ終われば後は後片付け。
朝食を食べたら少し休み時間を取る。小屋のオーナーの方針もあって、スケジュールは無理がなく、丁度いい。働いたら休む、休んだら働くリズムが日々身体に整えられていく。
この時点でお客さんは全員出かけて誰も残っていない。 次のお客さんを迎える準備をする。
食べることの他に、寝ることも山小屋の大事な要素の一つだ。布団を整え、部屋の掃除をする。掃除機を持ってきて、畳のすみまでしっかり掃除機をかけてから雑巾で拭く。
この畳がまた素敵なのだ。尾瀬の水芭蕉が畳にも咲いている。
掃除機すらも口調がちょっと可愛らしい。ギュウとねじってノズルを付ける。吸引力も素晴らしかった。
仕上げに窓も雑巾で拭く。
部屋の窓から見える景色が刻一刻と変化していく。
私がいたのは秋だったが、寒くなるにつれ錦絵の様な色彩が現れるのはまさに見事だった。
雑巾を干そうと外に出ようとしたら、なんだか目が合ってしまった…
10時ごろ、晴れていたら外のベンチでお茶休憩をする。
このおやつの時間、ミラクルな温泉小屋のファンのおかげで山ではありえないごちそうが出現する。
例えばある日のおやつ、オーナーの古い知り合いが山を越えてブドウを持ってきてくれた。
ついにはある日、なんとメロン…しかも赤肉メロン!が綺麗に切られて私たちの前に並んだ!
なんと強者のお客さんが一玉まるごとリュックに入れ、峠を越えメロンを運んできてくれたという。
沢山の人が愛して訪れる場所は、差し入れもやはり半端ではない。
お茶と一緒にいただいて、また元気になったところでぼちぼち仕事を再開する。
このぐらいの時間に、たまに「歩荷さん」がヘリコプターでは運べないものを届けに来てくれる。
ぼっかさんとは、車が入れないような秘境へ荷物を人力で運んでくれる人の事を指す。体重よりも重たい食材などを背負って長距離を運ぶ、ハードコアな仕事だ。
ヘリコプターと言ったが、それもたまに来る。
ヘリコプターが目の前に荷物を降ろす光景も普段の生活ならなかなかないだろう。
部屋の中から見ていても風がすごい。素朴そうに思っていた山小屋の生活は意外とテクノロジーに助けられ成り立っている…と木が風でビュンビュンになびくのを見ながら思う。
12時。まだお客さんは来ない。
お昼ご飯をいただく。
例えばある日は天ぷらそば。
遅く食べに来た人のそばはこうなる。
俺を使ってくれ…!という圧力を多方面からかけられ、さらに伸びる麺。
お昼を食べたら昼休みなので、各自本を読んだり散歩に出かけたりと自由だ。
私はおばあちゃんにもらった古いオリンパスカメラを持ってきていたので、フィルムを使い切るまで写真を撮りまくった。
休み時間にいつも散歩する仕事仲間のトミーさんを撮ったら印象派のような写真に。
奥で写真を撮っているのは一緒に働いたマウンテン桜花さん。彼女は山登り大好き芸人で、同時にだじゃれの達人でもある。
ところで彼女の肩書きにある「山大好き」は、マジである。
例えばある夜、私たちは茶の間で山道具について語らっていた。
私 ハイドレーション(歩きながら吸える水筒)持とうか迷ってるんですよね
桜 あ、持ってる!
私 おお〜。ヘルメットって持っといた方がいいんですかね〜
桜 ヘルメット、うちにあるよ!
余談だが、山道具は値段が張るので買うには結構気合がいる。私は去年リュックとレインスーツを新調したのだが、会計でシュッと血の気が引き、買った後は気付いたら足が地上から2mmほど浮いていた。まあ嘘だが、その位割と高めなのだ。
そんな山グッズを地道に揃え、インスタを見るといつもスッと山に行っている桜花さんは、今日もどこかで山ごはんを作っている。彼女は今、100日後に山ごはんの達人になるチャレンジをしているのだ。
シオリさんと桜花さん。アルコールジェルを添えて。
またある日はシオリさんと近くの滝に行ってみた。
轟々と流れ落ちる水。ガチ寝するシオリさん。轟々と流れる水。
あまりにも私が楽しそうなのを知って、4日だけ手伝いに来てくれた姉とも散歩。
少し歩くと小屋の集まった所があってちょっと賑わっている。
バエている彼女だが、ちなみに右足の茶色は皆さんおなじみガムテである。登山靴の靴底が劣化して取れちゃったり何かが破れちゃった時も、ガムテを一巻き持っているとなにかと重宝する。(これは優しい小屋のオーナーが直してくれました。
売り切れていなければお汁粉も食べられる。
このお汁粉、柴漬けが付いている。
甘いお汁粉を食べ、たまに柴漬けをポリポリする。ともう、これはまさしく日本の味だ!という幸せが口の中に広がる。
またある日、じっと森を見つめるシオリさん。
鹿。しかも3頭いてこっちを見ていた。
ピョンピョンと森の奥に走っていく白いお尻。お尻が可愛いって何事。
そんな事をしていると休み時間終わりまであと5分くらい。
ダッシュで帰るけどとにかく遠い。
シオリさんと世界の都市名しりとりをしながらギリギリで小屋に到着したら、夕食の準備に台所にまた走った。
あー山に帰りたい!
プロフィール
スダハンナ
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