フード
カリフォルニア料理店『Baby J’s』/異国の店主と土地の味。Vol.38
インタビュー・土井光
2025年3月2日
各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム。
土井光(以下、土井) 『Baby J’s』は、バターミルクフライドチキンの専門店ということですが、この料理はアメリカのどの地域で食べられるのですか?
Jerry Jaksich(以下、JJ) もともとはアメリカ南部が発祥ですが、いろいろな地域で食べられますし、家で作られることも多いです。イタリアでおばあさんが伝統のスパゲッティを作るように、フライドチキンのレシピは、おばあさんが家庭ごとに作っていることが一般的ですね。
土井 以前、スヌープ・ドッグの料理本に載っていたフライドチキンのレシピを見たのですが、衣にコーンフレークを混ぜたり、衣自体に味をつけているのが面白かったですね。
JJ そうそう、アレンジを効かせたレシピも多いですよ。『Baby J’s』のクラシックバーガーは、衣に味付けはせず、チキンをバターミルクでマリネして、ブレンドした小麦粉をつけて揚げるだけ。本当にベーシックなレシピです。手作りバンズは、サンフランシスコの人気ベーカリー『Tartine Bakery』のグループ会社でマネージャーをしていた、妻のケイトが手がけています。

一番人気のクラシックフライドチキンバーガー。フライドチキンに、キャベツやピーマン、赤玉ねぎ、イタリアンパセリが混ざったコールスローと、クリーミーな自家製ソースをたっぷりと。フライドポテトとビールのセットで2,600円。
土井 アメリカと言われて想像するようなジャンキーさは少なくて、シンプルな味付けで軽々食べられちゃいますね! お店は明治公園の中の複合施設内にありますが、かなり新しいですよね?
JJ 公園自体がリニューアルされ、昨年の4月にオープンしたばかり。でも、ワタシたち夫婦はもともと札幌で暮らしていて、その時すでに、同じ店名とコンセプトのお店を一度オープンしているんです。

『Meiji Park Market』という複合型フードコートの中。『Baby J’s』の他、JJさんたちが別のビジネスパートナーと共同経営をしている日本橋のベーカリー『Parklet』支店と、コーヒーショップ『Parklet Kiosk』が入っている。この空間と店舗はすべてJJさんとケイトさんが運営をしており、天井が高く、テーブル同士の間隔が空いた広々とした店内が気持ちよい。内装は、サンフランシスコの港にあるマーケットプレイス『フェリー・ビルディング』の飲食スペースを参考にして手がけた。
土井 今回が二度目のスタートなんですね。札幌では、いつ頃営業していたんですか?
JJ 2020年、パンデミックの真っ只中でした。オープニングデイと、北海道が緊急事態宣言を発表した日が被っていたくらいですよ。なので、常にテイクアウトのみで、スタッフも基本ワタシたち2人だけ。苦労しましたが、東京から来てくれたお客さんが「ベーカリーをこれからオープンするから、ぜひ一緒にやりましょう」と誘ってくれて、札幌のお店は閉じて、東京に来ました。今も変わらず、その人たちと日本橋のベーカリー『Parklet』の共同経営をしていますが、新たに物件が見つかり、『Baby J’s』を再オープンすることにしたのです。
フライドチキン以外にも、アメリカらしいサイドメニューが。レタスと季節の野菜に自家製ディルドレッシングをかけたBaby J’sサラダ(左¥1,300)や、スパイスとビーンズがたっぷり入ったチリスープと、とうもろこし粉で焼いたコーンブレッド(セット右¥1,200)など。スープとブレッドは、テキサス州などを中心に、冬によく食べられる定番料理だそう。
土井 この5年間で様々な変化があったのですね。そもそも、札幌に暮らすことになったきっかけは?
JJ ワタシは、22歳から25歳まで札幌に住んでいたことがあったんです。英語の教師として初来日して3年勤めた後、日本の食文化や宴会文化にもっとコミットしたいと思い、焼き鳥屋さんの焼き場で1年間働きました。その後は長いことアメリカに帰っていたのですが、まだ小さい息子には異言語に触れて欲しいという思いがあり、以前ワタシが住んでいた札幌に引っ越すことにしたんです。
土井 孟母三遷ですね。アメリカで過ごしている間にも、ずっと飲食の道を歩まれていたんですか?
JJ そうです。最初の3年間は、バークレーにある『シェ・パニーズ』という地元産の有機栽培食材だけを使う人気レストランで働きました。その後、レストランのスタッフ2名と独立して、『Ramen Shop』というラーメン屋さんをオークランドにオープンしました。ホームパーティのとき、見様見真似で作ってみた北海道の味噌ラーメンが美味しいと評判になり、最初はイベントから始まり、その人気さからお店を持つことにしたんです。当時でもスタッフは60人超えで、今でも繁盛しています。
土井 お店というより、もう一つの会社ですね! 当時はアメリカでジャパニーズスタイルを、今は日本でアメリカンスタイルのお料理を先駆けで広めてらっしゃるのですね。でも、何度かお店を営んでいらっしゃったとはいえ、新しく自分のスタイルをオープンするってとても大変なことじゃないですか? 外国で営むとなると、ルールや衛生、店舗サイズの規定も全然違いますし。
JJ 本当にそう。店ごとにレイアウトも街もコンセプトも違うので、どうやったらお客さんが居心地のよい場所になるか常に試行錯誤です。お店は子供みたいですね。一つひとつキャラクターが違うから、問題が起きた時の解決の仕方も違う。でも、ここではスペースの広さを生かして、シェフとのコラボレーションやコンサート、ライブ、映画上映など、様々なイベントを増やしていく予定ですよ。
カフェ使いもできる店内で、『Parklet』のマフィン(¥580)や『Parklet Kiosk』のコーヒー(¥000)なども楽しめる。客席からは、料理もパンも作れる大きなキッチンがガラス越しに見える。
土井 東京のレストランで、エンターテイメントなイベントは珍しいと思います。新しい様々な挑戦が素敵です!
JJ スタッフたちによる食のポップアップもやっていますよ。カリフォルニアの飲食店では、スタッフが作った賄いが「美味しい」と話題になると、店内でポップアップをして、ゆくゆくは独立するという流れが本当に多いんです。『Baby J’s』でも、メニュー開発の際なども常にみんなの意見を聞きますし、スタッフ向けの料理クラスなども開いて、仕事というより学校のように全員で高め合っていこうという姿勢が強いですね。オーナーだけでできることは限られていますから、みんなの力を借りながら頑張っています。
土井 自由で民主的なアメリカらしいし、それぞれのモチベーションが上がって気持ちよく仕事ができそうですね。飲食は難しいこともたくさんありますが、それと同時に、すごく楽しいということがお二人からよく伝わってきました。

土井さんからのコメント「明治公園の広い芝生の横に、ガラスの壁の楽しそうな空間が。あまりにも大きかったので、そこがすべてレストランとカフェだとは思いませんでした。店内に入るとアイスクリームとコーヒーが頼めるスペース。その横にパン工房がガラス越しに見えます。前に進むとすぐベーカリーがあり、美味しそうなパンの香りがします。広々とした店内は午前中でも沢山のコーヒーを楽しむ姿が。そして一番奥にはハンバーガーが提供されているスペース。と盛りだくさんですが提供しているものはシンプル。手作りの美味しいパン、丁寧にドリップされたコーヒー、そして郷土愛の詰まったバターチキンのバーガー。シンプルなものを愛情込めて、丁寧に作っているチームの雰囲気がとても心地よい空間です。小物にもこだわっているし、サイドメニューも魅力的。細部まで意識を向けてお店を作られているのがわかりました。オーナーのJJさんご夫婦は明るくて優しい、好奇心と探求心に満ち溢れているカップル。お二人と話すと仕事への情熱とチームとのコミュニケーションの取り方、妥協しない仕事が大事なことが改めて実感できました。愛の溢れているお店にはしっかりと踏ん張って管理をし、その仕事に誇りを持っている人がいると再認識。興味深いお話しを沢山聞かせていただきました。ぜひ、美味しい食事と楽しい空間に遊びに出掛けてみてください!」
インフォメーション

Baby J's
◯東京都新宿区霞ヶ丘町5-7 ☎︎03・6434・0597 11:00〜18:00、金・土〜22:00、日・祝〜20:00 無休
今回取材した店主の故郷について

カリフォルニア
◯カリフォルニア州の面積は、日本全体の面積の約1.1倍。
◯人口は約4000万人。これは日本の約3倍。
◯移民が多く、人口の4割近くがヒスパニック系と言われる。
◯西側は太平洋に面し、美しい海岸線が続く。
◯ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴなどが位置。
◯1848年、ゴールドラッシュが始まった地。
◯もともとは、ヨーロッパ諸国やメキシコの支配下にあった。
◯1850年、31番目の州としてアメリカ合衆国に加わる。
◯シリコンバレーに代表されるハイテク産業に、ナッツ類や果物などの農業も盛ん。
◯美味しいは英語で、もちろん「delicious(デリシャス)」。

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