ライフスタイル

家の猫の話 Vol.9

執筆: ピエール瀧

2024年11月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

以前紹介した、オイラの不注意によって我が家から逃げ出してしまった黒猫のアズキ(コンブの兄妹)の話ですが、実は後日談があります。

オイラが夜な夜なエサ箱を鳴らしながら近所を探し回ったり、昼間に近隣の家々を巡って、「ウチの黒猫が逃げ出してしまったので、申し訳ないですがお宅の縁の下や物置のあたりを探させてください」とお願いして回った結果、近隣の住民の皆さんが周辺のあちらこちらで黒猫がいないか気にしてくださるようになったのです。とてもありがたいことに。

そして、アズキがいなくなってからひと月余りが過ぎた頃、近所の公園の茂み付近で黒猫を見たという情報をご近所さんからいただきました。

オイラは仕事中だったので、早速嫁が確認に向かってみたところ、確かに公園のツツジの植え込みの中にアズキらしき黒猫の姿が確認できました。しかもかなり痩せ細った状態で。しかし、名前を呼んでも、カリカリの皿を差し出してみても、アズキは茂みの奥深くで警戒してなかなか出てきてくれません。

子猫の時に、ダンボール箱の中にコンブと一緒に入れて捨てられ、文字通りの箱入り状態でウチに貰われてきたアズキ。そこからはリビング中心の完全に保護された生活。危険が皆無どころか、3食昼寝付き且つ人間のおかずもつまみ食いし放題のぬくぬくとした日々。しかし、ある日突然何もわからない都会の住宅街に放り出され、それでもなんとかたった一匹で生き抜いてきたのですから、今現在警戒心マシマシなのは無理もありません。

公園で無邪気に遊ぶ子供達の声がこだまする中、このままでは埒があかないと意を決した嫁は、一度家に戻って長袖のパーカーを着込んでから再度公園に向かいました。念の為にフードも被って、完全防備の状態で意を決して茂みの中に突っ込んで行きました。

ブギャギャ〜〜ッ!と大暴れするアズキの身体をなんとか掴み、身をよじって逃げようとする本気猫との大格闘の末、なんとか猫キャリーに押し込むことに成功!嫁からオイラに「アズキ確保!」の一報が届けられたのは病院の診察室からのメールでした。

格闘の際、完全防備の嫁の隙を突いて伸ばされたアズキの鋭い爪が、フードでカバーされていない鼻の頭を引っ掻いたのです。横一文字に真っ赤な線が刻まれた嫁の鼻はわんぱく感というかワイルド感が増し、「もしかして忍者の修行中すか?」といったルックスになってしまったので、医者で治療してもらったのです。ご苦労!よくやった!

ご近所さんの優しさと、嫁の活躍でなんとか家に帰ってくることができたアズキ。しかし、我が家の猫騒動はまだ始まりに過ぎなかったのです。

(続く)

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』(大根仁・監/Netflix)、『HEART ATTACK』(24年秋以降、FODで配信予定)にも出演予定。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/