カルチャー

バンドのEPから考察する、これからのシティポップ。

2024年11月7日

やっぱりバンドっていいよね。


photo: Hikari Koki
text: Tsuyachan
2024年11月 931号初出

シティポップは次のフェーズへ? 幅広い世代が生む新たな解釈。

 世界中に人気が拡大し、一大ムーブメントとなったシティポップの熱狂。高騰したとんでもない価格の中古レコードを、外国人観光客が大量に買い込むのも珍しくない光景だった。あれから数年がたち、もはや一過性のブームというよりはジャンルとして〝定着〟した感がある。そんな中、いよいよシティポップを次のフェーズへと進めるような意欲的な試みも。例えば、Emerald。2010年代後半に、シティポップというラベリングによって様々な関連プレイリストへ登録されリスナーを増やした彼らだが、このたびリリースしたアルバムではシティポップでは片づけられない音楽へと進化を見せた。ネオソウルやAOR、オルタナティブR&B、さらにはJ-POPといった、より多岐にわたる音楽性を吸収して〝ポスト・シティポップ〟とも言うべき新鮮なサウンドを鳴らすことに成功。

プロフィール

バンドのEPから考察する、これからのシティポップ。

Emerald

2011年の結成以来、SOUL/R&B/AORへの深い素養を武器に、バンドサウンドを追求してきた6人組。「Pop music 発 BlackMusic 経由 Billboard/Blue Note 行」を掲げ、この10年間の国内のR&B×バンドシーンを支えてきた。

Instagram
https://www.instagram.com/emerald.official.05/

LISTEN now!

Neo Oriented(2024、Maypril Records)

前作から7年ぶりという、長いインターバルをあけて生み落とされたフルアルバム。タイトルは、アジアのバンドとしての自国の文脈、さらに彼らが親しんできた欧米のシーンという両者を交差させる意味合いでつけたそうだ。コロナ禍に始まったという楽曲制作は、じっくり時間をかけ練りに練られており、随所で丁寧かつ奇想天外なアレンジが光る。楽器の魅力が際立ちつつも、ブレないメロディの親しみやすさが万人の胸を打つ。

 また、時を同じくして、ニューカマーのbrkfstblendも独自の路線へ。Emeraldと同様に、AORにとどまらない同時代の過去の音楽をつぶさに研究し料理することで、元々各人が持っていたシティポップ的感性が形を変えてアウトプットされている。アルバムタイトルも示唆的で、『Neo Oriented』に『City Habits』という絶妙な距離感のネーミングにニヤリとしてしまう。他方で、下の世代についても見逃せない動きが。「シティポップからポスト・シティポップへ」といった複雑な文脈を知らない若者が、フラットで素直な感性のもとでアップデートを進めているのだ。筆頭は、HiynやDJ Ofeenの面々を中心に活動する、luvやGeloomyといったバンド。ソウルフルなシティポップサウンドは非常にグルービーで、そこに中毒性高い振り付けも加えながらプレゼンテーションする軽やかさが見事。歴史と文脈に造詣の深い上の世代と、自由に無邪気に編集〜再構築する下の世代という、双方がそれぞれの感性で魅せるポスト・シティポップ的展開。今後の動きからもますます目が離せない。

プロフィール

バンドのEPから考察する、これからのシティポップ。

brkfstblend

SSWのMichael Kanekoと、様々なアーティストのサポートを務めるKeity、粕谷哲司が結成した新バンド。3人が共通で好きな’70〜’80年代のAORを軸にオーセンティックな音を追求。ミュージシャンからのリスペクトも厚い。

Instagram
https://www.instagram.com/brkfstblend/

LISTEN now!

City Habits(2024、go home records)

多岐にわたり音楽活動を展開しているメンバーだからこそ、brkfstblendでは「楽しいことしかやらない」という信条らしく、肩の力が抜けた空気が素敵だ。歴史をなぞる忠実なアプローチと、そこに加える“遊び”のバランスが絶妙。AORだけでなくファンクやサザンロックのグルーブも取り入れており、サウンドの端々から深い音楽的教養が垣間見える。「nyc」といった曲では“レトロ”をとことん突き詰め、ほんのりと現代風にアップデート。