カルチャー
毛利衛さんに、宇宙と未来の話を聞く。【前編】
宇宙飛行士が語る火星移住、そして地球の未来……。
2021年6月10日
text: Keisuke Kagiwada
2020年7月 879号初出
※毛利氏の肩書きはインタビュー当時のものです
かつて宇宙は地球人に残された唯一のフロンティアだった。しかし、今や一般人の宇宙旅行が実現する日もそう遠くはなさそうだ。あらためて考えたいのは、人類が宇宙を目指すのはなぜなのか? ってこと。というわけで、日本人初の宇宙飛行士であり、現在は日本科学未来館で館長を務めている毛利衛さんに話を聞いた。聞き手を買って出てくれたのは、宇宙好きな映画監督の三宅唱さん。どうやら宇宙には、地球の未来のヒントが隠されているようだ。
毛利さんはなぜ館長になったのか?
三宅唱(以下、三) 僕は毛利館長と同じく北海道出身なんです。館長が「エンデバー」に乗ったのは、僕が小学2年のときで、「余市の人が宇宙に行けるなんて!」と驚いたのをよく覚えています。それがきっかけで宇宙に興味を持ち、5年生で映画『アポロ13』を観たこともあって、いつか宇宙に行きたいなと憧れていたんですが、気付くと映画の世界に進んでいました(笑)。なので、今日はお話ができて光栄です。
毛利衛(以下、毛) そうでしたか。宇宙映画を撮るつもりはあるんですか?
三 夢はあります。日本映画でできるかはわかりませんが……。というわけで、最初の質問なんですが、宇宙に行った人は、帰還後にいろんな活動をされていますよね。なかには宗教家になった人もいる。毛利館長が未来館に携わろうと思った理由はなんだったんですか?
毛 宇宙に行くことは子供の頃からの夢でした。それが実現し、これから科学者として何をすべきかと考えたとき、ワクワクできる社会を育てることなんじゃないかと思ったんです。そんなとき、国が新しく作る日本科学未来館から話がきました。日本の研究者たちを支える科学技術振興機構が運営していて、従来の科学館とは違い、科学者が生み出す未来社会に焦点を置くコンセプトが新しかった。これならやりがいがありそうだということで、引き受けることにしました。
三 なるほど。僕も観てくれた人をワクワクさせるために映画を作りたいなと本当に思います。映画館を出た後、世の中が変わったように見えればいいなって。
毛 未来館もまさにそれがコンセプト。訪れた人が、科学のレンズを通すことで、世界が違って見えるようになる。それがオープン当初の目的でした。
日本科学未来館は未来を科学する。
三 今回調べてみたら、科学館って世界中にたくさんありますよね。未来館が他に負けない点はありますか?
毛 未来館は、未来を扱う世界で初めての科学館なんです。科学者からすると、未来は科学ではありません。なぜなら、証明できないから。だけど、私は21世紀はコンピューターやAIによって、未来を予測できる時代になる、特に気候変動など地球規模課題は科学研究の未来予測が信頼されるようになると言い続けてきました。そして、もうひとつ重要なのが、ビジネスや芸術やスポーツといった、科学以外の分野とも手を取り合って、未来の姿を考えるような展示を設けている点です。
三 なぜ科学以外の分野と?
毛 宇宙から地球を俯瞰すると、オレンジ色の光が、シベリアだろうとアマゾンの奥地だろうと、本当にたくさん見えるんです。これは人間が存在している証拠。2050年には世界の人口は100億人になるといわれていますが、そのあまりにも多い明かりを見たときむしろ減るかもしれないと直感的に感じました。人類は地球にいる5000万種ともいわれる生命の一つです。地球環境にはひとつの生物が増えすぎると、少なくしようとする意思、つまり多様性という全体のバランスで持続的に生き延びてきたからです。それをもとに未来を考えたとき、科学だけじゃ危ないと思いました。科学は地球の意思をコントロールできると錯覚させるところがあるので。だから、他分野と連携して未来を考えよう、というのが未来館のミッションです。
三 めちゃくちゃ興味深いです。人類が宇宙を目指した当初は、科学技術でのし上がっていこうという発想だったと思うんですよ。だけど、いざ宇宙へ行くと、宇宙船から地球へとアングルを1 8 0度切り返すことになった、という瞬間が驚きの発見です。毛利館長は宇宙から地球を見たとき、「自分の帰る星はここしかないと思った」とも発言していたと思いますが、そういうことだったんですね。
プロフィール
毛利 衛 -日本科学未来館館長、宇宙飛行士- ※肩書きはインタビュー当時
もうり・まもる|1948年、北海道生まれ。’92年、日本人として初めて米スペースシャトルに搭乗し、日米研究者が提案する43テーマの無重力宇宙実験を行う。2000年、NASA宇宙飛行士として立体地形図作成ミッションを遂行。同年~2021年3月まで日本科学未来館館長を務める。
プロフィール
三宅 唱 -映画監督-
みやけ・しょう|1984年、北海道生まれ。監督作に『Playback』『きみの鳥はうたえる』『ワイルドツアー』など。『呪怨』シリーズの起源となった「呪いの家」の出来事が明かされるオリジナルドラマ『呪怨:呪いの家』は、Netflixで配信中。
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