トリップ

ゴールドラッシュをめぐる冒険 in New Zealand Vol.2

写真・文/石塚元太良

2024年5月20日

 ニュージーランドのゴールドラッシュをめぐる冒険は、クイーンズタウンという街から始まります。現在ではトレッキングやスキーやシーカヤックなど四季を通じて、様々なアウトドアアクティビティーを楽しめる一大リゾート拠点として有名な街ですが、19世紀末のゴールドラッシュの時代には、ただただ「Camp」とだけ呼ばれていた小さな漁村でした。

 そんなクイーンズタウンには、ニュージーランド航空の国内線を乗り継いで向かいます。日本からの到着空港オークランドからは2時間ほど。機体が徐々に高度を下げその下界が見えてくると、あたりの山脈の威容に圧倒されます。氷河の後退により侵食された多くのV字谷と、目が覚めるような蒼き湖で成り立った美しい場所で、スイスのツェルマットや、カナダのバンフなど世界の名だたるリゾートタウンに比肩できる場所と言っても過言ではありません。

 今回の旅には、冒険度合いをささやかに深めるため、マイ自転車を持参してきました。東京で街乗りとして使っているマウンテンバイクですが、ニュージーランドのトレッキングルートが、マウンテンバイクにもルートがかなり開かれていることを事前に知り、今回のゴールドラッシュを巡る旅に最適な乗り物だと思ったからです。

 トレイルの玄関口であるアロータウンは、クイーンズタウンからはわずか30キロほど。そこから撮影の舞台は、更に高度を1400m程まであげた山中にあるのですが、下調べでは山中に至るトレイルルートも日本の多くのそれとは違い、マウンテンバイクの通行が許されたルートがほとんどのよう。

 重量が全体で15キロほどもある撮影の機材と、食糧、テント寝袋などの夜営の道具を全て積み込んで未舗装の坂道を上がることができるのか疑問や不安は残りますが、とにかく大切なのは、自分の背中を押してくれるような装備を揃えること。機材は自転車のどこに積み込み、テントと寝袋は自転車のどこに収納するべきか、それら装備はどんなものが今回の遠征には合っているのだろうか。出発前にあれこれを考えているときが、実は一番楽しい。もちろんそんな瞬間から旅そのものはスタートしているわけです。

 オークランドのニュージーランド航空のカウンターでは、当たり前のように輪行用の段ボールに詰め込んだ旅の「相棒」たるマイ自転車を受託手荷物として預かってくれます。(もちろん重量の制限などはあり)

 クイーンズタウンに到着し、おもむろに自転車を組み立て、その「相棒」に乗り込むと、知らない街がまるで自分の街のように感じるから不思議です。「自由」の感覚とはこんな瞬間にあるんだよな。などと、ひとりごちながらクイーンズタウンでの初めての晩御飯にありつくために、ダウンタウンまでの長い長い坂道を下っていきます。

プロフィール

石塚元太良

いしづか・げんたろう|1977年、東京生まれ。2004年に日本写真家協会賞新人賞を受賞し、その後2011年文化庁在外芸術家派遣員に選ばれる。初期の作品では、ドキュメンタリーとアートを横断するような手法を用い、その集大成ともいえる写真集『PIPELINE ICELAND/ALASKA』(講談社刊)で2014年度東川写真新人作家賞を受賞。また、2016年にSteidl Book Award Japanでグランプリを受賞し、写真集『GOLD RUSH ALASKA』がドイツのSteidl社から出版される予定。2019年には、ポーラ美術館で開催された「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」展で、セザンヌやマグリットなどの近代絵画と比較するように配置されたインスタレーションで話題を呼んだ。近年は、暗室で露光した印画紙を用いた立体作品や、多層に印画紙を編み込んだモザイク状の作品など、写真が平易な情報のみに終始してしまうSNS時代に写真表現の空間性の再解釈を試みている。