ファッション
結局、捨てませんでした。
スタイリスト・長谷川昭雄と考える、2024年のシティライフ。
2024年4月21日
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/04/f2f311980457b4db6657f51afa9fbc4a-750x750.png)
ぼくと服と東京の暮らし。
photo: Seishi Shirakawa
direction, styling & text: Akio Hasegawa
text (dialogue): Neo Iida
edit: Shigeru Nakagawa
2024年5月 925号初出
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2024/04/DMA-_DSC0402-1-1.jpg)
アルテックのスツール 60 ワイルドバーチ
1933年の発表以来、〈アルテック〉を象徴するデザインとして愛され続けた「スツール 60」。1970年代より節があるバーチ材を表面に使用することは控えられていたが、気候変動の影響から近年、フィンランドの森の木々に節や虫の跡がついたものが多く見られるようになったという。そこで、自然そのままで美しい、という理念のもと、以前の基準では避けられていた節のある木材を表面に使い始めた。プライスは通常モデルと同じ。節があるからダメではなく、価値はあくまで同等。〈アルテック〉の強いメッセージが感じ取れる。スツール「スツール 60 ワイルドバーチ」¥35,200(アルテック☎0120·610·599)
――家具選びって、つくづく難しいなと思います。椅子なんて特に、何を買ったらいいのか。
長谷川昭雄(以下、長谷川) 若いときに家具を買うんだったら、こういう〈アルテック〉の「スツール 60」みたいな椅子がいいと思う。なんでも、名品とはどういうものか、少しでも多く体感しておいたほうがいいじゃない? コンパクトだし、そんなに高くないし、金に困ったときにも売りやすいと思う(笑)。持っていて、恥ずかしくないし。こういう椅子は、若いうちに買ったほうがいいんだと思うよ。
――前から使っているんですか?
長谷川 いや、僕は持ってないんだけどね(笑)。実は昔はあんまり好きじゃなかったんだ。『モノクル』のオフィスによくあって、なんか見飽きてしまっていたというか。たぶん、このつるっとした表面感に、あんまり面白さを感じなかったんじゃないかな。他の名品を体感するのに忙しかったし(笑)。
――本当にシンプルですもんね。
長谷川 でも、このモデルに関しては、こういうふうに節(ふし)がある木を使うことですごく素朴な味わいに仕上がっている。そこが今までなかったから、あまり興味が持てなかったんだ。洗練されすぎてたというか。本来、椅子を作るときは節を避けて作るぶん時間がかかってしまうらしいんだけど、節のある部分を使うことで生産効率を上げて、捨てる木を出さない、無駄がない、というテーマで作っているらしい。節が入ったことで、突然、興味を持ったんだ。スタッキングもできるし。でも普通なところがいい。
――そのあたりの機能美は、さすがアルヴァ・アアルトのデザインだなあ。今もフィンランドのトゥルクにある工場で緻密な工程を経て作られているそうです。
長谷川 なんか、スウェーデンで作ってた時代があるんでしょ?
――そうみたいですね。調べたら、戦後、物資の供給不足で一時的にスウェーデンの工場で「スツール 60」を生産してた時代があるようで、レアものになってるとか。
長谷川 気になるね。そういえば『モノクル』でも、創刊2年目くらいからモノクルショップで別注してたんだよ。確か刻印が入ってたのかな。あれが16年くらい前だと思うと、本当にベーシックな椅子なんだよね。それが今、こうやって節のついた木材を使って、環境に優しい取り組みを始めてるのも、面白いなと思う。それに、この素朴な感じがかわいい。
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ヤハエのガラ紡 ルームソックス
出合いは、代々木上原のオーガニック食料品店の雑貨を扱う店舗だった。この厚さと、素朴さは、靴下コレクターの僕にとって衝撃の一足。これを超えるものには、後にも先にも出合えていない。ガラ紡とは、繊維長が短い綿を紡績する日本発祥の技術。紡績機でははじかれてしまう短い繊維をガラ紡機で糸に紡ぎ、表情豊かなソックスに編み立てている。空気をたっぷりと含んだふっくらとした風合いではき心地もいい。日本ならではの「もったいない」精神から生まれた良品。ちなみに、部屋ばき用として作られたものだけど、普通のソックスとして使用可。オーガニックコットンのソックス「ガラ紡ルームソックス」¥3,630(ヤハエ清澄☎03·5875·9510)
――この靴下も、いい風合いでいいですね。
長谷川 うん。これは、通常は使われない「落ち綿」と呼ばれる綿を使って、奈良の工場で作っている〈ヤハエ〉の靴下。糸をわざわざ集めて紡ぐわけだから、手間はかかるけど、環境にも優しい。
――「落ち綿」ってたまに聞きますけど、どういうものなんですか?
長谷川 よく乾燥機の隅にふわふわっとしてるのあるじゃない。ああいうやつ。紡績工場に行くと、そこらじゅう落ち綿だらけなんだよ。
――そうか、繊維長の長い綿は糸として紡績されていくけど、短いと落っこちてしまうわけですね。それが落ち綿。
長谷川 そうそう。本来は捨てられてしまうくらい繊維が短いから、それを紡ぐのって大変なことだと思うんだよ。でも、だからこそこのボコボコ感ができる。
――ぼてっとしてかわいい。
長谷川 そうなんだよ。素朴さがカワイイ。僕は靴下がすごい好きで、たぶん誰よりも集めていると思う。その中でもこれがダントツでガサガサ、ゴワゴワしてる。よくアメリカものでこういうのあるんだけど、こっちのほうが全然ゴツゴツしてる。でも、オーガニックコットンだから、肌触りもしなやかで柔らかい。アメリカものにはない優しさがある。
――生成りの風合いがいい感じです。
長谷川 うん。シンプルなコーディネートが好きだから、色の付いた靴下が好きじゃないんだ。はくこともあるけど、やっぱり白。たまに紺か黒。半年に一回くらい茶ってときがあるくらい。そして絶対、無地。スタイリングをするのに、靴っていう存在があって、そこに接続すると思うと、靴下は白がいちばんいいんだよね。スーツだったら生地か靴と同系色の靴下がいいけど、そうじゃないシーンには白がいちばん美しい。それは絶対。
――長谷川さんにとって、やっぱり靴下の存在って大きいんですね。
長谷川 そうだね。2012年の『ポパイ』のリニューアル1号目だった「シティボーイのABC」でも靴下を1ページ大で紹介したんだ。僕は、パンツとか靴下みたいなものこそ、お金をかけて選んだほうが絶対いいなと思ってる。でもそういうところにはお金をかけない人が多い。だからみんな、意外と変な靴下をはいてるじゃない。パンツも(笑)。僕は、そういうところが、すごく大事だと思う。服なんかその次でいい。靴を脱いだときに変な靴下が見えるより、ちょっと小綺麗な白い靴下をはいている人のほうが、絶対にオシャレだと思う。もし、変なシャツを着ていたとしても、靴下とパンツがクラシックでシンプルで清潔だったら、ホンモノだよ。信頼できる。あと、靴もね。
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