CULTURE

愛用のカヌーで漕ぎ出し、腐った脳味噌に自然の息吹を吹き込め

2021.05.20(Thu)

photo: Ann Yow-Dyson
text: Kosuke Ide
special thanks: Shogo Hagiwara, George Dyson
2012年6月 782号初出

19世紀に自家製カヌーで旅をしたナサニエル・ビショップなる人物からアジテーションを受け取ったニューヨーク生まれの青年、ジョージ・ダイソンは、1‌9‌6‌0年代末に大学をドロップアウトしてカナダのブリティッシュ・コロンビア州の森にある地上30mのツリーハウスで暮らし始めた。世界的物理学者の息子でもある彼の夢は、遥かアラスカまで続く多島海の沿岸水路(インサイド・パッセージ)を、自ら作ったシーカヤック(シーカヌーとも)で旅すること。それも、太古の昔から極北に住むアリュート族たちが狩猟のために作り上げてきた「バイダルカ」と呼ばれる最高のカヤックを復元して。

世界的に有名なカヤックビルダーでありカヤック文化研究者であるジョージ・ダイソンは現在、コンピューター・テクノロジー分野の歴史学者として研究・執筆活動に専念している。

骨組みの木材や獣骨はアルミに、船体に張る海獣の皮はナイロンに変えリメイクしたバイダルカで、彼は数千㎞の沿岸水路を自由に移動した。その顛末を描いた評伝『宇宙船とカヌー』は、幻のカヌーの復活を志したナチュラリストの息子と巨大宇宙船の建造を夢見た父の物語。大自然の空間を泳ぐ宇宙船とカヌー、その行く先に決まった道はないのだ。

ジョージの著書『バイダルカ』(情報センター出版局)はバイダルカ研究の集大成。(1枚目)『宇宙船とカヌー』(ケネス・ブラウワー著、ちくま文庫)はジョージと父・世界的物理学者フリーマンの生き方を重ね合わせて描いた傑作評伝。(2枚目)
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