CULTURE

伝承あやとりを取ってみる。

2021.04.11(Sun)

photo: Hiroshi Noguchi (2,3,5), Philip Noble (4), The Yomiuri Shimbun (1)
text: Kosuke Ide
2020年11月 883号初出

昔から人は部屋の中で手作りして、誰かに何かを伝えるものを作ってきた。
お金をかけずにね。

1.アメリカ・ナバホの女性が作る「ヤコブのはしご」。ネイティブ・アメリカンの人々の間では、あやとりを外の社会の人々に見せない「ウィズダム・キーパー」(叡智の守り人)もいるという。

 勉強もスポーツもまるでダメ、落ちこぼれの「のび太」の特技が「あやとり(と射撃と昼寝)」って設定、何だかかっこよくないか。パパからは「男の子らしくない」、ママからは「役に立たない」と咎められつつも己の趣味を貫くその姿勢がシティボーイだ。ともかくあやとりを単なる「子供の手遊び」と軽んじるなかれ、そのルーツは実に奥深い。

 環状にした紐を両手の指にひっかけ、紐を取ったり外したりしてさまざまな形を作る。「あやとり」の文化はオセアニア、北米、南米、極北圏からアフリカまで実に多くの地域で見られるが、その多くは文字を持たない社会の中で伝承されてきたもの。こうした社会では、共有すべき知識や歴史を文字以外の方法で次世代へ伝えていくため、歌や踊りなど身体を使って記憶を保存する技術が開発された。あやとりもまた指先を動かす中で集中力を高めたり、ものごとを記憶するという役割があったと考えられている。こうした歴史を持つ「伝承あやとり」のモチーフは、山や川などの地形、星や月などの天文、動植物から神話、楽器や敷物まであり、いずれも彼らの暮らしの中の身近な存在ばかりだ。

2.「お母さん」
6.「カモメ」を取るグリーンランドの女性。

 共同体の記憶が刻まれた伝承あやとりの文化は19世紀以後、西欧文明の波及とともに衰退していったが、これを研究・保存してきた少数の人々の手によりその断片が受け継がれてきた。彼らが記録した資料によって、今も各地の伝承あやとりの取り方までが遺っているというわけだからありがたい。その保存・研究を行っている「国際あやとり協会」会員の野口ともさんによれば、「初心者にお勧めなのは、日本を含めアジア、アフリカのあやとり。特にアフリカにはとても簡単で造形の美しいあやとりがあります」とのこと。まずはテキストを手に取りトライして、のび太よろしく「あやとり名人」を目指すべし。

Reference Books

「国際あやとり協会」の協会員で、故・野口廣の妻である野口ともさんは現在も伝承あやとりの普及活動を行っている。左はともさんの著書で、取り方の解説も豊富な「世界の伝承あやとり」シリーズ(全5冊。写真は『南北アメリカのあやとり』。初級は『アジア・アフリカ・ヨーロッパのあやとり』/ともに誠文堂新光社)、右は世界各地の伝承あやとりの文化を紹介した『世界あやとり紀行』(INAX出版)。

SHARE: