カルチャー
絶対に見てほしい、マーガレット・キルガレン。【後編】
野村訓市による、バリーとアーシャ・マッギーとの対談
2024年3月27日
野村訓市(以下、野村) 最初にサンフランシスコのミッション地区について聞きたいんだけど。昔、バリー達がいた頃と随分変わったと思うんだよね、カフェやギャラリーなんかもできたりして。
バリー・マッギー(以下、バリー) 変わらないと思うよ、相変わらず無法地帯で、’90年代のほうがいいくらいだよ。いい意味で。
野村 そうなの?(笑)。コロナ以降のサンフランシスコは確かに治安が悪化していると聞いているし、見た感じもそうだったけど。ミッション地区でバリーやマーガレットが活動していたのは’90年代だったと思うけれど、そもそもマーガレットとバリーはいつ出会ったの?
バリー ’90年代の初頭、’92年とか’93年の頃だったと思う。バークレーであったピクニックで出会ったんだよ。一応その前から知ってはいたけれど。彼女は画材屋さん、『世界堂』みたいな店で働いていたから。
野村 何だか素敵な出会いだね。
バリー 以前はコロラドの美大にいて、そのとき一年だけ同級生にベニチオ・デル・トロがいたらしい。
野村 マジで! 世界って本当に変な形で繋がっているもんだなぁ。
バリー それからワシントンD.C.にもいて、その後、西を目指してサンフランシスコに辿り着いたんだ。当時のシスコというのはグラフィティもあったけれど、なんでもあって、なにもかもが混じり合ったような感じだった。あの頃は音楽とかもそうだった。
野村 確かに。ミクスチャーロックだ、オルタナティブだって、ジャンルというのが曖昧になっていたような。
バリー すべてが変わり始めたまさにそのときにマーガレットはシスコに来たんだ。ルネッサンスみたいな時期にね。ベイエリア全体がそうだったけど、女の子がグラフィティをしたり、トランスジェンダーやクィアのライターだっていたり。今でもそういう雰囲気は残っているけれどね。
野村 なるほど。
バリー ライオットガール(Riot Grrrl 。’90年代初頭にシアトルやDCで始まり広まったムーブメント。フェミニズムとパンク、そして政治も絡み大きな流れを作った。中心バンドにビキニ・キルがいる)とかが盛んになった頃だった。あんなことそれまでなかったからね。ライブハウスに行っても男は入れないんだから、女性が全てを取り仕切っていて。ライブハウスやクラブの雰囲気もすごく変わったよ。
野村 そんな時代だったんだね。
バリー そうそんなときにマーガレットはトラディショナルな活動してた。電車にタギングをしたり。ビル・ダニエルって知ってるっけ?
野村 ちょっと分からないな。
バリー 彼はグラフィティのドキュメンタリーを作った人なんだけど、彼は僕の妹のルームメイトでね。彼らとシスコの郊外を走る列車に乗ってタギングしてた。
野村 マーガレットはホーボーのスタイルを勉強したりしてどこかフォークロアな画風を生み出したと思うんだけど。
バリー そうだね。彼女はその頃、シスコの公共図書館で働いていた。本の保存部門にいてね、壊れた本の修復とかをしていたんだけど、昔の紙とかを使うからいろんなものを持っていてね。そういう紙に古い感じで絵を描いたりしていたから。そしてもちろん電車にも興味があったから、一緒に飛び乗ったり。いい時代だった。
野村 電車に飛び乗ると結構遠くまで行ったりしたの?
バリー 彼女はね(笑)。ビルと一緒にオレゴンまで行っちゃったり。僕はそこまでじゃなかった。電車は好きだけどそこまでじゃない。彼女たちは違った。ホーボーっていう言葉はちょっとあんまり使いたくはないけれど、彼女たちは実際に“電車で放浪する人たち”に昔のことを聞いたりしてたね。
野村 ホーボーたちが電車に描いたのがグラフィティの最初と聞いたことがあるんだけど。
バリー そうかもね。それは1940年代とかのことだと思うけれど、実際に最初に書いたのは鉄道で働く労働者たちだよ。線路の切り替えをするスウィッチマンとか。タバコを吸う代わりにチョロチョロと描くのにハマったりしてね。
野村 当時のシスコ、ミッション地区はどんな感じだった? 日本にいて雑誌とかを読むと「ミッションスクール」なんて言われていたけれど、ほかのアーティスト達とよく会うことはあった?
バリー そんなじゃなかったな。もちろん道で出くわすことはあったけど、皆が何をしているかなんて見当もつかなかったし、ミステリーだった。クリス・ヨハンソンは、スクワットのビルに住んでいてライブなんかがあったのは覚えているけど。
野村 そうだったんだ。でも当時のマーガレットの作品を見ると、とてもユニークというか人と違ったことをしていたよね。アメリカーナな感じって他にないものだったし。それは図書館とかで多くを学んだところから来たの?
バリー あらゆるものからだと思う。昼間は図書館で働いて古い本を見ていたけれど、ほかに2人、女性アーティストのアートプロジェクトの手伝いもしていた。それから電車に飛び乗り、バンジョーを弾いた。いろんな変わったことをしてたよ(笑)。興味あるものを掘り下げていくんだ。大きかったのは滞在型のアートプロジェクトでブラジルに行ったことかな。’93年とかだったと思う。そこで向こうのクレイジーなグラフィティシーンに触れて、向こうのライターがペンキ塗りのローラーを使うことを知ったんだ。そこでローラーを使えば大きなタギングをものすごく早く描けるということに気付いた。ローラーがものすごくパワフルな道具だということにね、スプレー缶なんかに興味がいかなかった。
野村 アメリカではローラーを使う人はいなかったの、当時?
バリー その時点ではほとんどいなかったんじゃないかな。サンパウロでは多くがローラーを使っていた。すごく遠くから見ても読めるっていうのにローラーは適していたんだ。シンプルで無骨なね。それをシスコに持ち帰ってきたんだ。毎晩巨大なレターの絵をどこかで描いてたよ。ものすごく早くね。それらはストリートアートでもなければ、グラフィティでもトラディショナルとも呼べるものでもなく、ただ彼女は彼女だけのものを描いてた。
野村 アーティストとして、彼女から影響を受けたりした?
バリー もちろん、たくさん受けたよ。
野村 どんな影響、それは?
バリー エナジー。断言できる。何かに興味を持ったものに対しての情熱というのは無限で、彼女自身のやり方でとことん突き進むんだ。そして完全に独立した人だった。そして他の人とは違う自分だけのものを作り上げていた。僕なんかはバカなことばかりしていたけれど。シスコにはそういう人がたくさんいる。今だってそうだよ。だから娘のアーシャが今シスコ市内に住むようになって嬉しい。特別な街なんだ。悪い所ばかり書かれるけれど、それこそが長所でもあるんだ。システムがイカれてる。特にコロナ後はね。警察は何もしない。けれど、だからこそ何かが起る可能性があるんだよ。クンは見てきただろう? シスコがIT、テック企業の波に飲まれて高級化してたときの街を。
野村 よーく覚えてるよ。どうやったらこんな物価のバカ高い街に住めるんだろうって思ってたからね(笑)。
バリー 金持ちにおもちゃにされてたからね。今は違う。いいよ。’90年代とは違うけど。あの頃はネットがなかったからね。
野村 ところでアーシャ、今回はバリーと一緒に展示会のキュレーションを手がけたけれど、今までもやったことある?
アーシャ・マッギー(以下、アーシャ) 大学の頃やったことあるけど、あとは一回くらい。
バリー 不幸なことに彼女は強制的にアート界で育っていたからね、どうするべきかは知ってるんだよ(笑)。物心ついた時からずっとショーにも来ているし。
アーシャ 幸か不幸かわからないけど(笑)。
野村 マーガレットは君が生まれてすぐに亡くなってしまったわけだけれど、小さい頃から彼女の作品に囲まれて育ってきた感じ?
アーシャ もちろん。家にある絵を見ることでお母さんのことを知った感じだから、今回の展示会はとても特別に感じる。ギャラリーにずっと預けていた創作スケッチブックとか、ちゃんと今回まで見たことがなかったし。アイデアがどう膨らんでいったのかとか、とても温かいというか全てが手を使って作られていることを感じられたし。
バリー 不思議な背景だよね。マーガレットは逝ってしまったけれど常に彼女を生活の中に感じながら育ったからね。どうやってアーシャがそれを受け止めていったのかわからないけど。そんなこと話したことないしね。でも彼女の作品は僕達をずっと助けてきてくれたと思う。本当に強いものなんだ。作品自体が自分を物語るというか。僕は特に彼女の作品をプロモートしてきたわけでもないけれど、作品自体がこの長い間も語り続けてくることで新しい人たちが引き寄せられていくんだ。誰も必要としない独立したもの。彼女っぽいと思うし、もしどこか適当な男が彼女について語ったりしていたら、きっと怒ったと思うよ(笑)。
野村 (笑)。ライオットガールだ。今回の作品の中で特にお気に入りのものはある?
アーシャ 入口の近くにある横顔の女性の絵かな。展示をどうするかに当たって最初に選んだ絵だし。もちろん全部好きで選べないけど。
バリー RIDEと書いてあるサイン。あれはワンショットのインク、つまりサインペインターが使うインクで描かれたもので臭くてね、描いてるとき(笑)。めちゃくちゃ有害だけど、ただ半永久的に残るほど強度もある。ここにあるものはすべてそこらへんにあったものや拾ったものに描かれたものだ。その中でRIDEは最初見たときから素晴らしかったけれど、今見るとまた違った意味を持つようにも感じて。アートが持ちうる力の素晴らしさを表していると思うんだよ。アートって本当に素晴らしいんだよ、感動させてくれるんだから。
野村 本当だよね。僕も本当に感動したというか心を揺さぶられたというか。僕はマーガレットの使う赤い色が大好きなんだけど。なんとも言えない色味で。
バリー リサイクリングセンターで手にいれたペンキを使っていたよ。余ったペンキが木曜日に回収されていたんだけれど、それを使ってた。
野村 え。特殊なものでもなんでもないんだね。
バリー 何が手に入るか、身の回りにあるもので作るのがアートだと思う。何かをわざわざ用意するのではなくてね。さっきも言ったけど筆としてどこにでも売ってるローラーを使ったし、一本25セントのフォームブラシで絵を描き出したのもマーガレットだったと思う。それでプロジェクターもない時代に下絵もなく大きな絵を描いてた。
野村 まだシスコの街にはマーガレットの作品は残ってる?
バリー 古い電車のどこかに残ってるはずさ(笑)。前見つけて写真を送ってもらったことがあるから。まだ上書きされてないということはちゃんとリスペクトされているんだね、みんな描くスペースを求めて争っているのに。それ以外にも公共図書館にも残ってるし、まだほかにもあると思う。
野村 教えてくれてありがとう、次シスコにいく時探してみるよ。最後にギャラリーを訪れる人たちに何かある?
バリー マーガレットの作品をただ見て楽しんで欲しい。そして感じて欲しい。感情を揺さぶるとてもダイレクトな強さを持ったものだと思う。僕もそれを今回再発見したし。スーツケースに入れてハンドキャリーで持って来たんだけど。彼女にとって日本での初のソロショーだ、きっと喜んでいると思う。
アーシャ 作品がもつエネルギーを感じて欲しいし、細部もよく見て欲しいな。ペイントのブラシの跡とかそこにアーティストの人となりが宿ってると思うから。
インフォメーション
Margaret Kilgallen “INSIDE OUT”
会場:Scooters For Peace 東京都渋谷区神宮前2-19-5
会期:2024年3月9日(土)〜5月11日(土)
時間:13:00〜20:00
休み:日・月
料金:無料
Instagram
https://www.instagram.com/scootersforpeace/
元々マーガレットのグッズが作成されることが稀なのだが、今回はサンフランシスコ近郊「Half Moon BayのBlack Stamp Studios」によるグラデーションのシルクスクリーン製トートバッグも数量限定で発売中。
https://scootersforpeace.com/products/margaret-kilgallen-tote
インフォメーション
シブヤ・アロープロジェクト
災害時の一時避難場所の位置を、アートを通じて周知させる渋谷区のプロジェクトで、今年、制作されたのがバリー・マッギーと長年の作品パートナーであるAmaze(アメイズ)によるウォールアート。場所は渋谷駅と恵比寿駅をつなぐ線路の高架下で、庚申橋西交差点脇の「庚申道架道橋」。
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