ライフスタイル

【#3】今日もとりとめのないことを

執筆: 鈴木杏

2024年1月25日

鈴木杏


photo: Seiji Kondo(portrait)
illustration & text: Anne Suzuki
edit: Yukako Kazuno

舞台『骨と軽蔑』の稽古が始まって二週間が経った。稽古最初の頃は、台詞や動きやニュアンスのことで頭がパンパカパンになっていたが、その情報量とスピードにもだいぶ慣れてきた気がする。

作・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチさんは、稽古を進めつつ台本を書いていくので、台本が全部ある時よりもっともっと宝物探し感が増していて、日々わくわくが止まらない。

台本がある状態で稽古をすると、どうしても役の人柄や心の動きなど、すぐ構築していきたくなって、いろんなことをすっ飛ばして一番近道を行こうとしてしまう。それはそれでよしとしても、KERAさんの現場のように少しずつ、三歩進んで二歩下がってちょっと方向を変えてみたりゆっくり探れる時間はとても貴重だ。

そもそも私はいままで、なにをそんなに急いでいたんだろう? ついつい最短距離で早足で進もうとしていた気がする。でも立ち止まったり、歩みをゆるめたり、遠回りをしていくことで見つかることがたくさんある。焦らなくていい。なんとかなる。

出来うる限り遠回りをして色を重ね続けて。複雑で魅力的な、より味わい深いところへ。そして最後は純粋に、おもしろいいきものに。役も、私自身も。

プロフィール

鈴木杏

すずき・あん | 女優。1987年東京都生まれ。1996年にTVドラマでデビュー後、多くのドラマ、映画で活躍。2003年『奇跡の人』で初舞台を踏む。2021年、舞台『殺意 ストリップショウ』『真夏の夜の夢』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、読売演劇大賞 大賞・最優秀女優賞、紀伊國屋演劇賞個人賞に輝く。近年は個展などアーティスト活動も行う。KERA CROSS第五弾『骨と軽蔑』が、2月23日より日比谷・シアタークリエにて上演予定。

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