カルチャー

NYで生まれた話題のチーム〈VIOLET〉。

新しいビデオが出たら必ず観ちゃう。世界中から注目される彼らの名は……。

2023年8月29日

スケートが教えてくれること。


photo: Jiro Konami, Curtis Buchanan
text: Kunichi Nomura
2023年9月 917号初出

 スケートが好きな者なら一度は名前を聞いたことがあるといえばウィリアム・ストロベック、通称ビル。聞いたことあるけど、どこのライダーだっけ? いくつくらい? ビルは確かにスケーターだけれどプロスケーターではない、フィルマー、映像作家。今となってはレジェンドばかりが所属していたことに気付く〈Alien Workshop〉でフィルマーとなり、名作『Photosynthesis』を撮り、それからニューヨークへ移り住むと、数々のスケートフィルムを作り続け、スケートチームを立ち上げることを決めた〈Supreme〉初の長編ビデオ『cherry』を撮ることでスケート界のみならず一般にも知られるようになったスケートビデオ界を代表する男なのだ。そんなビルが2021年の暮れに突如始めた新しいプロジェクトがスケートブランド〈VIOLET〉。今最もスケートらしいといわれる彼ら、一体何が他と違うのか教えてもらった。

「まぁやってみるかって感じで始まったからな。特別プランがあったわけじゃないんだ。〈Supreme〉のスケートビデオ『Play Dead』を撮っているときに面白いキッズと出会ってね、一緒に何かをやるなら今しかないって思ったんだ。ただ撮影だけをこれからやりたいわけじゃなかったし、何かクリエイティブなプラットフォームを俺とみんなでやったら面白いと思ったんだ。他のブランドだったらできないことを自分でやろうかなってね。いろんなキッズがチームにはいる。俺にとって若い奴らがいつも一番面白いんだよね、エネルギーがあって、先のことなんて考えてなくて今を生きてる。俺と同い年のような年寄りはもう人生が決まっててつまらないからね(笑)」

 常に新しいスケーターを見つけてはフックアップしてきたビルは、スケート界随一の目利き。ビデオで取り上げることで知られるようになったスケーターは山のようにいる。どうやっていつも面白いキッズを見つけられるのか? 

「人の中にマジックを見つけるのがうまいんだと思うよ。で、そんな奴らを引き上げてやりたいと思ってやってきた。まぁ金にならないタレントエージェンシーみたいなものだ(笑)。〈VIOLET〉のチームライダーは9人いるんだけど、みんな同じ時期に出会った。それぞれバラバラなところに住んでいるけど、一緒にいるときは家族みたいな雰囲気でね。それでみんなすごいオーラがあるんだ。エフロンとかカイルとかフェミニンだけどワイルドなオーラがね。その色の感じが紫でVIOLETってつけた。お袋がテキストしてくるときにいつも紫のハートを最後につけてくるのも頭の中にあったかもしれないけど(笑)」

 そうやってできた〈VIOLET〉は男の子だけじゃなくトランスジェンダーのスケーターも一緒に交ざる、本拠地ニューヨークの空気感を自然とまとう現代らしいチームとなった。

「性別なんて俺もチームの誰一人も気にしたこともないよ。ジェンダーで何かを分ける必要なんてないだろう?  昔はよくクラブの入り口とかでスケーターの男は先に入れてもらえたものだった。『お前らはクールだ、入っていいぞ』ってね。〈VIOLET〉のチームだったらそれが性別がなんであれそういうふうに扱ってもらえたら最高だね。今のところいい感じにいってるよ。ストリートで一番今熱いケーダーも大手から移籍してきたし。俺たちのチームに何かいいバイブがあるってことだろう? 金じゃなくね」

 それぞれが個性を持ち、自由な雰囲気を醸し出している〈VIOLET〉のチームライダーたちは、どこかストリートスケートが最初に盛り上がった’90年代のスケーターを彷彿させる。

「そうかもな。みんないろんなことが好きなんだ。ドラムをやってる奴、アートをやってる奴。そういう奴がたまたまスケートもできるって感じだから、普通とは逆かもしれないけどね。今は長編のビデオを作っているし、他が組まないようなブランドとものも作っていきたい。まぁ見ててくれよ」

プロフィール

スケートチーム〈VIOLET〉のライダー

VIOLET

ウィリアム・ストロベックが2021年に始めたスケートブランド。チームライダーは9人。Kader Sylla、Troy Gipson、Efron Danzig、Seven Strong、Kris Brown、Kyle Teh、Mike Ward、Auguste Bouznad、Patrick O’Mara。