カルチャー
展示「山中信夫」をレビュー。
クリティカルヒット・パレード
2023年6月26日
illustration: Nanook
text: Chikei Hara
edit: Keisuke Kagiwada
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毎週月曜、週ごとに新しい小説や映画、写真集や美術展などの批評を掲載する「クリティカルヒット・パレード」。6月の4週目は、原ちけいさんによる「山中信夫」展のレビューをお届け!
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会場:Takuro Someya Contemporary Art
会期:前期〜7月1日(土) 、後期7月15日(土)〜8月19日(土)
Nobuo Yamanaka, Dazzling Sun in Pinhole(5) 1973,(H)25 x (W)30 cm, color photograph
Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art
1970年代からわずか11年という短い作家人生の中で、一貫して視覚文化への懐疑と自然の光そのものを捉えるメディアを追求した作家・山中信夫の展示会が天王洲のTakuro Someya Contemporary Artにて開催されている。
山中信夫(1948-1982)は現存する作品数、言説、資料が十分に残っておらずこれまで正当な評価が定まって来なかった作家の一人である。なぜなら、滞在先のニューヨークで31歳という若さで急逝したことと、環境に依拠した映像インスタレーションを中心に制作していたため保存が難しいことが理由に挙げられる。昨年度に栃木県立美術館にて没後40年を記した回顧展(※1)が開催されたことを皮切りに、作家の再評価(評価そのものと言い換えてもいいかもしれない)の機運が高まっている。
彼の名を一躍有名にしたデビュー作「川を写したフィルムを川に映す」(1971)は、多摩川の上流の川面を撮影した16mmフィルムの映像を二子玉川付近の堤防から川面に向けて投影する、映像美術の発表形態を日常へと則すコンセプチュアルな作品である。
約150点とも言われる数少ない現存する山中の作品より本展では、初期に制作されたカラーのピンホール写真「あふれる太陽のピンホール」(1973)と、ピンホール写真三部作から「東京の太陽」(1981年)シリーズの一部が出品されている。(前期は5/27-7/1まで。展示作品替えが予定されている。)
「あふれる太陽のピンホール」では交差点や住宅街、花畑、水中貯木場など些細な変化を起こし流動するモチーフが撮影されている。また、ピンホールによって集められた光をダイレクトに印画紙に投影することで、写っているイメージ像は画面内で丸く浮かんでいる。イメージサークルの周辺には明るく鮮やかなハレーションのぼやけが、黒い印画紙に幻想的に描かれる。それは目で見た網膜の残像というより、光によって純粋に知覚される心象風景に近い。同時に、四辺のないイメージは一般的な写真のイメージが四角いフレームに還元され、レンズによって焦点を規定されることへのアンチテーゼとしても機能しているようである。
一方の「東京の太陽」は、8×10のネガフィルムを印画紙に密着焼きしたプリントである。「あふれる太陽のピンホール」と異なりプリントする際の引き伸ばしを行なっていないことで、よりダイレクトに太陽光が印象的に描写されているようである。光の環とフレアを浴びたイメージがより肉体的にネガと印画紙が密着することで、間の余白の境界線が黒く断絶する外界を生んでいる。他にもモノクロの作品や5つの風景が印画紙の上で焼かれたイメージなど、作家の創作の根源にある光、そして太陽という存在についての実直な関心と洞察が感じられる。(山中の後期にかけて制作されたピンホール写真では、「マチュピチュの太陽」「マンハッタンの太陽」なども密着焼きで制作されている)。また、前者は俯瞰や水平の画角が多くスナップに近い画角が多用されていたのに対し、「東京の太陽」では下から煽った画角や消失点の設定、遠近感、構図の配置などが絵画言語を再考するような変化を感じさせる。小さな一つ穴(ピンホール)から投射され無象の対象を描く光線は、自己と外界を隔てる空間の厚みと共同幻想のような幻想の意識を描いているようである。
フィルムというメディアに写る光と行為の痕跡を印画紙に結びつけた表現は、世界を視界から解体し、美術や社会のシステムによる還元を等価に捉え直す試みである。ジョルジュ・バタイユは「太陽は、代わりに何かを得ることなく、ただ惜しみなくエネルギーを〜つまり富を〜付与している。太陽は何も受け取らずに与えているのだ。」(※2)と太陽による贈与について述べたが、山中信夫の根源的な光への関心もまた自己を隔てる巨大な存在と時間から与えられる贈与に対する知覚の叶わない返礼であったのかもしれない。
(※1)栃木県立美術館「没後40年 山中信夫☆回顧展」2022年7月16日〜9月4日
ホームページでは山中を知る上で重要な論考(エッセイ)が現在も多数公開されている。
(※2)ジョルジュ・バタイユ,酒井健訳『呪われた部分─全般経済学試論・蕩尽』 ちくま学芸文庫,2018年,41-42頁.
澤田直、岩野卓司 (編)『はじまりのバタイユ 贈与・共同体・アナキズム』,2023年より抜粋
レビュアー
原ちけい
はら・ちけい | 1998年生まれ。写真、ファッション、アートを中心に、幅広い分野でのリサーチや執筆、キュレーション等を行う。主に携わった展示企画に「遊歩する分人」(MA2 Gallery,東京,2022)、「新しいエコロジーとアート」| HATRA+synflux(東京芸術大学美術館,東京,2022)、「不在の聖母」(KITTE丸の内,東京,2021)など。
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