カルチャー

イギリス中のレコ屋の袋を半世紀ぶん集めた男がいる。

2023年5月30日

レコードと時計。


photo: Mikito Iizuka
coordination: Keita Hiraoka
text: Ryohei Matsunaga
2023年6月 914号初出

Jonny’s Favorite Shop Bags

Musicwise Ltd.
フクロウのロゴが最高にクールな1977年創業の店。火事になって移転し、羽が新店舗の方向を指してる。

レコード屋の看板が“顔”、品揃えが“言葉”だとしたら、ショップバッグは“服”なのかな。買ったレコードを包んで表に出るために必要なアウター。オシャレでもあり暮らしの一部でもある。そんなバッグをイギリス全土、半世紀分(1000枚以上)も集めて本にした人がいる。

ジョニー・トランクさんは自分でもレコード・レーベル『トランク』を主宰する生粋のマニア。どうしてこんな本を?

「若い頃からレコードは買ってたけど、ふとしたときに、あらためてレコードバッグの持つデザインの面白さ、多様性や英国らしさ、ノスタルジックな部分に興味を持った。これをコンセプトに本ができるのではと思ったんだ」

The Disc Jockey
鳥の憎めない表情やシンプルなパッケージが好き。
Selfridges
高級デパート「セルフリッジズ」にもかつてはレコード売り場があった。品があっていいデザイン。

着想は5年前。長年のレコードマニアたちが読む雑誌『Record Collector』に広告を出し、全土からコレクションを募った。「あの広告欄をいまだにチェックしている人は、ネットで売り買いしないタイプの人間。そういうコレクターや変わり者のところにたくさんいいものが眠っていると予想したし、実際そうだった」

そうやって集めたバッグを並べるだけでなく、ネットの登場以前に廃業したお店に関しても現地まで飛んで情報を聞いて回った。だからだろう、レコード屋の情報だけでなく、いろんな街の音楽好きが集った場所のにぎわいが聞こえてきそうな本にもなっている。

Save Records
サッカーのゴールキーパーだったオーナーが開けたお店。
58 Dean Street Records
ロンドンに住み始めた頃に一番通った映画音楽専門店で、自分の人生にとって重要。
B.V. Hicks
テレビの販売や修理の会社がやってたレコード屋だってわかるグラフィックがクールだね。
Sellanby
’50年代創業で、買い取りと販売を一緒にやってる店は当時は珍しかった。写真の人の表情や色が良いね。
AZ of Record Shop Bags
2022年のRecord Store Dayに発行。アルファベット順に掲載されたレコードバッグは1940年代から’90年代まで1000枚以上。どの店についてもヒストリーが書かれている。
紙製の古い袋は博物館に保存したいレベル。ジョニーさんが痛感したのは「リアルの大切さ。現地に行かないと得られない情報や出会いは今もある」ということ。

プロフィール

Jonny Trunk

ジョニー・トランク|イギリスの音楽ライター、ラジオDJ。1995年にトランク・レコードを設立。ライブラリー、映画やテレビの音楽など世界のマニアが驚く秘蔵音源の再発などを手掛ける。