カルチャー
追うべき背中は本の中にある。Vol.3
2023年5月3日
仕事に悩んだら尊敬する偉人の人生が書かれた本を。
自己啓発本もいいけど、本棚にあるとかっこいいしね。
1. 松田哲夫 『編集狂時代』

「人間だから」を口ぐせに。
ちくま文庫を創刊した編集者の松田哲夫は、幼少期より漫画や映画に浸かってきた。そのこだわりの強さは仕事にも及び、迷路に迷うこともしばしばだ。そんなとき思い出すのが、自身を編集の道へと導いた『ガロ』編集長、長井勝一の口癖、「人間だから」。「人間だから間違いはあるさ」「人間だから完璧なんてないよ」というニュアンスがあるそうだが、仕事に対する肩の荷を軽くしてくれるキーワードを、一つ心の引き出しにしまっておくのも大事かもしれない。松田哲夫著(新潮社)
2. ヴィヴ・アルバーティン 『服 服 服、音楽 音楽 音楽、ボーイズ ボーイズ ボーイズ』

その仕事相手はシド・ヴィシャスより面倒か?
女性パンクバンドの先駆けであるスリッツへの加入前、ヴィヴ・アルバーティンはかのシド・ヴィシャスとバンドを組むつもりだった。結局立ち消えとなったが、最低な悪童シドとの日々は、バンド解散後にヴィヴが映像制作会社で仕事をするときにも役立ったらしい。なぜなら、面倒な奴と仕事することになっても、以下のように思うことで笑ってやり過ごせたから。「シドよりも?」。仕事での対人関係に悩んだら、より最悪な“あいつ”を思い出すのも一つの手かも。ヴィヴ・アルバーティン著、川田倫代訳(河出書房新社)
3. 黒沢清 『黒沢清の映画術』

会議を制すのは第三のアイデア。
会議において2つの意見が対立した場合、どう振る舞うべきか。若い頃から不毛な議論に巻き込まれることが多かったという映画監督、黒沢清の見いだした戦術は実に役立つ。「AとA’が対立している時、新たな全く関係ない第三の案を、いいタイミングで出した人が勝つ」というのがそれ。議論をすること自体が好きな人もいるから、まずは適当な意見を提案し、とっておきのアイデアは議論が膠着状態になった“いいタイミング”で、さも降って湧いたように口にするのが効果的かもしれない。黒沢清著(新潮社)
4. R・P・ファインマン 『ご冗談でしょう、ファインマンさん』

何をするための数字かを見失わない。
ノーベル物理学賞受賞者R・P・ファインマンは、あるときカリフォルニア州で使用する数学教科書の認定員に任命され、愕然とする。どの教科書も、ただ公式などを教え込むばかりで、具体的な役立て方を示唆するものが皆無だったから。数字は科学的に応用しなきゃ無意味というのが彼の意見なのだ。仕事で向き合うべき数字も同じ。それが示すものを見抜いて活用する道を探らず、数字の多寡に踊らされているばっかりじゃ、ファインマンをまた愕然とさせちゃうので要注意。R・P・ファインマン著、大貫昌子訳(岩波書店)
5. カート・ヴォネガット 『人生なんて、そんなものさ』

会社を辞めるときはリアリストになるな。
仕事の辞めどきを見定めるのは難しい。執筆業が好調になり、勤めていた会社を辞めようとしていたカート・ヴォネガットも、同じことで悩んでいた。辞めようとしても、同僚が思いとどまらせようとしてくるからだ。この同僚に対し、彼の妻が放った言葉が痛快だ。「そんな頭の固いリアリストにならないでください」。結果、退職した彼は成功を収めたが、誰もがそうなるかはわからない。確かなのは、未来は予測不可能なんだから、リアリストぶって後先の心配をしても仕方がないってこと。人生なんて、そんなもんさ。チャールズ・J・シールズ著、金原瑞人、桑原洋子、野沢佳織訳(柏書房)
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