カルチャー

追うべき背中は本の中にある。Vol.2

2023年4月26日

photo: Yutaro Tagawa
text: Keisuke Kagiwada
2023年5月 913号初出

仕事に悩んだら尊敬する偉人の人生が書かれた本を。
自己啓発本もいいけど、本棚にあるとかっこいいしね。

1. ヴィヴィアン・ウエストウッド 『ヴィヴィアン・ウエストウッド自伝』

石を投げずに、突っ走れ。

体制に石を投げるようなデザイン活動を続けてきた、“パンクファッションの女王”こと故ヴィヴィアン・ウエストウッド。しかし、あるとき彼女は当時のパートナーに「本当に体制を変えたければ、石を投げているだけじゃダメだ。自分の後を追わせるようにしなきゃ」と指摘され、自身の仕事のアティチュードを変えたという。新しいことを始めるなら、常識など気にせず走り抜けるべきなのだ。もし真に価値あるものなら、いずれそれが常識になる。ヴィヴィアン・ウエストウッド、イアン・ケリー著、桜井真砂美訳(DU BOOKS)

2. ハービー・ハンコック ハービー・ハンコック自伝』

ないなら作ればいいじゃない。

1978年の『サンライト』は、実験精神に溢れるフュージョンの名盤だ。その制作に際し、ハービー・ハンコックが必要としたのは、大量のシンセサイザーの音色を1人で弾けるように3つのキーボードに集めること。そんなことはまだ誰もやったことがなかったが、彼は「そうか、だったらおれたちには最初にそれをやり遂げるチャンスがあるというわけだな」としか思わない。そのチャレンジ精神はもちろん、新しい技術を自分の仕事にどう応用すべきかを常に気にする好奇心も見習いたい。ハービー・ハンコック著、川嶋文丸訳(DU BOOKS)

3. 横尾忠則 『横尾忠則自伝』

横尾忠則

決まった様式より、プロセスが大事。

グラフィックデザイナー時代の横尾忠則は、白黒の市松模様を用いたイラストで頭角を現した。しかし、苦労して手に入れた様式にもかかわらず、彼はあるときそれをあっさり捨ててしまう。「単に飽きっぽい性格というだけでなく、結局ぼくにとっての様式とはその追求のプロセスそのものにある」からだ。確かに、自分なりの仕事の様式を見いだすのは大事なことだ。しかし、ありとあらゆるタスクをその様式でもってオートマチックに処理しているばかりじゃ、いい仕事を続けることはできない。横尾忠則著(文藝春秋)

4. リード・ヘイスティングス 『NO RULES  世界一「自由」な会社、NETFLIX』

部下の厳しいフィードバックも受け入れる。

「Netflix」社では、“あくまで前向きな”という条件付きで、“率直なフィードバック”を交わすことを推奨していると、共同創業者リード・ヘイスティングスは語る。驚くべきは、部下から上司(ヘイスティングスも含む)へのフィードバックも積極的になされ、上司は指摘に感謝するというカルチャーが根付いているということ。仕事において注意されれば気分がよくない。部下からの指摘ならなおさらだ。しかし、“前向き”な指摘であれば、真摯に受け入れるべき。それが働く自分のためにもなるのは間違いないんだから。リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー著、土方奈美訳(日本経済新聞出版)

5. 井上陽水 『井上陽水全発言』

休日は思いっきりダラダラしよう。

休日をダラダラ過ごして終えると、罪悪感が湧く。そんな人は井上陽水の言葉に耳を傾けよう。「歌を作る事は嫌いだ」と豪語する陽水は、1つレコードを作り終えると、テレビを見たり麻雀をしたりダラダラ過ごすという。しかし、そうするうちに、音楽への意欲が湧いてきて、またレコードを作る……というサイクルで生きてきた。このエピソードが証明するのは、ダラダラの中にも次の仕事への種が眠っているということ。罪悪感なんて抱く必要はないのだ。えのきどいちろう編(福武書店)