ライフスタイル
いい仕事ってなんだろう?/高比良くるま
褒められたのはなぜかを分析する。
2023年4月22日
「面白さを言語化できたら、
世の中のお笑いレベルの総量が上がる気がする」
昨年の『M-1グランプリ』の敗者復活戦で見た、令和ロマンの漫才「ドラえもん」は熱かった。MOROHAが歌う主題歌とか、大山のぶ代から水田わさびに声が変わるとか、「わかる!」が攻めてくる感じ。決勝進出ならずも、記憶に残る4分間だった。そんな令和ロマンのYouTubeチャンネルを見ていると、「1回戦対策講座」や「敗者復活戦の攻略法を考えよう」といった考察動画が目立つ。もちろんエンタメではあるけれど、根底にはボケの高比良くるまさんの分析力が生きている。
「気温とか音響とか、その時々の環境を考えるのが好きなんです。例えば敗者復活戦の会場は野外の六本木ヒルズアリーナで、東京中の風が流れ込む。日が沈むとめちゃくちゃ寒いんです。寒いとお客さんは笑いづらくなるので、出順が遅いときついんですよ。そうなったらどうしようかなと考えて」
12月の吹きさらしは確かにきつい。いくらいいネタができても、お客さんが万全の状態じゃないと笑いは起きないもんなあ。
「あと客席のガンマイクが演者を追いかけてくるのが面白いなと思ったんです。ガンマイクが左右に動くと僕が無茶苦茶してるふうに見えるから、ネタにその笑いが乗っかるんですよ。『M-1』ではそういうボーナスポイントも取りに行ってます。カラオケ採点でしゃくりとかビブラートで点数ひたすら上げるみたいな。実力とかフィジカルな質とか声量とか演技力みたいな面では、俺らは準決勝に行ってる人たちの中でも下のほうだと思うんで、コツコツ足していく」
いやいやそんなこと……と素人は口を挟みたくなるけれど、これは芸人の頂上決戦の話。きっと我々には見えないパンチやキックが山ほどあるし、くるまさんによる自己分析ではそういうことになるらしい。その思考はメモしておくんだろうか。
「書く脳の人じゃないんですよ。発話の脳みその人なので、人に聞かれて喋ったときに思いつくし、筋道が立つんです。文字で書こうとすると矛盾しちゃうというか」
ただ、iPad miniには考察の跡があった。
「普段は書かないんですけど、これは気になったのでまとめました。先輩が俺らのABCお笑いグランプリのネタを見て、『おもろかった』って言ってくれたらしいんです。“AKB48の歌を秋元康先生が歌ってたら”っていうネタなんですけど、『お客さんに想像させる感じが落語みたいだった』って。それを聞いて、じゃあ何をもっておもろかったんだろうと考えたんです。あれって分解すると『桃太郎がおっさんだったら』みたいな、何かと何かをかけあわせるネタと一緒なんです。俺たちの独自性としては、まず『AKB48の歌を秋元先生が書いている』っていう事実があるんですよ。それに対して、『秋元先生というおじさんが若い女の子の歌を書いてる』っていう真実がある。真実のほうが事実よりちょっとおもろいんです。基本的にみんな事実で生きているから、真実を見せないように事実を提示して、後から真実が追い越してくるのがおもろいのかなって」
なるほど、「おもろい」を感想で終わらせず、その角度で掘っていくんだ。
「ニュアンスをメソッド化したいんです。お笑いって感覚的すぎるので、なんで面白いのか言語化できたら人に伝えられるし、世の中のお笑いレベルの総量が上がる気がして。友達を川に落とすようないじめもなくなるんじゃないかと思う。それに、今の日本で最先端と思える分野ってあまりないけど、お笑いは追求する価値があると思うんです。学問とされないものなので、研究してる感じですね。新薬を作るみたいな。メソッド化したものを、笑いのズレが起きている現場に注入して、お笑い全体をよくしたいし貢献したい。そう思って無理やりやってるのが僕の活動です」
高比良くるまの仕事内容
所属する「神保町よしもと漫才劇場」の企画ライブに参加する他、大阪や京都、兵庫など全国各地にある吉本興業の劇場に出演している。即興漫才ライブ『令和ロマンのR2D2』では、来場するお客さんからのテーマでネタを作る。また、先輩や同期とのライブにも出演する。合間にテレビやラジオ、Podcastなどの収録や、自分たちで企画するYouTubeの制作を行う。またM-1戦士として毎年夏には『M-1グランプリ』にエントリー。優勝を目指す。
プロフィール
高比良くるま
たかひら・くるま|1994年、東京都生まれ。慶應義塾大学のお笑いサークル「お笑い道場O-keis」に入部し、1学年先輩の松井ケムリとお笑いコンビ「魔人無骨」を結成。複数のコンビを組み、魔人無骨以前はコントを軸にしたツッコミ役が多かった。学生お笑いサークル連盟長も務める。2017年にNSC東京校23期生となり、首席で卒業。芸歴1年目でヨシモト∞ホールのファーストクラスメンバーに昇格。改元を機に令和ロマンに改名する。2020年、『NHK新人お笑い大賞』優勝。現在『アッパレやってまーす!火曜日』(MBSラジオ、隔週レギュラーコーナー)、『令和ロマンのご様子』(stand.fm)などに出演中。YouTubeで『official令和ロマン』も配信中。
YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCEz6Z7EgtSi-rPes-SIKJEg
関連記事
ライフスタイル
いい仕事ってなんだろう?/Sho Shibuya
自分の決めたルーティンは何があっても継続する。
2023年4月17日
カルチャー
追うべき背中は本の中にある。Vol.1
2023年4月18日
特集「いい仕事ってなんだろう?」
NO.913
2023年4月6日
カルチャー
僕の駆け出し時代/塙宣之
2021年5月19日
ライフスタイル
【#1】 ジャイアントコーン
2021年3月9日
ファッション
【#1】スニーカー
2022年7月10日
ライフスタイル
【#1】 ラランドのニシダと申します。
2021年6月11日
カルチャー
今さら聞いちゃう、落語のキホン。
2021年9月16日
カルチャー
噺家の落語論イッキ読み。
2021年9月16日
ピックアップ
PROMOTION
〈adidas Originals〉とシティボーイの肖像。#9
高橋 元(26)_ビートメイカー&ラッパー
2024年11月30日
PROMOTION
〈バーバリー〉のアウターに息づく、クラシカルな気品と軽やかさ。
BURBERRY
2024年11月12日
PROMOTION
うん。確かにこれは着やすい〈TATRAS〉だ。
TATRAS
2024年11月12日
PROMOTION
〈バレンシアガ〉と〈アンダーアーマー〉、増幅するイマジネーション。
BALENCIAGA
2024年11月12日
PROMOTION
人生を生き抜くヒントがある。北村一輝が選ぶ、”映画のおまかせ”。
TVer
2024年11月11日
PROMOTION
「Meta Connect 2024」で、Meta Quest 3Sを体験してきた!
2024年11月22日
PROMOTION
この冬は〈BTMK〉で、殻を破るブラックコーデ。
BTMK
2024年11月26日
PROMOTION
〈ハミルトン〉と映画のもっと深い話。
HAMILTON
2024年11月15日
PROMOTION
メキシコのアボカドは僕らのアミーゴ!
2024年12月2日
PROMOTION
〈ティンバーランド〉の新作ブーツで、エスプレッソな冬のはじまり。
Timberland
2024年11月8日
PROMOTION
ホリデーシーズンを「大人レゴ」で組み立てよう。
レゴジャパン
2024年11月22日