CULTURE

今さら聞いちゃう、落語のキホン。

2021.09.16(Thu)

illustration: Naoki Shoji
text: Yuichi Samejima
2016年9月 833号初出


落語の基礎知識にまつわる疑問をサンキュータツオさんに質問してみた!
今さら聞けないキホンのキは、ここで一気に解決だ。


Q1. 古典と新作の違いは?

A. 江戸時代から伝わる噺が古典、1900年以降に作られたのが新作。

落語家が高座で演じるネタは大きく分けて古典と新作のふたつ。古典落語とは噺家が誕生した江戸時代から伝えられているネタで、ほとんどが作者不明のもの。基本は書物で残されていて、現代の落語家が高座にかける古典は200ネタほどですが、文献として残されているのは800ネタを超えるともいわれており、最近になって発見された噺もあります。一方、1900年(または大正)以降に書き下ろされた噺が新作落語。古典は江戸時代の噺がベースになっていますが、新作は描写やテーマがより現代的になります。落語界では、幕末から明治にかけて多くの名演目を創作した名人、初代三遊亭圓朝の逝去を境に古典から新作へ移り変わったと語られることも多いですね。


Q2. 同じ噺家の同じ噺なら、いつ聴いても一緒なの?

A. けっこうアドリブも多い。古典をアレンジした改作落語もある。

落語家は基本、寄席に集まるお客さんの様子をうかがいながら臨機応変にマクラやサゲ(落ち)を変えています。寄席では10日間、同じラインナップで落語家が高座に上がります。日によってネタを変える人やマクラを変える人など、さまざまです。寄席の雰囲気を見ながらアドリブを加え、時にはお客さんをいじったり、噺のニュアンスを変えてその時々に合った笑いを提供してくれるのが落語家です。ジャズの即興にも似てますね。そんな噺の構成の違いを見比べるのも通な楽しみ方。ちなみに古典落語を現代的な解釈や描写に置き換えてアレンジされた噺は改作落語と呼ばれています。


Q3. 新作落語にルールはあるの?

A. 会話になっていれば、基本的にルールはなし。

昔も今も新作落語を創作するのに型や形式など、決まったルールはないんです。とはいえ、ただ面白い噺をしゃべるだけでは落語にはなりません。そもそも落語というのは着物を着た落語家が高座に上がり複数の登場人物を演じ分けながら会話劇を展開すること。それは古典でも新作でも変わりません。その基本スタイルを崩してしまうと漫談など違うお笑いになってしまうからです。なお、春風亭昇太さんの師匠、春風亭柳昇さんは、戦後に新作落語の普及に努めた一人。彼らの所属する落語芸術協会では「古典も作られたときは新作なのだから二つに垣根はない」といった考えを持っているようです。


Q4. 落語家という職業はいつぐらいからあるの?

A. 江戸時代に三笑亭可楽が初めて職業としての落語家になった。

落語家は元禄期(1680年代後半)から存在しましたが、初めて落語だけを生業に飯を食べたのが初代三笑亭可楽という落語家です。もとは江戸の櫛職人だった可楽が下谷(現台東区)に寄席を開き興行を行ったのが寛政10年(1798年)。その寄席では落語のみならず客から三つのお題をもらって噺をする三題噺や謎解きなど趣向を凝らして客を楽しませていたそうです。そんな彼の寄席には落語家になりたいという者が集まり、多く名人を育成しました。その中でも特に才能に優れ人気を集めた落語家は可楽十哲と呼ばれており、そこには初代林家正蔵やのちに初代立川談志を名乗る宇治新口など、現在も残る有名な亭号の落語家を輩出しています。そういった寄席の興行から師として弟子を育成する過程など落語の基盤を築き上げた三笑亭可楽はまさに職業落語家の祖であり、今も続く江戸落語のパイオニアなのです。


Q5. 三遊亭、古今亭、柳家など、亭号には意味があるの?

A. 50年ほど前まで亭号は番組表代わりだった。

亭号とはもともと落語門下のスタイルを象徴するものでした。例えば三遊亭といえば人情噺、古今亭は滑稽噺、林家だと怪談噺といったように、その昔は門下それぞれでもっとも得意とするネタがあったようです。寄席に来る客はその亭号を確認して今日はどんな噺が聴けるのかを認識していたそうなのである意味、亭号は番組表代わりだったんですよね。でもそれは大体50年ぐらい前までの話。今は同門でもそれぞれの噺家が違ったスタイルを確立しているので、必ずしも亭号によって十八番となるネタがあるわけではありません。でも、九代目林家正蔵が怪談噺を披露するなど伝統を重んじている亭号もありますし、春風亭は柳昇も昇太も新作が十八番だったりと、師からの影響も強い世界。そんな亭号や師弟関係を意識して噺を聴くと、根底に脈々と受け継がれる技が感じられて、落語をより深く楽しめるかもしれません。十八番といえば最近、亭号よりもむしろ噺家個人で語られることが多いですね。桂文楽の「明烏」や古今亭志ん朝の「火焔太鼓」、立川談志の「芝浜」など、決定版というべき噺はこれから落語にハマりたい人は知っておいて損はないですよ。


Q6. 関西の桂文枝と関東の桂歌丸は兄弟弟子なの?

A. 同じ亭号でもさまざまな流派がある。

桂の亭号は江戸にも上方にもあるので少しややこしいですよね。時代を遡れば初代桂文治にあたり、当初は上方落語の名跡だったんです。でも三代目以降は東西に分裂して枝葉が分かれ、江戸にも桂一門ができました。そして現在、文治は江戸落語の名前になっています。落語家の襲名は歌舞伎のように血筋などは関係なく、場合によっては柳家小さんに入門し、立川談志を襲名した人がいるように亭号を跨いだ襲名も可能なので、流派の関係性を読み解くのは落語通であってもかなり複雑です。でも、それを知らずとも落語は楽しめるのでご安心を。


Q7. 真打ちにはどうやったらなれるの?

A. 年数を経れば、必ず真打ちになります(立川流をのぞく)。

東京の落語家は見習い、前座、二ツ目と修業を重ね真打ちとなりますが、だいたい15年ほどでみんな真打ちになります。ただし、年数以外に昇進に明確な基準はありません。落語界に実績を認められれば数年で真打ちに抜擢されることもあります。春風亭小朝師匠が兄弟子を24人抜いて真打ちに昇進したこともありますが、それは10年に一度の稀なケース。なお、上方には身分制度がなく、落語立川流のみ持ちネタの数や歌舞音曲ができるなど明確な基準が設けられています。


Q8. 落語協会と落語芸術協会の違いは?

A. 落語協会は古典、落語芸術協会は新作を噺す落語家が所属している。

東京の寄席に出演する落語家は落語協会か落語芸術協会に所属しています。柳亭市馬師匠を会長に古典落語の継承を重んじるのが落語協会。新作を演じる人は少数派です。一方、桂歌丸師匠を会長に古典はもちろん新作落語の普及にも力を注ぐのが落語芸術協会です。活動内容は異なりますが、同じ寄席に出演したり協会を跨いだ活動も多いので関係は良好。ただ、立川流と円楽一門会はどちらにも所属していないため寄席に出演できません。でも最近は協会や流派の垣根を越えて活動する噺家も増えているので、今後が楽しみです。


Q9. 寄席は東京にいくつある?

A. 365日いつでも公演をしている寄席は東京に4つある。

都内には浅草演芸ホール、新宿末廣亭、池袋演芸場、上野鈴本演芸場の4つの寄席が存在します。これはどこも落語協会、落語芸術協会の落語家が出ている演芸場で365日いつでも公演が楽しめます。また、国立演芸場も定期的に落語が楽しめる場所ですね。寄席は1か月を上席、中席、下席の3つに分けていて約10日刻みで出演者が入れ替わります。席亭と呼ばれる支配人が出演者や番組を組み、落語のみならず漫談やマジックなどいろいろな笑いと芸能を詰め合わせで楽しめます。僕は個人的に寄席に行くと後方の席に座ることが多いんです。後ろに座ると会場の全体が見渡せてお客さんの雰囲気も併せて寄席を楽しめます。


Q10. そもそも、噺を知っていなくても楽しいの?

A. むしろ知らないほうが楽しいので、予習はなしで。

初めて寄席に行くという人によく聞かれるのが、この質問。落語は知れば知るほど楽しみ方が変わってくるのですが、特に一番の醍醐味といえば聴いたことのない噺と出合えること。その次に知っている噺を違う噺家で聴いてみたり、どんどん楽しみが増えていくのが落語鑑賞の面白いところ。だから下手にYouTubeなどを見て予習なんてしていくと噺の新鮮さが失われてしまうのでもったいない。はじめは何の先入観も知識も持たず生で寄席を体験するのが、もっとも素敵な落語の楽しみ方だと思います。


Q11. マクラはどうやって決めるの?

A. 噺の内容に合わせて考えることが多い。

本編に入る前の導入として落語家が噺すマクラは、その日の客の様子をうかがったり、本編の噺をよりわかりやすくしたりといった役割があります。話題となっているニュースを盛り込んだり、先輩落語家をいじったり、マクラの内容は人によってそれぞれですが、基本は噺の内容とつながっていたり、時代背景、噺のサゲをわからせるためのことが多いですね。通の落語ファンだとマクラを聴いて何の噺かわかる人もいます。噺に関係ないマクラは、マクラではなく「雑談」として分ける人もいます。


Q12. 噺の途中で羽織を脱ぐのはなぜ?

A. まくらからネタに入る合図や噺の場面転換で脱ぐことが多い。

落語家の目印でもある羽織を高座中に脱ぐのは多くの場合、マクラから本編へと移り変わる合図。でも中には花魁の着物がはだける様子を表現する演出や、長い噺の場面転換に羽織を脱ぐことも。落語家にとって羽織は噺を盛り上げるひとつの道具なのです。小道具といえば扇子や手ぬぐいを上手に使いシーンを表現するのも落語ならでは。噺家が高座に上がる際にかかる出囃子も、プロレスラーの入場曲のようにキャラが出ているので聴き逃しなく。


Q13. サゲ(落ち)で笑えないのは落語がわかってないから?

A. サゲは笑わせているのではなく、江戸っ子の茶目っ気。

落語にとってサゲは必ずしも笑わせるのが目的ではありません。むしろ落語家は笑える噺をさらっとスマートに語るのが粋とされているんです。でも、最後まで上手に噺をして得意顔で終わるのも気恥ずかしいので、噺を落とすのです。個人的見解ですが、サゲは粋な江戸っ子の茶目っ気だと思ってください。ちなみにサゲは落語家によって自由自在にアレンジすることができます。サゲのみならず本編を変えるのも噺家の自由。だから聴いたことのある噺でも違った展開やサゲが用意されていることも多いので、落語通だって予想がつかないこともありますよ。そんなひとつのネタでも様々な道筋が存在するのが落語の奥深さです。


Q14. 春風亭昇太さんの落語は面白いの?

photo: Renji Tachibana

A. 昇太師匠の面白さは唯一無二。現代を代表する落語家の一人。

『笑点』の司会に抜擢されたり俳優としても活躍していたりと何かと話題の春風亭昇太師匠。テレビでのイメージが先行していますが、落語家としても人気は絶大です。その理由は昇太師匠の独特なスタイルにあります。通常の落語家は二ツ目で古典をみっちり学ぶことが多いですが、昇太師匠はオリジナルの新作を演じ続けて真打ちとなった異色の落語家。二ツ目時代から自分で新作落語を書き下ろすことで、より落語の理解を深めたといわれてます。その上で語られる昇太師匠の古典落語は、他の落語家とは展開も表現力もひと味違います。面白いです!


Q15. 立川談志がここまで愛される理由は?

A. まさに現代落語の創造者的な存在だから。

落語協会を脱退して自分の流派を立ち上げたり、なにかと破天荒なイメージの強い七代目(自称五代目)立川談志が、現代の落語界にもたらした功績は数え切れません。なにせマクラと本編の内容を連動させるスタイルを確立したのも、真打ちの基準を定めたのも、落語の定義を試みたのも、噺家ではなく落語家と名乗り始めたのもすべて立川談志なのです。それまでの伝統を覆し現代落語のパイオニアとなった談志師匠は、落語とは「人間の業の肯定」と話しています。あらゆる人が秘める欲や本能、欠点を笑いに変換することが落語の真骨頂。そんな誰よりも落語の本質に迫ったのが談志師匠のすごさであり、多くの優秀な弟子を育てたことも偉大です。

教えてくれた人

サンキュータツオ

1976年、東京都生まれ。米粒写経のツッコミを担当。落語関係の執筆の他、毎月第2金曜から5日間、ユーロスペースで開催される『渋谷らくご』のキュレーションも手掛けている。

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