CULTURE

あのスミソニアン協会は、こんなものまで集めている!

アメリカ最大の博物館組織は恐ろしい。例えばアイライナー、例えば“音”すら収集中。

2021.06.23(Wed)

text: Keisuke Kagiwada (eye liner), Koji Toyoda (music)
coordination: Momoko Ikeda
special thanks: Smithonian Institution
2020年7月 879号初出

Entomology, Anthropology, Invertebrate Zoology, or Mineral Collection, National Museum of Natural History, SmithonianInstitution.Photo by Chip Clarl 

スミソニアン協会とは?
知識の向上と普及を目指して、ジェームズ・スミソンというイギリス人科学者の遺産によって1846年に設立された協会。19の博物館と研究センターにより構成されており、その多くはワシントンDCのナショナル・モール沿いに立ち並ぶ。国立航空宇宙博物館、国立自然史博物館など。また、昨年2月には、協会が運営するサイト「スミソニアン オープンアクセス」で約280万点のコレクション画像、学術資料などを自由にダウンロードできるようになった。


ジョン・ウォーターズがヒゲを描いていたアイライナー。

 このアイライナー、タダモンじゃない。食糞映画『ピンク・フラミンゴ』で知られる悪趣味映画界の巨星ジョン・ウォーターズ監督の所持品で、チャームポイントの一本ヒゲを描くときに使っていたものなのだ(メーカーは「メイベリン ニューヨーク」!)。ここでふと疑問が浮かぶ。直筆の脚本ならともかく、どうすればこのペンがスミソニアンの目的である「知識の向上と普及」と繋がるというのか? 国立アメリカ歴史博物館の医学&科学担当キュレーター、キャサリン・オットさんに話を聞くと、目下LGBTQ関連に取り組んでいて、デル・マーティンというゲイアクティビストのスカーフや、性転換したテニス選手のレネ・リチャーズの帽子なんかを集めていく中、ゲイを公言しているウォーターズに声をかけたという。すると提供してくれたのが、例のペンと高貴な香りのする保湿クリーム「ドゥ・ラ・メール」の空き容器だった。あの人、保湿しているんだ……。「彼がどんな匂いがしてたか、そこから想像がつくのが面白いでしょ?」とキャサリンさん。確かに、今までまったくイメージになかった“いい匂いのする監督”という新たな一面を知れたのは間違いない。「知識の向上と普及」の射程、広すぎるな。


世界の民族音楽および、音声資料。

 ディープな民族音楽を探してふらっと渋谷の『エル・スール・レコーズ』に行ったら、ここでも“スミソニアン協会”と出くわしてしまった。非営利レーベル「スミソニアン・フォークウェイズ・レコーディングス」だ。これはもともと、「フォークウェイズ・レコーズ」を設立したモージズ・アッシュという人物が、いずれ何かの役に立つときがくると信じてあらゆる人種、国、宗教に根付いた音をフィールドレコーディング。1948年から1986年に彼が死去するまでの38年間で約2168枚のアルバムを制作したものが基礎となっている。その遺志はスミソニアン学術協会に譲渡された後も受け継がれ、10年で1枚しか売れない音源でも、いつでも購入できるようになっている。同レーベルの音源を多数揃える『エル・スール・レコーズ』店主の原田尊志さんも「欧米人の執念は恐ろしいですよ」と話す。「僕らの世界では、東の横綱『スミソニアン・フォークウェイズ』と西の横綱『オコラ』が常識なんですが、スミソニアンは地の利を生かして、南北アメリカ大陸や太平洋圏に強く、他レーベルではお目にかかれない作品がたくさんある。非営利だから簡素なCD-Rで届くんですけどね」。形のない歴史である“音”まで収集し、普及に努める。これがスミソニアン協会だ。

1. OUR NATIVE DAUGHTERS /SONGS OF OUR NATIVE DAUGHTERS(アメリカ)
ルーツ音楽と注目される「アメリカーナ」。その未来を担っている黄金カルテットの新作。

2. VA / MUSIC OF HAITI:Vol.1,FOLK MUSIC OF HAITI(ハイチ)
ハイチの山村に伝わる、のどかな伝承歌をフィールドレコーディングしたシリーズ。

3. JOSEPH SEPENCE, JOHN ROBERTS AND FREDERICK McQUEEN /
FOLK GUITAR,BAHAMAN BALLADS AND RHYMING SPIRITUALS(バハマ)
カリブ海きってのギタリスト、ジョセフ・スペンス。そんな彼の家で発掘された初期音源集。

4. VA /TRADITIONAL MUSIC OF PERU,VOL.3: CAJAMARCA AND THE COLCA VALLEY(ペルー)
’80年代にアンデスの山岳地方で録音。結婚式や農業儀式など、ハレの日の音楽が詰まっている。

5. VA /TRADITIONAL FOLK  SONGS OF JAPAN (日本)
江差追分やソーラン節など日本に伝わる伝統音楽は、この2枚組のコンピレーションに集約。

6. MARIACHI LOS CAMPEROS /DE AYER PARA SIEMPRE(メキシコ)
グラミー賞に輝いた、メキシコの老舗マリアッチグループ。こちらは去年出たばかりの新作。

7. VA /AUSTRALIA:ABORIGINAL MUSIC(オーストラリア)
ユネスコ伝統音楽コレクションから抜粋した、多様なアボリジニミュージックの作品集。

8. FRANTZ CASSÉUS /HAITIAN DANCES(ハイチ)
かのマーク・リボーの師匠であり、さすらいのギタリストが奏でるハイチの伝統歌。

9. TIRORO /TIRORO-THE HAITIAN DRUMMER(ハイチ)
手製の長太皷ひとつで、天才的なリズムを生み出したハイチ最高のドラマーの代表作。

10. KAULAHEAONAMIKU KIONA /HAWAIIAN CHANT,HULA, AND MUSIC(アメリカ)
ハワイアンミュージックが生まれるずっと昔。チャントやフラなどの原初的ハワイ音楽を収録。

11. VA /THE PYGMIES OF THE ITURI FOREST(コンゴ)
イトゥリの森に住む狩猟採集民族ピグミーたちが代々紡いできた、ジャングルの音楽集。

12. VA /MUSIC OF INDONESIA,VOL.20: INDONESIAN GUITARS(インドネシア)
英国トラッドミュージックにもどこか通ずる、インドネシアンギターの名曲を集めた一枚。

13. VA /FOLK MUSIC OF THE AMAMI ISLANDS, JAPAN(日本)
奄美諸島に伝わる素朴なサウンドを、’54年にフィールドレコーディングした傑作。

ここで見つかるよ!

エル・スール・レコーズ

国内で取り扱いのない音源も取り寄せの相談に乗ってくれるワールド・ミュージックの名店。◯東京都渋谷区神南1-15-9 岩瀬ビル5F ☎03・6416・9967 14:00〜21:00 水休
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