カルチャー

ミイラをスキャンしてみたら。

今やミイラもスキャンする時代。 輪切りになったら、何がわかる?

2021年5月27日

text: Neo Iida
2020年7月 879号初出

ミイラをCTスキャンしている様子
2019年11月にアムステルダム・メディカル・センターで行われたミイラのCTスキャンの様子。こう見るとミイラって、スキャンするのにちょうどいいボディだね。

 CTスキャナーにおごそかに吸い込まれていくミイラ……! 古代エジプトと最新テクノロジーの交錯に、世界史好きの血が騒ぐ。診察結果が知りたい!

「動脈の様子まで見えますから、腫瘍の有無とか、癌じゃないかとか、具体的な健康状態がわかります。骨の成長度合いで飢餓状態も見えますし、歯を調べればどんな食生活を送っていたかが推測できる。最近では、古代エジプト人は結構入れ墨をしていたということがわかってきました。動物の神様なんかを彫っていたようです」

 エジプト学の専門家、中野智章先生曰く、X線研究をしていた1960年代と比べて、情報量が圧倒的に増えたらしい。

「スキャンデータをもとに3Dプリンターで喉元を復元して、どういう声を出していたか調べる研究もあります。象形文字は解読されていますけど、どう発音していたかまでは誰も知りませんからね」

 確かに。ラムセス2世はイケボだな。

「彼らの寿命は平均30〜40歳代。5歳未満の死亡率が高かったこともありますが、そんな環境では我々とは死生観が全く違う。棺とともに埋葬された“シャブティ”という人形には、『呼ばれたら“ここにいるよ”と答えて、代わりに働け』という呪文が付いていました。死んでも働かなくちゃと思っていたんですね。お墓参りもしていたみたいで、死んだ人に宛てた手紙には『最近ろくなことがない。お前、呪いでもかけてやしないか』と書いてありました(笑)」 

 ミイラは文字よりも雄弁に語る。引き続き、どんどんスキャンしてください!

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ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展

 中野先生が監修に携わる待望の巡回展。オランダのライデン国立古代博物館のコレクションから厳選した250点により、人々の暮らしや死生観などを紹介する。ミイラは人体が5体、動物が8体。立てた状態で展示予定の棺もあり、死者や神々が描かれた装飾を間近に楽しめる。写真は左から、アメンヘテプの内棺、ホルの外棺、男性のミイラ。目玉は、最新のCTスキャンを使った研究結果。ライデンでは初代館長に先見の明があり、ミイラを解剖せず後世に残したことが研究の一助となった。高解像度で読み取ったミイラの新たな一面を世界に初公開する。音声ガイドのナレーターは、トム・クルーズやキアヌ・リーブスの日本語吹き替えを担当する声優の森川智之さん。2022年までに全国を巡回予定。6月27日まで東京展を開催中。詳細はleidenegypt.jpで確認を。