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カルチャー
【対談】斎藤幸平×小野寺伝助/中編
2023年4月27日
photo: Wataru Kitao
text: Keisuke Kagiwada
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小野寺
『天才たちの未来予測図』の最初にも書かれていますけど、社会主義とかマルクスについて詳しくない人間からすれば、社会主義と聞くと、やっぱり中国とかソ連のイメージ、うまくいかない失敗した仕組みってイメージが強い。資本主義の社会はどうにもタチが悪いけど、かと言って、社会主義と言う選択肢はないんだろうなって思っちゃうし、僕も思っていたんです。だから、斎藤さんの本を読んで、そうなんだと純粋に驚いたし、新しい視界が開けたんです。ただ一方で、社会主義ってどんな社会なのか、イメージも湧かなくて。例えば、社会主義の仕組みが、かつてうまく機能していた国家とか、地域とかってあったんですか?
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斎藤
国家レベルではなかなか難しいですけど……でも、さっきのアナキズムとマルキシズムの対立って話で言うと、私は2つは対立するものじゃないと思っていて。別に国家でないと、コミュニズムが成立しないかと言えばそうではない。これはアナキストのデヴィッド・グレーバー1って人がよく言っていたことですが、私たちの社会の根幹には常にコミュニズムがある、つまり資本主義の根幹にはコミュニズムがある。どういうことかと言うと、お金のやり取りではない形で、人々ができることをして、相手が必要としているなら助けたりするような関係性をコミュニズムだとした時、例えば、引越しの手伝いとかを、家族や友人が手伝うことがあるけど、対価は要求しませんよね。まぁ、奢ったりはするかもしれませんけど。
1/”アナキズム人類学”を標榜した文化人類学者。主な著書に『ブルシット・ジョブ──クソどうでもいい仕事の理論』など。
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小野寺
寿司くらい奢れよって思いますけどね(笑)
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斎藤
でも、それは8時間働いたから寿司で、4時間しか働かなかったらパスタなみたいなことではないじゃないですか。だから、そういうのは、お金のやり取りの関係ではない。あるいは子育てとかも、20歳になった時、「あなたのご飯代と家賃と教育費がこれくらいかかったから、あなたに請求します」って話にはならないですよね。逆に、子供が「わかりました。1000万円ですね」ってお金を返してしまったら、親と子の関係ってなくなっちゃいますよね。
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小野寺
そうですね。
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斎藤
友情とか愛情に基づく関係は、そういうお金に換算できない贈与のやり取りで成り立っているんです。会社で「ちょっとあれ取って」とか「あれ手伝って」とかいった同僚の頼まれごとに応じるのも、それこそバンドがライブハウスの中でシーンを作っていくのも、別にお金の話じゃない。それ自体が1つのコミュニズムなんだって考えると、実は私たちの世界にはたくさんのコミュニズムがあって。
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小野寺
なるほど。
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斎藤
ただその上に、今は資本主義っていうお金持ちのためのシステムが乗っかっている。だけど、それはコミュニズムにタダ乗りしているにすぎない。
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小野寺
資本主義とは別のレイヤーにコミュニズムがあるってよりかは、ベースにあると。
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斎藤
そう。社会が成り立つための根幹には、既にコミュニズムがある。これをグレーバーは、”Baseline Communism”、「基盤的コミュニズム」と呼んでいます。私が言う「コモン」とは、お金のやり取り……多少のお金が介在するのはこの社会である以上しょうがないんですが、そういうお金だけに還元されない、あるいは、儲けの論理に限定されない領域のことで、シェアとか助け合いとか、贈り合いとか、そういう原理によって動いていく領域です。「基盤的コミュニズム」を広げる形で、コモンを増やしていくと、その分だけ、競争とか金儲けとか、物の売り買いとか、つまりお金の原理で動いている領域を減らしていけるんじゃないか。ここ30年ぐらい、つまり私たちが物心ついて以降は、資本主義の領域がどんどん広がった時代。グローバル資本主義とか、本の言葉を使えば人新世の時代とか呼ばれる時代なんですけど、その領域を少しずつ減らしていくようなことができれば、私の考えるコモン型社会が……そのためには国家がやらなきゃいけないこともあるし、反国家的な意味でのアナキズムではないんだけど、中国とかソ連みたいに市場とか生産を全部計画管理しないとダメなんだみたいな社会とは、全く違う未来社会のイメージを思い描けるし、マルクスもそう考えていたんじゃないかなと。
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小野寺
どうしても国家を基準にして考えてしまうというか、社会のシステムとして資本主義をやめるとしたら、じゃあ、代わりにどういう仕組みで世の中を回すのかって考えてしまっていたんですが、既にベースにコミュニズムがあって、その領域を広げていって、格差を生んだり、自然破壊を生むような仕組み自体の領域をもっと狭くしていって、いつの間にかなくなっている、みたいな。
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斎藤
そうですね。完全にはなくならないかもしれないけど、少なくとも今よりずっと抑えることができるだろうし、そうなった時は私たちの考え方とか振る舞いも、変わってくる。
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小野寺
働き方とかお金の使い方の概念が変わりますよね。僕は今、サラリーマンとして週5日間働いているんですけど、この本を読んですごく共感というか、よく言ってくれたなと思ったのが、週休3日でもいい、なんなら週休4日でもいいと言っているところで。僕は15年以上働いてきて、ずっと同じことを思っていたんですよ。1週間は7日間もあるのに、なんで5日間も働かなきゃいけないんだろうって。半分で割れないから、せめて1日多く世界のため人のために働くのはいいんですよ。だけど、5日間も働いて、しかも1日8時間が定時で、当然8時間じゃ帰れなくて、10時間、12時間働く日もたくさんあるわけで、それだと全然暮らしが成り立たない。隙間の時間でしか、好きなことをやったり、パンクバンドをしたりできない。週休3日になるだけで、自分や家族のために使う時間が増えるので、時間の使い方がまず変わりますよね。
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斎藤
そうですね。もちろん今の社会にも、それこそバンドで生きている人の中には、そういう働き方をしている人いるし、それはそれで素晴らしいことだと思います。あるいは、東京を脱出し、地方に住んで、農業をやりながら半農半 X の形で暮らすのもいいと思うんです。そういう人たちがもっともっと出てくれば、みんなが長時間労働をして、たくさんのものを作っては売ってという社会から脱却することも不可能ではない。だけど、多くの人たちは、今この社会で生きている以上……私も今東京に住んでいますけど、東京に住んでいると、どうしても家賃を払わなきゃいけないし、子供もなんやかんやでお金がかかる。そういう中で、漠然と今の社会のやり方はおかしいなと感じていても、その歯車にならざるをえない人っていうのが当然多いわけです。そういう意味では、 今おっしゃったように、例えば、労働時間を週休3日にして、無理やり短くしてあげることで、別の活動への余地を開いていく。じゃないと、今なんて朝早く起きて、満員の通勤電車に乗って、働いて夜帰ってきても、政治のこととか文化のことを考える暇がない。それこそマルクスが「賃金奴隷」と言った社会ですよ。マルクスはそういう社会は全然人間的じゃないし、環境にも悪いでしょ、これほど技術が発展して、豊かになっているのにもかかわらず、なんでまだそんなことをやっているんですかと問うわけです。でも、私たちはそういうことさえも問わなくなってしまっている。マルクスは150年前の人だし、こういう批判自体は20世紀にも様々な形で言われてきたけど、そういうことを言う人がだんだんいなくなってきている。今の主流は、成田(悠輔)さんみたいに、技術とかアルゴリズムをうまく使えば、私たちの欲望や願望をもっと効率的に処理できるんじゃないかっていうナラティブになっているわけですよ。だけど、それって一面では、僕らの無力感の現れ、つまり自分たちでは何も変えられないって話なわけです。アルゴリズムとかAIとかその他の技術を使って解決してもらおうって形になっちゃっているので。それはたぶん、資本主義そのものに手をつけることにはならないし、この資本主義がなくならなければ、どれだけいい技術ができて、アルゴリズムが発展しても、結局私たちはいつまでも働かなきゃいけない。いつまでも搾取される側のまま、自由はなく、忙しい状態のままではないかって思っていますね。
プロフィール
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斎藤幸平
さいとう・こうへい|1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門は経済思想、社会思想。主な著書に、ベストセラーになった『人新世の「資本論」』の他、『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』『ゼロからの「資本論」』など。
プロフィール
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小野寺伝助
おのでら・でんすけ|1985年、北海道生まれ。<地下BOOKS>代表。パンク・ハードコアバンド「v/acation」でドラム、「ffeeco woman」でギター、「Haus」で電子音を担当。今回は著書『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』をPOPEYE Web仕様で選書。
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