カルチャー

TOKYO ART BOOK FAIR 2022 巡回レポート

やっぱり楽しい、アートブックの祭典。

2022年11月10日

photo: Jun Nakagawa
text: Neo Iida

 来る10月27日(木)から4日間にわたり、東京都現代美術館で開催されたTOKYO ART BOOK FAIR 2022(以下TABF)。国内の出版社や個人作家をはじめ、海外のブースが充実しているのも本フェアの面白いところ。今年は約200組が出展し、ゲストカントリーであるフランスを含め、海外出展者数は81国にのぼった。そんなTABFの魅力を、現場からお届け!

TOKYO ART BOOK FAIR

 そもそもTOKYO ART BOOK FAIR とは何ぞやといえば、2009年にスタートしたアート出版に特化したブックフェアだ。第1回は表参道のGYLEと原宿のVACANTで産声をあげ、以降、外苑前の京都造形芸術大学・東北芸術工科大学外苑キャンパス、末広町のアーツ千代田 3331、天王洲の寺田倉庫と開催地を移し、2019年からは清澄白河にある東京都現代美術館で開催されている。コロナ禍の2020年にはオンライン会場VIRTUAL ART BOOK FAIRで実施したことも。

TOKYO ART BOOK FAIR

 ブックフェアの醍醐味は、作家本人や出版担当者といった普段は会えない制作陣から、直接作品を購入できること。TABFの場合はアート出版に特化しているから、とにかく豊富なアートブックやインディペンデントマガジンに出会えるのがたまらないのだ。では早速エントランスを抜けて、受け付けして、1階から見てみよう。

■ AWW MAGAZINE

TOKYO ART BOOK FAIR

 すぐ目に留まったのが、ウェブマガジン『AWW MAGAZINE』のブース。目玉は初のタブロイド誌『L’APÉRO JOURNAL』だ。ウェブの記事をまとめたもので、紙で読むとひと味違う。店番は編集部の河田紗弥さんと、ライターの大池明日香さん。ワインレッドのキャップもTABFのために作ったものだそう。ロゴや誌面のデザインを担当しているアートディレクターの前田晃伸さんも一緒にパチリ。今回制作したタブロイドやTシャツなどいくつかのアイテムは『AWW MAGAZINE』のオンラインショップで11月10日(木)から販売予定。

■ ジャパンフォトアワード+平山昌尚

TOKYO ART BOOK FAIR

 POPEYEもいつもお世話になっているヒマさんこと平山昌尚さんは、日本最大規模を誇るインディペンデントな写真アワード「ジャパンフォトアワード」と一緒に参戦。昔よく駄菓子屋で見かけた、束状になっていて引っ張ると取れるシールを作って販売していた。「中にはキラもありますよ」というヒマさんの誘い文句で、トライしてみたけど、残念ながらキラは出ず。ヒマさんのいびき生音源も2,000円で販売していた。

■ sakumotto,Inc.

TOKYO ART BOOK FAIR

 作家のキュレーションやマーケットイベントの企画、雑誌の編集など、幅広く活動するsakumotto,Inc.は、インディペンデントマガジン『TOO MUCH Magazine』の最新号、Issue9を販売。こちらの雑誌も『AWW magazine』同様、創刊から前田晃伸さんがアートディレクターを務めている。新作のテーマは「THE SACRED」(聖なるもの)。日本語訳付き。書店で見かける本も、版元から買えるのが楽しい。

TOKYO ART BOOK FAIR
地下にも展示がたくさん。今年新たにディレクターに黒木晃を迎えた、Zブース改め「ZINE’S MATE」には、個人でものづくりをしている作家や、インディペンデントマガジンなどのブースがぎっしり。

■ 俳句ジョージ

TOKYO ART BOOK FAIR
TOKYO ART BOOK FAIR
朗読の一部をお届け。

 TOWN TALKにも登場してくれた俳句ジョージは、自らのポリシー「とりあえずおどる」を掲げて俳句と自分史を販売。「良かったら朗読するけど!」と、最新作のニュージーランドの鳥たちがテクノで踊るハッピーな絵本『ザ・テクノキウイ』を読み上げてくれた。YouTubeにも朗読ムービーが上がってるので見てみよう。

■ 美山とサリー(ZINE’S MATE)

TOKYO ART BOOK FAIR
TOKYO ART BOOK FAIR
二人でブースを出していたのは、グラフィックデザイナーの美山有さんと、アーティストであり一人っ子くらぶ部長のサリーさん。美山さんのステッカーの文字は「どれも“キラキラ”という意味の漢字なんです」。なので全てキラキラ加工。論語の一節「斯文在茲」を用いた版画ポスターも素敵。

■ 水越智三

TOKYO ART BOOK FAIR
TOKYO ART BOOK FAIR

 POPEYE Webの人気連載「USEFUL SPAGHETTI RECIPE」のグラフィックを作ってくれている水越智三さんも出展していた。水越さんはアジアでの人気も高く、香港のデザイン誌『BranD』の表紙を手掛けたことも。パソコンで描かれるビジュアルは、色の合わせ方も線の使い方も独特で、リソグラフの風合いもいい感じ。

■ ドキドキクラブ

TOKYO ART BOOK FAIR
TOKYO ART BOOK FAIR

 以前「TOWN TALK」で「うなとん」についておおいに語ってくれたドキドキクラブさん。今回は新作『ステキなタイミング』を引っさげて出展していた。街角で思いがけず生まれたステキなタイミングを集めたステキな作品集は、一見の価値あり。顔出しは恥ずかしいと目線を手で隠したドキドキクラブさんだけれど、実は指の隙間からこちらを見ている。


TOKYO ART BOOK FAIR
TOKYO ART BOOK FAIR

「ZINE’S MATE」を離れて逆サイドの「EXHIBITION SPACE」に進むと、ゲストカントリーであるフランス色がぐんと強まる。パリのアートコレクター、イヴォン・ランベールが手掛ける「60 Years of Yvon Lambert」や現代美術ギャラリーのペロタンによる「Perrotin Store」が賑わいを見せている。通路に置かれたグリーンの小さなブックスタンドは、“bouquinistes”(フランス語で「本屋」)。セーヌ川沿いに並んでいる屋台式書店「ブキニスト」を模したものらしい。

■ UTRECHT
■ MISAKO & ROSEN / Hikotaro Kanehira
■ Art Metropole

TOKYO ART BOOK FAIR

 こちらは加賀美健さんのトートバッグが黄色いハンカチばりに目立った3ブース。『UTRECHT』のトートには、2022年で創業20周年を迎えた『UTRECHT』のために、時を刻む鳩時計が。加賀美さんが所属するアートギャラリー『MISAKO & ROSEN』のトートには、「99%JOKE、1%ART」の潔い文字が光る。トロントのアートセンター『Art Metropole』のトートには、頭文字と困り顔のウンコ(ハエ付き)。『MISAKO & ROSEN』ではアーティストのCOBRAさんとのユニットC&Kのキーホルダーは、浅草マルベル堂で撮影!

TOKYO ART BOOK FAIR
スーツバージョン、制服バージョンがあります。

■ SALT AND PEPPER

TOKYO ART BOOK FAIR 2022 巡回レポート
TOKYO ART BOOK FAIR

 恵比寿のブックストア『SALT AND PEPPER』はアートブックなどの出版も手掛けていて、この度ピーター・サザーランドの新作写真集『BUTTON SMASHER』を発行。302ページとめちゃくちゃ分厚く、巻末には店主・大北幸平さんによるピーターへのインタビューも収録。TABFで先行販売を行い、現在はオンラインストアで販売中。限定500部。

■ commune

TOKYO ART BOOK FAIR
TOKYO ART BOOK FAIR

 TABF常連、幡ヶ谷の『gallery commune』は、オーナーの川邊さんご夫妻と写真家の池野詩織さんの3名でブースを守っていた。注目は〈ブレイン・デッド〉のビジュアルを手掛けるエド・デイヴィスと〈commune Press〉が共に創刊した雑誌『Brainzine』。LAの陶芸家シャリフ・ファラグや、カリフォルニア拠点の写真家ジョン・ディヴォラ、そして山口はるみや五木田智央の作品などもピックアップされている、260ページのビジュアルマガジン。〈commune Press〉刊行の小幡彩貴さんの新作作品集『季節の記録2 – Records of the Seasons2』も。

■ Deadbeat Club

TOKYO ART BOOK FAIR
TOKYO ART BOOK FAIR

 LA拠点の〈Deadbeat Club〉も、TABFで出会える嬉しいパブリッシャー。『commune』と親交が深く、大体お隣のブースに出展している。現在はコーヒーの販売にも力を入れていて、右はステファン・マルクスのキャンプ用マグ。左はファイヤーキング製のオリジナルマグ。ボディにはスローガン“THERE’S NO MONEY IN BOOKS”をプリント。

■ 1991 Books

TOKYO ART BOOK FAIR

『commune』の川邊さんがおすすめしてくれた〈1991 books〉は、1991年生まれのEtienne VergierさんとMatteo Verziniさんが営むパリのパブリッシャー。アーティストによるDIY印刷のzineを数多く揃えていて、全編モノクロの風合いもカッコいい。出展を記念したオリジナルTシャツを作ったらしい。

■ RED LEBANESE

TOKYO ART BOOK FAIR

 2012年にスタートし、出版のほかに音楽レーベルとしても活動しているパリのパブリッシャー〈RED LEBANESE〉。共同創業者でヒップホップのプロデューサーでもあるMad Reyさん曰く、おすすめは2年前に出版したパトリック・ボナの写真集『L’ARGENT C’EST RIEN, LE RESPECT C’EST TOUT』。彼にしか撮れないリアルフォトが満載だ。フォトグラファーのPablo Jomaronさんは「ワークショップで青いインクを選んで作った」という手製のzineを見せてくれた。「表紙は僕の奥さんと赤ちゃん」。

■ ZINE SWAP MEET CAMP by VOYAGE KIDS

TOKYO ART BOOK FAIR

 会場外の「OUTDOOR AREA」には、大阪・新世界からZINE SWAP MEET CAMPが出展中。これはアートスペース『VOYAGE KIDS』が手掛けるプロジェクトで、ZINEやアートピース、グラフィティライターの作品などをトラックに載せ、日本をぐるっと巡回しているんだそう。TABF後は九州を回るらしい。お疲れさまです!


TOKYO ART BOOK FAIR

 駆け足でダーッと回ってみたけれど、とにかく見切れない。作家の方々と話せる機会ってそうそうないし、「どうしてこの色に?」「次の個展は?」なんて聞いていたら、あっという間に時間が経ってしまうのだ。海外からやってきたパブリッシャーたちも「日本でやっと出展できて嬉しい!」と嬉しそうで、拙い英語ながら話も弾んだ。「これが僕たちのアカウントだよ」「どれどれ」とお互いインスタを見せ合う、ちょっとした交流も楽しい。インターネットでも気になるもの、欲しいものは探せるけれど、ちっちゃなブースを一つ一つ眺めていくと、全然知らない出会いがある。残念ながら今年はもう終わってしまったけれど、早くも来年が待ち遠しい。例年4日間くらいの開催になるから、余裕があればぜひ数日かけて訪れてみてほしい。

インフォメーション

TOKYO ART BOOK FAIR 2022

会場:東京都現代美術館 企画展示室B2F、エントランスホール ほか
会期:2022年10月27日(木)〜30日(日)開催 ※本年の開催は終了

Official Website
https://tokyoartbookfair.com/