カルチャー
映画はカクテルの教科書だ。
自分にお似合いの一杯は、スクリーンの中から探そう。
2022年8月29日

シティボーイ、はじめて1人でバーに行く。
photo: Wataru Kitao, aflo
illustration: Nobuko Uemura
text: Keisuke Kagiwada
edit: Tamio Ogasawara
2022年9月 905号初出
洋酒の知識は映画で学んだ。名著『バー・ラジオのカクテルブック』収録のエッセイでそう告白するのは、開高健や山口瞳といった“お酒賢人”とともに広告会社「サン・アド」を立ち上げた坂根進だが、カクテルを知るにもやっぱり映画が役に立つ。しかも、ただ劇中にカクテルが登場するというだけにとどまらず、ときにそれを飲むキャラクターのパーソナリティをも表現しているのだから、自分にお似合いのシグネチャーな一杯を見つけるのに、映画ほどうってつけなものもない。ここではとりわけ印象的なカクテルシーンが描かれる8作を紹介しよう。さぁ、君はどれから試してみる?
セックス・アンド・ザ・シティ

COSMOPOLITAN/コスモポリタン
NYに生きる女性たちの姿を活写し、’90年代後半から’00年代前半にかけ一世を風靡した『セックス・アンド・ザ・シティ』。彼女たちはレストランに行くたび「とりあえずの一杯」としてコスモポリタンで乾杯する。ウォッカ、ホワイト・キュラソー、クランベリージュース、ライムジュースをシェイクしたこのピンクのカクテルは、華やかな装いの彼女たちにお似合いだ。本作の影響で一時期のNYでは誰もがこのカクテルを頼むほど流行ったそう。
カクテル

TURQUOISE BLUE/ターコイズ・ブルー
曲芸的なパフォーマンスでカクテルを作ることを、“フレアバーテンディング”と呼ぶ。それを広く知らしめたのが、バーテンダーのブライアン(演じるのは若き日のトム・クルーズ)の青春を描く本作だ。あるとき彼はカウンターに仁王立ちし、セックス・オン・ザ・ビーチ、ベルベット・ハンマー、カミカゼ、オーガズム、デス・スパズムといった穏やかじゃない名のカクテルを客に紹介して問う。「さぁ、何にする?」。「オーガズムを」と注文した女性と「いくつ?」「いくつでも」というアホみたいにチャラい会話を繰り広げた後、「ターコイズ・ブルーから始めろよ」と微笑み、“フレアバーテンディング”でそれを作るブライアン。ラムをベースにブルー・キュラソーとフルーツジュースを混ぜたそのトロピカルな色合いのカクテルは、本作を貫く’80年代という時代の“イケイケ感”を象徴する一杯だ。
がんばれ! ベアーズ

BOILERMAKER/ボイラーメーカー
弱小少年野球チームのコーチをすることになったバターメイカーが、車の中で缶ビールを少し捨て、ウイスキーを注ぎ足すシーンから本作は始まる。彼がいかにダメ男かが一発でわかる名場面だが、実はこれもカクテル。体が一気に熱くなることから(諸説あり)、ボイラーメーカーと呼ばれている。フライフィッシング映画『リバー・ランズ・スルー・イット』にも、ビールの入ったジョッキにウイスキーを注いだショットグラスを投入するという驚きのスタイルで、このカクテルが登場する。
華麗なるギャツビー

MINT JULEP/ミント・ジュレップ
’20年代のアメリカを舞台に、ビジネス界の大物ギャツビーの謎めいた生涯を描く本作において、登場人物たちが暑さしのぎに家の中でしばしば飲むのが、ミント・ジュレップ。砕いた氷、ミント、砂糖、水をグラスに入れ、バーボンを注いだこの冷たいカクテルは、200年以上の伝統を誇る競馬レース「ケンタッキーダービー」のオフィシャルドリンクであることからもわかるように、昔からセレブたちに愛される由緒正しきシロモノなのだ。
ビッグ・リボウスキ

WHITE RUSSIAN/ホワイト・ルシアン
ボンクラな中年男デュードが誘拐事件に巻き込まれる本作は、チャンドラーの小説にインスパイアされたといわれている。しかし、劇中で彼が常に飲んでいるのは、チャンドラー作品でお馴染みの硬派なギムレットではなくホワイト・ルシアン。ウォッカとコーヒーリキュール(デュードは自分で作る際、スミノフとカルーアを使用)、そして生クリームを混ぜたものだ。デュードの“大人になりきれなさ”を、この甘いカクテルで表現しているのかもしれない。
テイク・ディス・ワルツ

MARTINI/マティーニ
花言葉のように、カクテルにもカクテル言葉があるという。マティーニのそれは、“棘のある美しさ”(諸説あり)。シックな佇まいでありながら、アルコール度数が強烈だからだろうか。本作の主人公マーゴは夫に物足りなさを感じ、運命的に出会った男と不倫してしまう。その逢い引きの際に飲むのがマティーニだ。結果、彼女は離婚して男のもとに走るのだが、この関係もすぐ物足りなくなる。美しい恋愛が隠し持つ悲しき棘を、マティーニは予言していたのだ。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

BLOODY MARY/ブラッディ・メアリー
’60年代後半のハリウッド映画界を描いた本作で、スタントマンのクリフが飲むのはブラッディ・メアリー。トマトジュースを用いたウォッカベースのカクテルで、欧米では二日酔いの際の迎え酒としても知られるが、クリフはタバスコと胡椒で味付けしながら、刺さっているセロリを豪快にかじりつつこれを啜る。彼はブルース・リーとの喧嘩で勝つほどの腕っぷしの持ち主だ。ポパイにとってのほうれん草のような効果が、このセロリにもあるのかも。
ベティ・ブルー/愛と激情の日々

TEQUILA RAPIDO/テキーラ・ラピド
テキーラと炭酸水を半々に注ぎ、布で蓋をしたグラスの底をテーブルに叩きつけ、炭酸の泡が炸裂している間に一気飲みする。痛々しい恋愛映画である本作の登場人物たちが酔いしれるのが、このショットガンというカクテル。劇中ではテキーラ・ラピドと呼ばれているが、ラピド(rapido)とは「急行列車」の意味なので、素早く酔えるということだろう。かつて『志村けんのバカ殿様』にダウンタウンが出演した際、3人もこのカクテルを飲んでいたなぁ。
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