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【#4】「世界の民芸玩具への眼差し」~ メキシコのカラベラやフーダスの民芸玩具 ~

2022年7月30日

 メキシコの民芸玩具には「カラベラ」が実によく登場する。カラベラとは骸骨のことで、多くの民芸職人たちがガイコツをモチーフにして、様々なスタイルのユニークな造形作品を制作している。カラベラが広まったのには、挿絵画家のJ.Gポサタの影響がある。メキシコでは、スペイン侵入以前から一般民衆の中に祖先の霊と共に骸骨への関心があった。ポサタは、その骸骨を主題にして政治風刺画を版画で挿絵として表現した。このことがカラベラを更に一般民衆に広げた要因の一つだと言われている。また、メキシコでは毎年11月1~2日に「ディア・デ・ムエルト(死者の日:精霊の日)」の祭礼が行われる。自宅や街中の至る所にカラベラやマリーゴールドの花と蝋燭、砂糖菓子やパンなどをお供えして死者を招く。ちょうど日本のお盆の行事や設えにも似ている。このように、先住民の儀式やメキシコ人のスペイン侵入前からある死生観が合間って、死者の祭りはより鮮やかでユニークな造形へと民衆に継承されてきた。死者の日には、民芸品の店先に様々な材料で作られた個性的なカラベラが販売される。したがって、メキシコではポップでカラフルな色彩、ユーモアとウイットな造形のカラベラが民芸品のモチーフになっていることは、歴史と風土が背景にある文化的な必然である。

「カラベラの家」
「カラベラの家」
「カラベラの家」フェリーぺ・ゴメス 1970年代

 メキシコは、民芸玩具に関する興味深い宗教的な儀式が他にもたくさんある。中でも毎年3~4月頃に行われる「セマーナ・サンタ(聖週間)」が近づくと、街中には「フーダス」という張り子の人形が登場する。フーダスとは、キリスト教の反逆者であるユダのスペイン語読みである。復活祭の前日にはフーダスの張り子の中に仕掛けた花火を爆発させて燃やす。そのモチーフはユダ以外に悪魔や骸骨など様々ある。このように、メキシコの民芸玩具には、独特の死生観を基にし、死の恐怖や影をユーモアとウイットという遊び心に置き換えてしまった風土や歴史が根底にある。それらは人間への愛情、祖先への記憶から表現された無垢な芸術と言っても過言ではない。だからこそ人々に享受されているのだろう。(終り)

「フーダス(赤い悪魔)」 張り子細工 
「フーダス(赤い悪魔)」 張り子細工 1970年頃

プロフィール

春日明夫

かすが・あきお|1953年、東京都生まれ。芸術学博士、東京造形大学名誉教授、実践女子大学非常勤講師、日本児童画振興会理事長。専門分野は、チャイルドカルチャーデザイン、キッズサイズデザインなど子どもをめぐるデザインや造形活動を研究。主な研究内容は、造形教育学の視点から子ども文化、玩具デザイン、造形教育。その研究の一環から世界の玩具や遊具を収集しており、現在は関係資料を含めるとその数は約1万点を超えている。特にこの10年間は世界の民芸玩具の収集と研究に力を注いでいる。また、子ども文化の観点から、「昭和の子どもの暮らし(戦争と平和)」をテーマに、玩具や遊具、絵本や雑誌、文具や生活用品など、当時の実物資料を収集し、戦争プロパガンダが子どもに与えた社会的な影響について調査・分析研究を行っている。