TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

【#1】「世界の民芸玩具への眼差し」〜メキシコの民芸玩具の魅力 ~

2022.07.09(Sat)

メキシコの古い木製玩具「回転人形」1960年代

 世界中には様々な種類の玩具がある。呼び名も英語でトイ、スペイン語でフゲテ、フランス語でジュエ、ドイツ語でシュピールツォイーク、日本語のおもちゃ、どれも玩具という言葉である。そして、共通の意味としては「もてあそぶ」「遊びの道具」であり、共通な語源としては、「つまらぬもの」「くだらないもの」である。さらに、「おもちゃ」という言葉は、どの国においても「安っぽい」「稚拙」というような偏見的な低い価値観が共通している。そのせいか、玩具を主題にした近代的な学術研究は長い間なおざりにされてきた。しかし、大方の研究者や知識人たちが低俗的に見てきた玩具も、明治期以降の保育学や幼児教育学、発達心理学などの学問の発展によって捉え方が一変した。そのような流れから、最近では玩具の教育的意義や価値観もしっかり定まってきた。一方、玩具を題材にした文化人類学や民俗学、社会学などの研究も増え、その評価や分野が以前に比べて随分と様変わりしてきた。中国の著名な作家である魯迅は、「玩具はその国の文化水準を表す」と述べている。その魯迅の言葉にもう少し私的な解釈を加えるならば、玩具はその国の文化の入り口であり、想像力を具現化したアートとしての産物と言える。そして、玩具は何よりも人間の「文化」や「平和」の象徴でもあると言っても決して過言ではないだろう。
 私は、そんな玩具の文化とアーティスティックな面に魅了され、もう40年間以上に渡り、研究の資料として世界中の玩具を収集してきた。現在、その関係資料や書籍も含めると1万点は楽に超えている。ただ、よくある好事家のように単に自分が気に入ったものを集めて喜んでいるのではない。収集の観点として重視していることは、自然材を用いた手作りの良さが感じられ、かつ民族的で伝統的な民芸要素のある玩具である。この10年間は特にメキシコを中心にペルー、グアテマラなどの中南米諸国の玩具に注視してきた。その主な理由は、玩具の造形的な美しさや仕組みへの興味は勿論のこと、その造形性や色彩から感じられる生活実感や人間味という、創作玩具本来の根本原理に迫ることができるからである。

メキシコの古い木製玩具

「カウボーイ」1960年代
「鳥のプルトイ」1970年代

プロフィール

春日明夫

かすが・あきお|1953年、東京都生まれ。芸術学博士、東京造形大学名誉教授、実践女子大学非常勤講師、日本児童画振興会理事長。専門分野は、チャイルドカルチャーデザイン、キッズサイズデザインなど子どもをめぐるデザインや造形活動を研究。主な研究内容は、造形教育学の視点から子ども文化、玩具デザイン、造形教育。その研究の一環から世界の玩具や遊具を収集しており、現在は関係資料を含めるとその数は約1万点を超えている。特にこの10年間は世界の民芸玩具の収集と研究に力を注いでいる。また、子ども文化の観点から、「昭和の子どもの暮らし(戦争と平和)」をテーマに、玩具や遊具、絵本や雑誌、文具や生活用品など、当時の実物資料を収集し、戦争プロパガンダが子どもに与えた社会的な影響について調査・分析研究を行っている。
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