TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

【#3】「世界の民芸玩具への眼差し」~ グメルシンド・エスパーニャ・オリバーレスの玩具創作と哲学 ~

2022.07.23(Sat)

工房で制作中のドン・シンダ(2017年 ※メキシコ民芸店「ラブラバ」山本正宏氏撮影)

 ドン・シンダ(尊敬と親しみを込めた彼の愛称)は、メキシコの手作り玩具の黄金期を知る最後の貴重な民芸玩具の職人だった。それまでの伝統的な手作り玩具の形式を守りながら、ドン・シンダらしい独自の造形感覚で、子どもと大人の両方が楽しめるようなユニークな創作を行ってきた。現代はテクノロジーの発展による、正にハイテク時代そのものであるが、ドン・シンダの創り出すものは、まるで最先端技術に抗するかのような、言わばローテク手法の創作である。そして、児童が夏休みの宿題で作った自由工作に見間違えそうである。しかし、一見幼稚っぽく見える表現には、決して誰からも束縛されない自由な精神性に基づく独自のスタイルが見えてくる。さらに、ドン・シンダの作風の根底には、メキシコの伝統的な民衆のエネルギーや笑い(ユーモアとウイット)、そしてメキシコの独特な死生観を感じさせる要素がある。彼は、日常生活の中から人間味溢れる主題を見つけ出し、それを素朴な造形手法と色彩で楽しげに表現している。その玩具たちはどれも遊べて、飾れるインテリア・トイでもある。その点が最も魅力的であり、それこそが人々が我が物として味わい、楽しみながら受け入れている最大の理由ではないかと思う。

亡くなる直前の玩具作品の「ターザンとワニ」2017年

 ドン・シンダは、生前に玩具作りへの思いを次のように述べている。「玩具作りは愛を注いで命を吹き込むこと。愛をみて、よく考えて、人真似はだめだ、真似をしたっていいものはできない」。さらに、「愛と知恵を注げば注ぐほど、その玩具は命が吹き込まれて素敵に仕上がる。一つ一つの玩具にはそれぞれの物語があり、愛が詰まっている。玩具は職人の総意と工夫で発明されるのだ」。そして、40年以上ドン・シンダと一緒に仕事をしてきた妻のレオナルダ・ロドリゲスは、「とても素敵な仕事です。ストレスから解放されて、日常生活の問題を忘れられる。仕事というより、遊んでいるような感じかな」と。私は長年に渡って造形教育の一環からプロダクト製品でない民芸玩具を研究してきた。この二人の素直な言葉からは、現代人が問われている、モノづくりの意味や本質を再確認させてくれるのである。

からくり玩具「マリンバ演奏者」2017年

プロフィール

春日明夫

かすが・あきお|1953年、東京都生まれ。芸術学博士、東京造形大学名誉教授、実践女子大学非常勤講師、日本児童画振興会理事長。専門分野は、チャイルドカルチャーデザイン、キッズサイズデザインなど子どもをめぐるデザインや造形活動を研究。主な研究内容は、造形教育学の視点から子ども文化、玩具デザイン、造形教育。その研究の一環から世界の玩具や遊具を収集しており、現在は関係資料を含めるとその数は約1万点を超えている。特にこの10年間は世界の民芸玩具の収集と研究に力を注いでいる。また、子ども文化の観点から、「昭和の子どもの暮らし(戦争と平和)」をテーマに、玩具や遊具、絵本や雑誌、文具や生活用品など、当時の実物資料を収集し、戦争プロパガンダが子どもに与えた社会的な影響について調査・分析研究を行っている。
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