ライフスタイル
Re: view – 音楽の鳴る思い出 -/Vol.6 ARTHUR
2022年4月10日
photo & text: ARTHUR
edit: Yuki Kikuchi
Re: view (音楽の鳴る思い出)
この連載は様々なミュージシャンらをゲストに迎え、『一枚のアルバム』から思い出を振り返り、その中に保存されたありとあらゆるものの意義をあらためて見つめ、記録する企画です。
今回の執筆者
■名前 – 音楽プロジェクト名:僕の名前はウィリアム・シア。友達からはコンとかアーサーって呼ばれてる。自分の音楽プロジェクトはアーサーって名前で、ジョイ・アゲインってバンドもやってる。
■職業:学生、音楽家
■居住地:フィラデルフィア。ストロベリー・マンションにあるHidden Fortressという倉庫で、たくさんのレコードを作ってるよ。
■音楽が与えてくれるもの:音楽は現実との結びつきを与えてくれるもの。演奏はあまり得意じゃないけど、自分の感覚や経験を表現するには、音楽が一番簡単な方法だと思ってる。
■レビューするアルバム:『Tago Mago』 CAN
兄クリス
兄のクリスが亡くなったのは僕が12歳のときだった。それから少し経ったあと、ようやく兄が残していった物を調べ始めた僕は、その中にあったCDに興味を惹かれた。そのあと僕はそれらを何日も何週間も何年もかけて、兄のCDコンポを使って聴き漁った。
友達とウィードを吸い始めたのは15歳か16歳の頃だった。不安な気持ちになっちゃうから今はもう吸ってないけど。
ウィードを吸い始めてから、兄が残したCDを聴くことはもっと楽しくなった。人気のない実家の二階にある自分の部屋に篭って、一人ぼっちで音楽を聴くことが出来るようになったことも、兄が残した音楽に触れる機会を輝かせてくれた。
残されたCDの中で特に僕が興味を惹いたのは、誰かが兄のために焼いた作者不詳のCDだった。それら音源がどのアーティストのものか判るのに何週間も掛かった。
いま思えば、Windows 98 で焼かれた、劣化して腐ったそれらのCDから、いまに到る僕の音楽の趣向やスタイルが多く生まれたといえる。
ある日ウィードを吸って考え事をしていたとき、ふと“CAN”とだけ記されたCDを見つけた。フランス生まれのプロレスラー、アンドレ・ザ・ジャイアントのステッカーが貼られたCDケースからディスクを抜き取り、おもむろにそれをCDコンポの中に差し込んだ。
そのときの僕はCANがこれまでに存在した最もクールなバンドだなんて知る由もなかったし、それが彼らのレコード『Tago Mago』であることさえも知らなかった。疲れていたことも相まって、スピーカーから“Paperhouse”が流れ出したとき、僕は思わず言葉を失ってしまった。
それから何週間ものあいだ、僕は寄宿学校を抜け出して実家に帰るたび、『Tago Mago』を聴き続け、友達が来た時にはウィードを吸う儀式を行い、このレコードを流しては、友達と一緒にこの作品の素晴らしさに驚嘆し続けた。
いまでも時々、誰がこれを兄のために焼いたんだろうと考えたり、このCDをクリスも聴いて僕と同じような体験をしたんじゃないかって想像するときがある。もうそれを知ることは出来ないけど、だからこそ、僕は今もこのアルバムに夢中にさせられているのかもしれない。
文:ARTHUR
執筆者プロフィール
ARTHUR
フィラデルフィアを拠点とし、アーサーの名で活動を始めたウィリアム・シアは、Bandcampで楽曲の発表を開始。シンガーソングライターとして活動する傍ら、2014年にJoy Againとしての活動も始める(シアはこのバンドでギター・ヴォーカルを担当)。任天堂、ウィーン、グラム・パーソンズ、ビーチ・ボーイズをインスピレーション源として挙げるシアは、これまでアーサー名義で『Challenger EP』(2017)、『Woof Woof』(2018)、『Hair of the Dog』(2020)をリリースしている。
https://open.spotify.com/artist/0vIme0FGc4SmFByKiV27tw?si=GfUSofl1S56SP6BqWQqT4Q
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