カルチャー
新連載 | RADICAL Localism Vol.1
文: ロジャー・マクドナルド
2021年11月7日
photo & text: Roger McDonald
cover design: Aiko Koike
edit: Yukako Kazuno
私は2010年から長野県佐久市にある望月に住んでいます。ここで「フェンバーガーハウス」という小さな個人美術館をオープンして、研究、展覧会やワークショップを開催してきました。パンデミックが始まってからは展覧会は企画できなくなり、コレクションは人の目に触れずに、静かな時間を過ごしてきました。2021年10月に、久しぶりにコレクション展を企画して、もう一回地域の中でアートについて共有し、考えるきっかけを作っています。庭に建てたドームの中で約30点の作品を移動式のパネル壁を使って展示しています。
タイトルは「ドームワールドマンダラ」で、ドーム建築と同じ、丸を表彰している作品を主に選んでいます。今回の展覧会ではほとんどの作品が複製であることも興味深いと思っています。

私は6年前から様々な作品の高品質カラー複製をコレクションしています。この数年印刷技術の発展により非常に良い解像度のアート作品のイメージを買うことが可能になってきました。私は昔から疑問に思っていたことなのですが、なぜアートの世界では複製の価値はいつも低く、美術館や研究者の中では無視されてきたのか? 少し歴史を調べると面白いことが浮かんできます。
20世紀の初めには多くの複製が重要な役割を果たしていて、展覧会にも本物と並んで展示されていました。今と徹底的に違うのは情報の流通やスピードが非常に限られていたことでしょう。アート作品の情報を見ることには現在のネット時代と異なる緊張感や価値があったと思います。例えば1913年私が住んでいる長野県千曲川地域で設立されたグループ「白樺派教員」はこの地域で写真複製店を企画し、一般の人々に当時ヨーロッパで議論されていたアート作品を複製という形で体験できる空間を企画していました。当時カラー印刷された作品集を使って、市民が自分たちで最先端のアートを共有して、学びの空間を作っていたとも言えるでしょう。

美術館でもこのような複製展が企画されていたことも興味深いです。例えば1937年ニューヨークにある近代美術館(MOMA)でセザンヌの完全複製展が企画されています。29点の複製が展示され、この展覧会はMOMAが1931年ごろから積極的に取り組んでいたモダンアートの学校教育プログラムの一環でもありました。このプログラムでは、カラー複製が丁寧に説明文と一緒にパッケージされ、移動しやすい展覧会として機能していました。まさに、この二つの事例の共通点は、アートをより市民、教育やコミュニティーの中で実践していることだと思います。つまり、市場価値、学問的価値、専門性と言った要素が最も大事ではなく、まずはアートを我々市民社会の中で機能するものとして考えていたということです。私はこのような歴史の事例から大きくインスパイアーされ、この時代においてもアートがいろんな形でもっと強い共同体作りや民主主義づくりに貢献できると思っています。

もう一つの要素としてあるのは、パンデミック時代において自由の移動が大きく制限されたことです。今まで安く、簡単にいろんな国に行けて、本物の作品を体験できたが、これからの時代はパンデミックだけではなく気候危機や脱炭素もあって、飛行機移動を考え直すことが求められているとも思います。これからオンラインやデジタルと並んで、アートの複製体験の復活もあるのではないでしょうか?
技術の進歩も年々進んでいて、とくに3D印刷によって絵画の物質性までもが複製できる時代が当たり前になっていくでしょう。本物の体験はもちろん素晴らしく、実現すれば私も好むと思います。しかし、これからの時代では我々鑑賞者の想像力が問われる時代でもあるでしょう。本物だけではなく、アート作品のいろんな「姿」から学ぶことができるか、いろんな「姿」から身体や感情も反応するか?私はアート作品の物質的な複製にこだわる理由の一つにはまさにこの「想像力の筋肉を鍛える」要素もあって、今デジタル画面が圧倒的な現実になっている時代において、別の鑑賞体験(ディープルッキングと私は呼んでいます)や感覚を思い出すことが大事だと思います。

プロフィール
ロジャー・マクドナルド
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