カルチャー
11月はこんな映画を観ようかな。
今という時代をゆっくり考えたくなる5作。
2021年11月1日
text: Keisuke Kagiwada
『アンテベラム』ジェラルド・ブッシュ(監)
「過去は死なない 過ぎ去りさえしないのだ」。ウィリアム・フォークナーの有名な一節とともに始まる本作は、2人の黒人女性の物語が交差的に描かれる。1人はアンテベラム、要するに南北戦争前夜と思われるアメリカ南部で奴隷労働を強いられるエデン、もう1人は現代において黒人差別と戦うベストセラー作家のヴェロニカだ。いずれも演じるのは、歌手としても活動するジャネール・モネイだ。実はこの2人……いや、これ以上は口が裂けても言えない。『ゲット・アウト』以上にびっくり仰天な結末が待ち受けているんだから。11月5日より全国公開。
『ボストン市庁舎』フレデリック・ワイズマン(監)
ボストンはだいたい函館と同じくらいの緯度に位置するので、頭上には抜けるような群青色の空が広がっている。そんな青空の下、トランプ政権時代の市庁舎に密着したドキュメンタリーだ。移民と多様性の街を謳っているボストンらしく、いろいろな出自の人がリベラルに議論している風景が中心に描かれ、トランプ時代のアメリカにもこういう街があったんだなぁと少し安心する。とは言え、ただ真面目なだけのドキュメンタリーというわけでもなく、荷物検査の場面では検査する人の手のアップが映画的としか言いようがない感じで撮られたりするんだから、さすがドキュメンタリー界の“生ける伝説”ことフレデリック・ワイズマン監督だ。11月12日より全国順次公開。
『スウィート・シング』アレクサンダー・ロックウェル(監)
15歳の少女ビリーと11歳の弟ニコは、マサチューセッツ州ニューベッドフォードに住んでいる。一緒に暮らす父は酒癖が悪く、とうとう強制入院されることに。かくして、母の家を目指すことになったビリーとニコの悲喜こもごもな旅路が、16ミリフィルム撮影による底抜けに美しいモノクロ&パートカラー映像で描かれる。監督はかつてジム・ジャームッシュとともに“NYインディペンデントの鬼才”の名を分け合ったアレクサンダー・ロックウェル。そのバイブスは本作でも十分に垣間見ることができる。ところで、オダギリジョーさんのジョーという名前は、ロックウェルの『イン・ザ・スープ』の主人公からとられているんだとか。公開中。
『tick, tick… BOOM! チック、チック…ブーン!』リン=マヌエル・ミランダ(監)
エイズが蔓延する1990年のNYを舞台にしたミュージカルだ。主人公はウェイターとして日銭を稼ぎながら、ミュージカル界でのブレイクを夢見るジョン。アンドリュー・ガーフィールド演じるジョンの青春が瑞々しく活写される。原作は「レント」を手掛け演劇界に革命をもたらしたジョナサン・ラーソンの自伝ミュージカルで、監督はピューリッツァー賞やトニー賞を受賞した経験のあるリン=マヌエル・ミランダ。『ラストナイト・イン・ソーホー』の公開が控えるエドガー・ライト監督も大興奮したという一作だ。11月19日よりNetflixで独占配信。
『PASSING 白い黒人』レベッカ・ホール(監督)
ときはNYでハーレム・ルネサンスが展開された1920年代。子供の頃は友人関係だったアイリーンとクレアが大人になって再会を果たす。2人にはそれは黒人でありながら白い肌を持って生まれたという共通点があった。違うのは、前者は白人として、後者は黒人として生きてきたということ。そんな2人の人生の交錯を通して、人種やジェンダーなどの深いテーマが考察される。アリス・ウォーカーやジュディス・バトラーなど、現代アメリカの作家に大きな影響を及ぼした、ネラ・ラーセンの『白い黒人』が原作だ。11月10日よりNetflixで独占配信。
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