ライフスタイル
【#4】夢で逢いましょう
2021年10月5日
photo&text: Mototsugu Fujii

私のお店は、平日は深夜に開店いたします。お酒も出していませんし、洒落たブックカフェでもありません。ただ、本を売っとるだけの古本屋であります。「どうやってご飯食べてるの?」と聞かれれば「箸ですけど」と返します。おかげさまで、赤ちょうちんの下で笑えるくらいには暮らせております。
真夜中にやってくるお客さんは、老若男女ほんとうにさまざまです。夫婦喧嘩して逃げ出すようにやってきた旦那さん、スナック帰りの赤ら顔のおじいさん、可愛らしいアベックに、不思議な笑みを浮かべた変わり者たち。本の数だけ、人生あり。擦りそこねたマッチの数だけ、後悔あり、でしょうか。
妬み嫉み恨み辛みやっかみ悲しみ負け惜しみばかりの私が、どうにかこうにか世の中にまぎれる方便として、夜に隠れ、古本屋へ逃げたのでありました。本を売っているつもりが、油ばかり売っています。本を買い取ってるつもりが、ひんしゅくばかり買っております。
「商いのコツは飽きないことである」なんて申します。これはお客さんに飽きられないようにするということではなく、店の主人、つまりはてめぇが飽きないように努めることが大事ということなんだそうです。これは「飽きないコツは、商いである」とも言えますな。夜な夜なお客さんとのやりとりのなかに、新しいお話が生まれてくる。皆さまが尾道の夜に迷いましたら、それは物語のはじまりであります。
どうされましたか?
帰り道が分からない、と。
なるほど、それは困りましたね。
行く道と帰り道が違って見えるというのはよくあること。
行きは良い酔い、蛙が怖い。でしたかね。
それとも、過去は何処の細道じゃ?ですか。まぁ、くだらない言葉遊びです。
ここで迷ったが、何かのご縁。
あなたを不思議な街へとご紹介いたします。
何、路地を一本変えるだけのこと。
本は始まりと終わりのある一つの街。
疲れましたら、こちら「思い出」の栞紐をお使いください。
自己紹介が遅れました。
私、深夜にだけ開く古本屋の店主であります。
手品のような驚きに逸品な夜を添えて。
あなたに小品(商品)を売りつけるものです。
プロフィール
古本屋弐拾dB店主(藤井基二)
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