カルチャー
作家・乗代雄介が「Think Week」に読む5冊。
テーマ:本を読むということ
2021年9月28日
photo: Natsumi Kakuto
illustration: Naoki Shoji
text: Kosuke Ide

ムック本『僕たちはこんな本を読んできた』好評発売中!
一時期、「本を読むことについての本」を見つける度に買っていたことがあって、今回はそうした本を再読も含めて読んでみようと考えました。
『江戸の読書会』は江戸時代に行われていた、定期的に集まって参加者が予め決めておいたテキストを討論しながら読み合うという「会読」という文化について記した本。江戸時代においては、読書は武士の師弟など余裕のある人が余暇にやる行為で、一部の人間のものでした。当初はとにかく「虚心で読め」というだけの規範だったのが、会読の文化が進むうちに、だんだん自由な討論みたいなものが盛んになる。そこには、相手を言い負かすための嘘なども含まれてきたりして、いわゆるディベートの技法が洗練されてくるんですね。そして幕末になると、読むだけじゃなくて、それを基に行動しようという人が出てくる。吉田松陰などは特に会読を思想的な結社をつくるための手法として重要視していて、牢獄の中でも会読を開いています。そうした流れの中で、一部の余裕ある人だけでなく、市井の人々が本で知識を得ていくようになる。17~18世紀のイギリスで流行したコーヒーハウスで花開いたサロンみたいな、「思想の公共性」が現れてくるのが興味深かったですね。

その一方で、読書が広く普及していく過程で思想が平板化し、単なる立身出世のための学問として一般化されてもいく。『本の中の世界』は物理学者の湯川秀樹が好きな本について語った本ですが、意外にも数学や物理学の本はほとんどなくて、漢籍や古典が中心。だけど、おそらくこうした本が彼の学者としての仕事にも確実に影響を与えているはずで。そんなふうに、「立身出世のため」に読んだのではない本が、最終的に何か重要な役割を果たしてくれるということがあると思う。何かの結果を求めていくと辿りつけない場所みたいなものってあるんですよね。

『柳田國男全集31』には、柳田がある村の古本屋で、地元の青年が書いた「自筆本」を手に入れるエピソードがあって。その本は青年が伊勢や熊野を旅した際の日記なのですが、嬉しいとか寂しいとか、何かを見てこう思ったとかいった感情はまったく書かれていなくて、何を食べてお金をいくら使ったとか、宿の仕組みがどうだとかの事務的なことばかりが書かれている。だけど、土産に櫛や重箱を買ったとか、旅先で偶然、知人に会って酒を飲み、酒代としていくら払ったとかいう記録から、彼の旅の様子が偲ばれる。そこにグッとくる。青年が書かなければ、そして柳田がそれをたまたま読んで本に記さなければ、この世からなかったことになるようなことが、そこにある。読むことで色々な人間がいた事実を残していく柳田の姿勢がかっこいいなと。村上春樹さんと川上未映子さんの対談本『みみずくは黄昏に飛びたつ』で、村上さんが「自分が見定めた対象と全面的に関わりあうこと。そのコミットメントの深さが大切なんだ」ということを書いているのですが、まさしく柳田は名もなき市井の人々という対象に深い思いをもってコミットした人だと思います。僕自身、小説を書くことで、書き残すべきだと感じる自分の経験や考えを伝えていかなければいけないと、あらためて考えさせられました。


そんな本に対する思いを茶化すようなタイトルの『読んでいない本について堂々と語る方法』は、フランスの精神分析家が書いた一冊。どうせ誰もがすべての古典を読んだりしていないのだから、書物同士の関係とか文脈、全体の見晴らしがわかっていればいいのだ、と著者はユーモアを交えて語ります。面白いのは、本書の中で、読んでない本について説明しないといけない場面に追い込まれた人を描いた古今東西の小説などの具体例をたくさん引いているところ。この人めちゃくちゃ読んでるじゃん、と(笑)。読んでいるのに、読んでない人をバカにしない、読書の楽しみ方をすごくクレバーに提案している本だと思います。

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乗代雄介
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