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ライフスタイル
芦沢一洋さんとアーバン・アウトドア・ライフ。
2021年9月27日
photo: Nagahide Takano(product)
text: Shogo Kawabata
日本で初めてのアウトドア・ライターであり、「アーバン・アウトドア・ライフ」の提唱者でもある芦沢一洋さんとはどんな人だったのか?
著書『アーバン・アウトドア・ライフ』で、自宅の庭や公園での野草や野鳥の観察、週末のワンデイハイクなど、都市を拠点としながら身近な自然を楽しむ方法を教えてくれた芦沢さん。それは、まだアウトドアカルチャーの根付いてなかった当時の日本の人々へ種蒔きのようなものだったのかもしれない。
「ダウンジャケットなんか誰も着ていない時代だったから、父に着せられたダウンで学校へ行くと『ゴリラみたい!』とからかわれるのがイヤだった」
芦沢さん宅に昔の写真を借りに伺った際、娘さんが懐かしい昔話を教えてくれた。そんな時代に書かれた本なのに、今読んでもまったく古さを感じさせず、スッと頭に入ってくるのは、芦沢さんの蒔いた種がいろいろなところで芽を出しているからだろう。
![芦沢一洋
世田谷の家](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/dma-R102-103-3.jpg)
もともとは雑誌のレイアウトマンとしてキャリアをスタートさせ、マガジンハウスでは『平凡パンチ』のレイアウトを長きにわたって担当。初期の『ポパイ』ではライターとして海外の最新のバックパッキング事情などを寄稿していた大先輩でもあった。当時、『平凡パンチ』で芦沢さんと仕事を共にしたライターの寺崎央さんは、当時の芦沢さんのことをこんなふうに教えてくれた。
「80ページくらいのレイアウトも一晩で済ませてしまい、スッと帰ってしまう。学生時代から三大写真誌と言われていた『フォトアート』のレイアウトを手伝っていたから、特に写真の扱いは上手だった。当時は黒スーツにセルフレームの黒メガネという野坂昭如や野末陳平のようなスタイルだったから、まさか数年後に本業をなげうってアウトドア・ライターになろうとしているとは思わなかったね」
![芦沢一洋](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/dma-R102-103-4-e1632731650427.jpg)
プライベートでの付き合いが深くなってからは、芦沢さんに影響された編集者やカメラマンたちと仕事そっちのけで毎週のように川へと出かけた。
「まだアウトドアショップなんてなかったから、横須賀や上野で米軍払い下げの背嚢や編み上げブーツを買って揃えた道具を持ってね。だけど芦沢さんだけは、どこからか手に入れたアメリカのフィッシングウェアをビシッと着こなしていた。とにかく格好よかったよ。でもね、『魚に気配を察せられてはいけないから、みんな姿勢を低くして静かに川へ近づくんだ』なんて言いながら茂みへと入っていく芦沢センセイの後をついていくと、『うわーーっ!』と大声をあげて真っ先に転ぶのは芦沢さんなんだよ。とてもチャーミングな人でもあったな。『バックパッキング入門』など初期の著作では真面目な性格が出て、ずいぶん求道者的な人と思われてるかもしれないけれど、本当は原野を様々に楽しんだ〝道楽男〟というのが正しいんじゃないかな」
![芦沢一洋
BLTサンド](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/dma-R102-103-6-1600x1094.jpg)
![登山](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/dma-R102-103-5.jpg)
![雪の羽根木公園](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/dma-R102-103-2-e1632731689315.jpg)
当時の『平凡パンチ』『ポパイ』の編集長であったマガジンハウス最高顧問の木滑良久にとっても、深く印象に残る人物だった。
「あーさんは、いつも上等なものを着てるんだよ。ベルトなんかもまったく気を抜かずにね。それなのに『俺は高級な服を着てるぞ!』といういやらしさを感じさせない、本当の意味でお洒落で格好いい人だった。『ポパイ』も初期の頃はたまに原稿を書いてくれていたんだけどね。ロードレーサーで颯爽とやってきてさ。でも、『ポパイ』編集部はあんまり好きじゃなかったんじゃないかな。いつもうるさい音楽が鳴っていて、軽薄な男もたくさん出入りする落ち着かない場所だったから(笑)。そんな時代の中で、ひとり透き通った清々しい佇まいをしていた人。最近、ニューヨークなんかで盛んな〝スペンドシフト〟っていう、極力所有物を減らして、信頼できるものだけにお金を使う、ってムーブメントがあるでしょ? この話を聞いたとき、『あ、これはあーさんのことだな』って思ったね。今の若者たちが憧れるのも、すごくよくわかるよ」
世田谷区民健康村に残る芦沢コレクション。
![サングラス](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/DMA-_DSC5978.jpg)
![フォークとスプーン](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/DMA-_DSC5996-e1632731737872.jpg)
![バッグ](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/DMA-_DSC5965.jpg)
![バッグ](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/DMA-_DSC5992.jpg)
芦沢さんをもっとよく知るための主な著作集。
![『バックパッキング入門』](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/5d1bd3af4012818fc02105b86e52558a.jpg)
バックパッキング文化の成り立ちと背景に関する深い哲学と、本当に信頼できる用具を事細かに解説した芦沢さん初の著書。山と溪谷社(1976年)
![『遊歩大全』](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/3c90edd8de8d0c84cd2154520f508136.jpg)
コリン・フレッチャーの名著『The NewCompleteWalker』を、芦沢さんが翻訳。ユーモアまでもしっかり訳していると評判に。森林書房(1978年)
![『故郷の川を探す旅』](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/dcec994597d207399399c4de78554d13.jpg)
芦沢さんの没後に発売された、全3巻にわたる水辺のエッセイ集。様々な雑誌で発表された釣りに関する原稿がまとめられている。小学館文庫(1999年)
![『アーバン・アウトドア・ライフ』](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/DMA-A-1.jpg)
都会の限られた時間や場所の中からアウトドアのエッセンスを見いだし、自然と共生する暮らし方の様々な提案が詰まっている。講談社現代新書(1984年)
プロフィール
芦沢一洋
あしざわ・かずひろ|1938〜1996年。『バックパッキング入門』をはじめとした著作やコリン・フレッチャーの『遊歩大全』の訳者としても知られ、日本初のアウトドア・ライターとして、バックパッキングカルチャーを日本に紹介した第一人者。
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