TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】アートはなにか?
執筆:アッシャー・ペン(Sex Magazine)
2026年9月3日
以前、あるセラピストに「アーティストは、自由によって何が可能になるのかを示している」と言われたことがある。いや、アーティストと言ったのか、アートそのものと言ったのか、正直なところ覚えていない。もし正直に言うなら、僕は自由というものを想像すると恐ろしくなるし、きっとそう感じるのは僕だけではないと思う。だから、若かったり、酔っ払っていたり、お金持ちだったりすると、アーティストになるのはたぶん少し楽なのだと思う。そういうものが恐怖を麻痺させ、めまいのような感覚や、邪魔になり得るあらゆる意識を取り除いてくれる。
子どもの頃、父親にアートギャラリーか美術館に連れて行ってもらったことがある。本や映画、音楽も大好きだったけれど、静かで、大きくて、美しくデザインされた空間の中に絵画や彫刻が置かれているときに感じるような、精神的な畏敬の念を抱かせるものは、ほかにはなかった。息を呑むような感覚だった。祖母がパリ旅行の話をしていて、そこでジェフ・クーンズの《Puppy》を見たときのことを話していたのを覚えている。彼女は「これがアートなんだ」と確信していた。
アートについて真剣に考えるようになったのは、20代前半になってからだったと思う。結局のところ、ただそのエネルギーに惹かれていただけだったのだと思う。2005年から2015年にかけて、アートはおそらく最も儲かり、魅力的なクリエイティブ・メディアだった。その頃の『Artforum』を見てみると600ページを超える号もあり、当時の最高レベルのテキストと大量の広告が一緒に詰め込まれていた。この時代についてこんなことを言うのはおかしく感じるけれど、あの頃のギャラリーは議論が生まれる場所であり、そこで繰り広げられる美的なジェスチャーには意味があったと僕は今でも思っている。
当時、そしておそらく今までで一番好きなアーティストはリチャード・プリンスだった。彼はアート界のクエンティン・タランティーノみたいな人だ。彼の文章が好きだった。彼の写真が素人っぽく見えるところが好きだった。消費やコレクションという行為そのものを、何かを生み出すための手段に変える方法を見つけたところが好きだった。ひとつの決まった美学を持たず、シリーズ単位で作品をつくるところも好きだった。何より、彼がアートをどれだけ好きだったかが好きだった。そして、彼が面白い人だったことも。
アートをつくり始めようと決めたとき、僕は彼になったつもりで忠実にやり方をまねた。ある面では成功したと思う。23歳から――ちなみに、毎晩ブラックアウトするほど酒を飲み始めたのも同じ頃だった――僕は絵画やドローイング、彫刻をつくり始め、インターネットやZINEに載せ、やがて小さなインディペンデント・ギャラリーにも展示するようになった。
当時、アプロプリエーション・アートは当然のものだった。美術学校で著作権について説明された授業がひとつでもあったかどうかについては全く思い出せないが、「再文脈化(recontextualization)」という考え方が称賛される美術史の授業や講義がたくさんあったことは覚えている。リチャード・プリンスのように、僕もレディメイドをたくさんつくった。有名人を有名な写真家が撮影した写真の上に、ロールシャッハを描いたり、詩を書いたりした。自分自身には何の歴史もつながりもない言語や美学を、自分のものとして取り込んだ。これがセラピストの言っていた「自由」だったのかもしれない。でも今振り返ると、少し身構えたような自由だったようにも感じる。
2010年代初頭、ポスト・インターネット・アートの最初期の兆しが現れ始めた頃、何かが変わったのを覚えている。これはあくまで僕の意見だけれど、ポスト・インターネット・アートは、アートよりも先にアーティストを据えた最初のムーブメントだったと思う。つくり手の人生やイメージそのものが最も重要なものとして検証され、考察されるようになった。作品はアーティストの人生の「遺物」として存在する。ソーシャルメディアへの投稿から、自撮り動画、絵画まで、すべてが同じ平面上で捉えられるようになった。今の大多数のアーティストにとっても、これはまだ変わっていないことだと思う。
自分自身が少しずつ可視化され、脆弱な部分まで晒されることへの恐怖だったのか、それとも単純に完全に燃え尽きてしまったからなのか、アートをつくることをやめた理由は分からない。スタジオ訪問やギャラリーの展示よりも、『Sex Magazine』を作る方がずっとクリエイティブな満足感を得られるように感じていたし、それ以外の残りのエネルギーはすべて映画づくりに注ぐようになった。
雑誌を始めたばかりの頃、アートのセクションはかなり競争が激しかった。ジョーダン・ウルフソンやダニー・マクドナルド、ペトラ・コートライトのような人たちにインタビューをしていた。今では、その枠を埋めるのはずっと難しくなっている。前号では、僕の知る限りギャラリーでの展示の経験が全くないAngelicismやlola dement myersを取り上げた。もしかすると、それこそが今の「自由」なのかもしれない。
Suzuki, 2011
Profile, 2010
Untitled (Apple & Incense), 2010
Untitled (T-Shirt) 2009
Untitled (Philadelphia Drawing), 2006
All images by Asher Penn.
プロフィール
Asher Penn
アッシャー・ペン|アーティスト、映像作家、編集者。ロードアイランド・スクール・オブ・デザインで写真を学んだ後、ストーニーブルック大学で映画の修士号(MFA)を取得。2012年、オンラインメディア「Sex Magazine」を創刊。ニューヨークを拠点に、アーティストやデザイナー、写真家、音楽家など、ポストインターネット時代を彩る多様なクリエイターへのインタビューを通じて、アートやライフスタイルへの独自の価値観を伝える。2020年からはプリント版もスタート。最新号はIssue #16。
Instagram
https://www.instagram.com/ashermixtapehell/
Official Website
https://www.asherpenn.com/
ピックアップ
PROMOTION
Gramicci Fall & Winter 26 Collection
Gramicci
2026年9月10日
PROMOTION
アメリカじゃあ、MLP(メジャー・リーグ・ピックルボール)が盛り上がってるってよ!
東レ
2026年9月16日
PROMOTION
オンもオフもイル ビゾンテのコンビネーションレザー。
IL BISONTE
2026年9月15日
PROMOTION
〈ロンハーマン〉だけの特別な〈ブルックス ブラザーズ〉。
Brooks Brothers for Ron Herman
2026年8月24日
PROMOTION
レノン・ギャラガーのGOLF DAYS。
Onitsuka Tiger
2026年8月20日
PROMOTION
きみも建設業界で働いてみない?/施工管理・栗原拓也さん
2026年9月3日
PROMOTION
シティボーイ&ガール meets ABZORB 2010
New Balance
2026年8月27日
PROMOTION
エスプレッソのように、強烈なショットを。
YONEX
2026年9月11日
PROMOTION
ジビッツ™で遊んで、〈クロックス〉で寄り道。
Crocs
2026年8月28日
PROMOTION
きみも建設業界で働いてみない?/営業・設計 小暮太遊さん
2026年9月3日
PROMOTION
One Pair. Keep Learning.〈HOKA〉のクリフトン UTLで街を歩き、今⽇も学ぶ。
HOKA
2026年9月4日
PROMOTION
藤原ヒロシが〈モンクレール〉と旅に出たなら。
MONCLER × FRGMT
2026年8月28日
PROMOTION
波の街、〈UGG〉のブーツ。
UGG
2026年9月16日
PROMOTION
きみも建設業界で働いてみない?/交通工事・伊東雄太さん
2026年9月3日
PROMOTION
Amuse-toi bien !
agnès b.
2026年9月16日
PROMOTION
きみも建設業界で働いてみない?/施工管理・板川直人さん
2026年9月3日
PROMOTION
普段使いの札幌案内。
石井杏奈さんと巡る秋の札幌。
2026年9月14日
PROMOTION
スニーカーも服も、遊びも。ぜんぶ『オニツカタイガー新宿』で。
2026年9月11日