ライフスタイル
ようこそ
あたらしい私のいえは、東京 森のいえ Vol.3
photo & text: Mari Shamoto
edit: Masaru Tatsuki
2026年1月26日
photo: Masaru Tatsuki
ヨウが産まれたころ、玄関を出ると金木犀の香りがした。トシキが家のすぐ下に大きな金木犀の木があると教えてくれた。去年は全く気づかなかった。
私のお腹の中にいた子は、予定日の2週間も早く産まれてきた。
その日はいつも通りの休日で、助産院での定期検診のあと、スーパーに行って1週間分の食材を買う。帰りにいつものパン屋に寄り「このお腹で来るのは今日が最後になるかな」と話をした。店主はブリオッシュの残り生地で焼いたという小さなパンを“べべ ブリオッシュ”と言ってプレゼントしてくれた。店を出ると外にはたまたま友人が並んでいて、たわいもない話をして別れた。夜は近所に住む家族と村内の食堂で夕食を共にする。お腹が重たいのでお座敷の壁にもたれかかりながらカツ定食を食べた。いい休日だった。
その日の深夜に私の身体は破水した。翌朝に入院の用意をもって助産院に来てねと言われる。痛みはなかったので、慌てることもなくゆっくりと支度をした。トシキは朝ごはんに“べべ ブリオッシュ”をテーブルに運ぶ。この後何が起こるか分からないからと言って、ふたりでお腹いっぱいに食べた。トシキとハグをして忘れ物がないか部屋中を見渡して玄関を出る。そしたらこの日も金木犀の香りがした。助産院までは車で1時間。この数ヶ月通った道なのに、知らない景色を見ているようだった。
ヨウは私のお腹から元気に産まれてきた。出てきた瞬間、声が聞こえて「あーこの子がお腹にいたのか」とおもった。そのあとすぐ顔をみて「あなただったのね」と。産前、「顔を見るまでは名前は考えられへん」と言っていたトシキは、子に“ヨウ”と名付けた。さっきまでお腹の中にいたはずなのに、次の日には私のおっぱいから乳を飲もうとしている姿を見ていたら、まだ自分と同体であるような気になった。
入院生活を終えて、3人で集落へ帰る。ヨウは黄疸の治療で退院が半日延びたので帰ってきた時には日が暮れていた。この日はすぐ上の自治会館で夏祭りの慰労会が行われていた。集落が賑やかな空気感の中、私たちは静かにヨウを迎えいれた。10月はじめというのにもう肌寒くて、あり合わせの毛布に包んでソファーに寝かす。コロンと横たわる身体はとてもとても小さく見えた。
翌日から近所に住む人たちが次々に会いに来てくれる。集落で産まれ育ったおばあちゃんは「こんな小さな子を抱っこするのはいつぶりだろう、涙が出そうだよ」と言った。「今度は野菜を持ってくるよ」とか「もっと日当たりのいい家を探してやる」とか、皆、私達家族に対してとても熱心だ。それは赤ん坊の存在が地域にとっても尊く、そして力強いものだということだった。
これまで、家のどの部屋にもカーテンを付けていなかった。(周りが木々に囲まれていて、人の目がない場所だから必要がなかった)けれどヨウがやってきたので寒さ対策として寝室にだけ取り付けることにした。直接朝日が入らなくなったので、朝が来ても薄暗い。そんな部屋の中で今日も3人が川の字で眠っている。ヨウが起きそうになると2人で頬に顔を擦り付ける。しかめっつらした表情が見たくて何度もするともちろんヨウは泣く。
ヨウ、
ようこそ我が家へ。
プロフィール
社本真里
しゃもと・まり | 1990年代、愛知県出身。土木業を営む両親・祖父母のもとに生まれる。名古屋芸術大学卒業後、都内の木造の注文住宅を中心とした設計事務所に勤め、たまたま檜原村の案件担当になったことがきっかけで、翌年に移住。2018年に、山の上に小さな木の家を建てて5年程生活。現在は村内の林業会社に勤めながら、家族で森の中の古いログハウスで暮らしている。
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