TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】大人の偽善と若者の反抗
執筆:橘玲
2026年2月16日
ジェームズ・ディーンが主演した『理由なき反抗(Rebel Without a Cause)』(1955)は、両親との関係に悩む17歳の傷つきやすい若者の物語だ。
あまりにも有名なこの映画は、どの学校でも友だちができず、転校を繰り返すジム(ディーン)が、ロサンゼルスに引っ越した直後に泥酔して警察署に連行されるところから始まる。彼は、いつも母親の尻に敷かれ、みんなからバカにされている父親に不満をもっていた。
その夜の警察署には、父親から嫌われていると思って家出した少女ジュディ(ナタリー・ウッド)と、拳銃で子犬を撃って補導された少年プラトー(サル・ミネオ)がいた。プラトーは裕福な家の子どもだが、父親が家族を捨て、母親も子どもに無関心で、黒人の家政婦に育てられていた。
翌日、高校に初登校するために家を出たジムはジュディを見かけて声をかけるが、彼女は不良グループの車に乗るという。課外授業でグリフィス天文台のプラネタリウムを見学したあと、ジムは不良グループのリーダー、バズにからまれ、ナイフで相手の服を切り合うゲームをやらされる。ジムがバズのナイフを払い落したことで、2人は「チッキーラン(チキンレース)」で勝負をつけることになった。崖に向かって車を走らせ、どちらが先に車から飛び降りるか(どちらが「チキン(臆病者)」か)を決めるのだ。
映画史に残るこのチキンレースで、ジムは崖の寸前で車から飛び降りるが、バズはジャケットの裾がドアノブに絡まって車もろとも転落してしまう。バズが死んだことに衝撃を受けたジムは警察に自首しようとするが両親に反対され、警察署に行っても知り合いの警部はおらず追い返され、警察沙汰になるのを嫌う不良グループのメンバーたちから追われることになる。
ジムとジュディは廃墟となった古い屋敷に隠れ、不良から脅されて自衛のために母親の銃を盗んできたプラトーもそこに加わる。3人は友情を誓い、やがてプラトーは眠りに落ち、ジムとジュディは屋敷の別の部屋で愛を語り、はじめてのキスをする。
ところが不良たちが屋敷に気づき、寝ているところを起こされたプラトーは取り乱して銃を発砲し、一人に傷を追わせてしまう。そこにジムとジュディが戻ってくるが、プラトーはジムが自分を裏切ったと責め、通報でかけつけてきた警官に追われて近くの天文台に立てこもる。
警官たちに囲まれるなか、ジムはプラトーを説得して銃と赤いジャケットを交換させ、銃からこっそり弾丸を抜いて返す。2人は天文台を出るが、弾の入っていない銃を振りかざしながら逃げようとするプラトーに警官が発砲、射殺してしまう。
ジムは「弾は抜いたのに」と叫び、地面に横たわるプラトーに「バカだな、なぜこんなことをしたんだ」と語りかけ号泣する。そんな彼を疎遠だった父親が慰め、これからはよい父親になると約束し、父と息子は和解する――という物語だ。
1945年に第二次世界大戦が終わると、戦争で荒廃したヨーロッパやアジアに対して、本土が被害を受けなかったアメリカは空前の好景気に沸き、「黄金時代」と呼ばれるようになった。この時代の雰囲気をよく伝える映画に、ジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ(American Graffiti)』(1973)がある。――その後、『スター・ウォーズ(Star Wars)』(1977)を制作することになるルーカスは1944年生まれで、カリフォルニアで過ごした高校時代を回想しているので、映画の舞台は実際には1960年代はじめになる。
ジェームズ・ディーンは1931年にインディアナ州に生まれ、6歳のときにロサンゼルス郊外のサンタモニカに転居した。9歳で母が病死すると、父はインディアナ州で農場を営むクエーカー教徒の姉夫婦に息子を預け、そこで育てられた。
終戦のときディーンは10代半ばだったが、ファシズムから「自由とデモクラシー(民主政)」を守るために戦場に行った「偉大な世代(Greatest Generation)」とちがって、徴兵年齢に達していなかった彼らの世代には(日本やヨーロッパとは異なり)空襲の記憶すらない。空前のゆたかさのなかで育ち、平和の恩恵を受けながらも大義(Cause)を与えられなかった「戦争を知らない子供たち」は、やがて「沈黙の世代(Silent Generation)」と名づけられた。
『理由なき反抗』では、アメリカの「理想の家族」を演じようとする親たちに、多感な子どもたちがその「偽善」を突く。これまでも不良少年はたくさんいただろうし、貴族の放蕩息子の話にも事欠かないが、中流白人家庭の「よい子」が親や地域社会に反抗し、ドロップアウトするというのはまったく新しい現象だった。
1950年代のアメリカは、「自由」をうたいながらも中上流階級の親たちは子どもたちを「良家の子女」に育てようとし、デモクラシーを賞揚しながらも、黒人には選挙権などの公民権がなく、南部では公然と人種差別が続いていた。建前と現実の落差に気づいた若者たちが、「大人の常識」を疑いはじめるのは必然だった。
政治思想的には、この世代間対立はリベラリズム(自由主義)とコミュニタリアニズム(共同体主義)の衝突として整理できるだろう。フランス革命に始まる近代の自由主義(啓蒙思想)では、すべての市民には普遍の人権があり、国家の主権者は王ではなく、主権(神から与えられた至上の権利)は市民の民主的な意思決定によって行使されることになっている。リベラリズムとは、個人を宗教やムラ社会のような共同体のくびきから解き放つ政治運動だ。
それに対してコミュニタリアンは、ヒトは徹底的に社会的な動物であり、家族や地域社会、宗教などの共同体に包摂されていなければ、安心や幸福を感じることはできないとする。日本では「リベラル」な哲学者とされるマイケル・サンデルは、『これからの「正義」の話をしよう』(鬼澤忍訳/ハヤカワ文庫NF)などで、共同体を解体し、利己的な個人を肯定するリベラリズムを強く批判している。
フランスの三色旗が「自由・平等・友愛(共同体)」であるように、わたしたちには自由も共同体も必要だし、(公正な)競争によって社会的・経済的な地位に差がつくのは仕方がないが、その一方で過度な格差は正義に反し、一定の平等も大事だと考えている。問題は、自由と共同体、自由競争と平等がつねに両立するとはかぎらないばかりか、しばしば対立することにある。
だが1950年代には、こうしたやっかいな問題はさほど意識されていなかった。純真な若者たちは、親や家族を大切に思っていただろうが、その一方で「大人たちの偽善」を批判し、社会をリベラルデモクラシーの建前に合わせていくことで、「よりよい社会」「よりよい未来」がつくれるはずだと信じていた。この楽天的な進歩主義から、60年代のカウンターカルチャーが生まれることになる。
『理由なき反抗』では、主人公のジムは家庭や学校、地域社会など自分のまわりの共同体に反抗したが、10年後にはそれは政治や社会に対する大規模な抗議行動へと変貌していく。『アメリカン・グラフィティ』で描かれた60年代はじめのカリフォルニアと、サンフランシスコのヘイト・アシュベリーに10万人ものヒッピーが集まった1967年の「サマー・オブ・ラブ」は別世界のようだが、その間5、6年しか経っていないことを考えれば時代の大きなうねりがわかるだろう。
こうした社会の変化を先取りした『理由なき反抗』は、これ以降、大量につくられることになる「ふつうの若者の大人への反抗」の物語の原型になった。これはもちろんアメリカに限ったことではなく、だからこそこの作品は世界中の若者を虜にしたのだ。
ところで、こうして「反抗」した若者たちも、いずれ結婚して子どもをもつようになる。だがいちど身につけた価値観はそう簡単には変わらないので、自分の子どもたちをイエや宗教のくびきに押し込め、若いときの自分を否定することには躊躇するだろう。こうして、ゆたかで平和な社会では世代が進むごとにリベラル化が進み、自由が拡大していく(スティーブン・ピンカー『21世紀の啓蒙 理性、科学、ヒューマニズム、進歩』橘明美、坂田雪子訳/草思社文庫)。
ジェームズ・ディーンは『理由なき反抗』と同年に公開された『エデンの東(East of Eden)』(1955)にも主演しているが、これは旧約聖書のカインとアベルの物語を下敷きにした父と息子の確執の話だった。だがその後、親はどんどんものわかりがよくなり、いまでは同性愛者やトランスジェンダーとしてカミングアウトした子どもを親が応援するという物語があふれている。親と子どもの価値観が同じになれば、価値観の対立は起こりようがない。
フロイト的な父親と息子の対立は、その後もスター・ウォーズやエヴァンゲリオンで描かれたが、観客はそれを神話のような「(自分とは関係のない)物語」として受け入れたのではないだろうか。――フロイトのエディプスコンプレックスでは、幼い息子は母親と性交したいと思うが、父親に去勢されるのではないかという恐怖によって、その性的欲望を無意識に抑圧するとされた。もちろん、この荒唐無稽な「似非心理学」は現在では完全に否定されている。
日本でも親子の対立が描かれたのは、不良になった娘を『エクソシスト(The Exorcist)』(1973)の悪魔にとりつかれた娘のように描いた1980年代の『積み木くずし』が最後ではないだろうか。いまでは、親(とりわけ母親)と子どもは「友だち」関係に近づいているらしい(博報堂生活総合研究所『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』光文社新書)。
こうして世代間対立は、価値観から経済的なものへと変わっていった。日本では1990年代のバブル崩壊による不況で、当時40~50代だった団塊の世代の雇用を守るために大企業が新卒採用を大幅に削減したことで、新卒で正社員になれなかった「氷河期世代(ロスジェネ世代)」を生んだ。近年では、団塊の世代が退職して年金生活に移行したことで、増大する社会保障費を賄うために現役世代が犠牲にされているとの(真っ当な)不満が高まり、政権与党が選挙で苦戦する原因になった。
これはアメリカも同じで、1960年代のカウンターカルチャーを牽引したベビーブーマーが、孫にあたるZ世代(1990年代後半以降に生まれた、デジタルネイティブの最初の世代)から、「環境保護や景観を名目に住宅の新規建設を妨害し、既得権にしがみついて不動産価格を高騰させ、大量のホームレスを生み出し、若者を都市に住めなくしている元凶」と批判されている。この対立は「ブーマーvsズーマー」と呼ばれ、ズーマー(Z世代)の怒りが34歳のゾーラン・マムダニをニューヨーク市長の座に押し上げた。
若者はいつの時代も「反抗」しようとするが、その対象は身近なもの(親や地域社会)から政治や司法(警察)、そして社会やシステム、「グローバル資本主義」へと、どんどん抽象化していった。
ジェームズ・ディーンは『理由なき反抗』が公開される1カ月前に自動車事故で24歳で夭折し、「永遠の青春」を象徴する存在として伝説になった。その影響は世界中の若者たちに広がり、ファッションリーダーとしても、ジーンズと革ジャン(モーターサイクルジャケット)というカジュアルなスタイルを流行させた。それまでアメリカの上中流階級の高校生はスーツとドレスが当たり前だったから、ファッションそのものが「大人への反抗」のシンボルになったのだ。――本格的に「若者のファッション」が登場するのは、1960年代の「スウィンギング・ロンドン(ビートルズなどの音楽と、ミニスカートやモッズ・ルックなどのファッションが世界を席捲した)」を待たなければならないが、この話は別のところでしよう。
なお、この記事を読んで『理由なき反抗』を観てみようと思ったら、ジェームズ・ディーン演じるジムと、気弱な友人であるプラトーの関係に注目してみるのもいいだろう。プラトー役のサル・ミネオは映画公開から17年後のインタビューで、もともとの設定ではプラトーは同性愛者で、ジムに対して恋愛感情を抱いていることになっていたと語った。そのジムが自分を捨ててジュディ(ナタリー・ウッド)と恋人関係になったことで、裏切られたと感じたプラトーが自暴自棄に走る。50年代のアメリカでは同性愛は「神に対する罪」とされていたので、プラトーは死ななければならなかったのだ。
ジュディ役で一躍大スターになったナタリー・ウッドが主演し、ウォーレン・ベイティのデビュー作となった『草原の輝き(Splendor in the Grass)』(1961)は、『理由なき反抗』の6年後に公開された。世界大恐慌前夜の1928年のアメリカ・カンザスが舞台だが、保守的な親や家族の期待に苦しみ、「自分らしく生きる」ことを模索する高校生を描いて、1960年代はじめのアメリカ社会の雰囲気(世代間の価値観の対立)がよく表われている。
ナタリー・ウッドは結婚と離婚を繰り返したあと、1981年に43歳で死亡している。ヨットから転落して水死したとされたが、その後、他殺との疑惑も出て真相は謎のままだ。
プロフィール
橘玲
たちばな・あきら|1959年生まれ。2002年、小説『マネーロンダリング』でデビュー。2006年、小説『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補作となる。以上、二作に小説『タックスヘイヴン』を加えて〈マネーロンダリング三部作〉と呼ばれる。他に30万部を超える『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』、100万部超の『言ってはいけない』シリーズほか、新しい教養・啓蒙書でのベストセラーも多数。
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