カルチャー
濱田祐太郎さんに聞いた、今月の副読書。
Vol.2『迷ったら笑っといてください』
2026年1月6日
「副読書」とは教科書の補助的教材として用いる資料集など、二次的に参考にするための書物のこと。本連載では毎回1冊の本を取り上げ、併せて読みたい「副読書」を著者が自らレコメンド! 理解を深め世界を広げる〈副〉読書のススメ。
今月の本
『R-1ぐらんぷり』第16代王者となった盲目の芸人・濱田祐太郎の初著書となるエッセイ集。幼少期の思い出から、憧れたお笑い番組と自分の笑いのルーツ、吉本興業NSC大阪校での日々からR-1への挑戦、“イジり”について思うこと、“多様性”を謳うテレビ界への疑念などなど。「どれだけがんばっても無理なのかもしれない」という不安と「俺は面白いはずや」という自信の狭間で揺れながら、今日まで続いてきた芸人人生を振り返る。(太田出版)
濱田祐太郎さんが選んだ「副読書」3冊
身分の低い若者が王女と恋に落ちる。国王はそのことを気に入らず、闘技場にて若者を罰することに。それは、餓えた虎が待ち構える扉と、王女が控える扉の2つあるうちの一方を選ばせるというものだった……。1882年の短編で、物語中に謎が提示され解決は読者に委ねる、「リドル・ストーリー」として知られる。『謎の物語』収録。紀田順一郎編。(筑摩書房/ちくま文庫)
悪巧みをする少年ギャングたち。エネルギーありあまる彼らが計画をするのは、近所の廃屋に長年居住する貧乏な老人の家を内側から徹底的に破壊することだった。『情事の終り』や、映画『第三の男』の脚本を務めたことでも知られる著者グレアム・グリーンによる、衝撃の一編。『二十一の短篇〔新訳版〕』収録。高橋和久他訳。(早川書房/ハヤカワepi文庫)
シャーロック・ホームズシリーズ最初の短編集の冒頭を飾る作品。ベイカー街のホームズを訪ねてきたのは、マスクを着けた謎の依頼人。なんでも、一枚の写真を取り戻したいということで……。男性陣を翻弄する「アイリーン・アドラー」が登場。シャーロキアンの中でも人気の高い一作。『シャーロック・ホームズの冒険』収録。石田文子訳。(KADOKAWA/角川文庫)
「『逃走中』で逃げ切りたい」。盲目のお笑い芸人・濱田祐太郎さんが、某TV番組で「今後出演してみたい番組」を問われて返した一言。目が見えない障害のある人物が放つジョーク。簡単に笑っていいものか躊躇してしまいそうだけれど、スタジオでは何かがはじけたように笑いが起きていたし、自分も笑ってしまった。面白さが“迷い”を打ち消す瞬間だった。歯に衣着せぬ言葉を巧みに操り、世の中を斬る濱田さんのお笑いのスタイルは、2018年の『R-1ぐらんぷり』優勝以降もますます研ぎ澄まされている。このたび発売されたエッセイ本『迷ったら笑っといてください』は自身の半生を綴りつつ、そんな笑いのスタイルの核心に迫るエッセイと、刺激的なコラムが魅力の一冊だ。著者の濱田さんにお話を伺った。
「インタビューを元にした『クイック・ジャパン』の連載をまとめたものです。コラムはすべてが仕上がった後に自分で書き足しました。インタビュアーが女性だったので、恥ずかしくて言い辛かった下ネタも詰め込みたくて(笑)」
本書では実生活のリアルが開示されるだけでなく、目が見えないことに対する周囲とのズレや摩擦について、実体験を交えながら様々な角度から思考し、ハッキリと意思表示する文章が印象的だ。
「インタビューなので、突発的に喋った部分もあります。そもそも僕は周りの芸人さんたちと違って、ネタも漫談も本当にあったことを喋るスタイル。決められたセリフや設定より、アクシデントや偶然のほうが面白いと思っているんです。何か起きたらラッキー。本書も会話から生まれたことがそのまま書かれているのが面白いかも」
笑いのルーツは『ライオンのごきげんよう』『人志松本のすべらない話』などトーク番組にあったという濱田さん。「生活の中にある生々しさ、その面白さが好きだった」とか。挙げてくれた副読書も、自身の生活のなかで偶然出合ったものだった。
「それまで漫画さえほぼ読んだことがなかったのですが、特別支援学校に通っていた20歳前後の頃から、ガラケーの音声読み上げ機能を用いて、様々な『ケータイ小説サイト』を見るようになりました。ファンタジー系の創作をはじめ都市伝説や怖い話などの物語に触れるうちに、趣味で翻訳をしているとある方の個人ブログを見つけました。ロアルド・ダール、サキなど著作権の切れた外国の短編を翻訳して投稿していて。その方の文章の言い回しと物語の面白さに引き込まれたんです。今はもうそのURLもわからなくなってしまったのですが、“謎の翻訳家”のおかげで読書を楽しめました」
「女か虎か」と「廃物破壊者たち」はそのブログから。
「この2作は結末が予想外。『女か虎か』は、読者を物語に引き込んだ段階で、突如“この物語はここで終わるのだが”との一文が入り、謎が解決されないまま終わる。呆気にとられるおかしさというか。『廃物破壊者たち』も同様の面白さがあって、音声読み上げ機能の淡々とした語りで聞いていたのに、最後の衝撃の展開に思わず声を出して笑ってしまいました。鋭い切り口と面白い結末がある短編作品は落語や漫談っぽい」
「ボヘミア王のスキャンダル」も同時期に出合った一作。これもホームズシリーズを個人的に翻訳しているブログを発見したのだとか。
「『ホームズシリーズ』は長編も短編も含めすべて読みました。芸人になった後で、もっと活躍するためのヒントを探しているときに、この作品を思い出しました。あるシーンで、ホームズと助手のワトソンが同じ階段を見ているのですが、ホームズはその『段数』まで数えているんです。そこでホームズがワトソンに“見ている”ことと“観察する”ことの違いを諭すシーンが印象的で。観察することの大切さはとても示唆に富みますね。人の気持ちを想像してみたり、聞こえてくる話を傾聴してみたり、現実に生かせる話だなと。あの頃、インターネットでこんな“名作”と出合えてよかった。『ソードアート・オンライン』の出来損ないみたいな創作物にハマらなくてよかった(笑)」
これら3作品は「フィクション」の作品。リアルに基づく漫談の形式とは相反するが、その魅力はどのように捉えているのか。
「空想の面白さと文章・ラジオは相性がいい。例えば、『頭から冷やし中華をかぶったおじさんが前から歩いてきて、それが美輪明宏そっくりだった』と話すとき、文章やラジオでは、聴く人の頭の中に空想上の美輪さんのイメージが広がっていって面白さが連鎖する。でも僕が同じことをテレビや舞台上で喋る場合は、あくまでも“その話をする濱田祐太郎”しか見えない。どのメディアを通して人に伝わるかによって面白さの意味が変わってくると思うんですよね」
その読書体験が耳からくるものだからこその気づきかもしれない。本来想定される文字を追う“読書”とは異なり、音声読み上げ機能を用いた「ラジオ的」な楽しみ方で発見したフィクションの魅力。短編の味わいを漫談に生かしつつも、リアルな身体から発する言葉と、見えないイメージから投げかける言葉を使い分ける。濱田さんの言葉の面白さは、その言葉が伝わるときの感覚を「観察」しているからこそ生まれている。本屋やネットショップでは見つけにくい名作短編と偶然の出合いがあったのも、ビジュアルや情報から判断していないことが影響しているはず。現在はどのように読書しているのか。
「『オーディオブック』も興味があるのですが、目が見えない状態でのクレジットカードの作成が容易ではなく、今は支払う手立てがない状態で。あの頃は個性的で不思議な個人サイトが多くて、思いがけずいろんな作品に出合うことができた気がします。いつかは自分でも何か書いてみたいし、その前に、全国放送のTV番組MCの夢も叶えないとですね」
プロフィール
濱田祐太郎
はまだ・ゆうたろう|1989年、兵庫県生まれ。’18年『R-1ぐらんぷり』優勝。『濱田祐太郎のブラリモウドク』は’25年の「日本民間放送連盟賞」のテレビ・準グランプリ。
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